異世界わんこ

洋里

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第一章

別れの朝

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 ひよどり亭に帰ったわたしは、そのままコータやミミア達に、事の顛末てんまつと、これからの指針を話すことにした。
 領主が迎えに来るのは明日の昼、その前に、この町を出なければならないから、やはり今夜のうちに話しておかなければ。
 一階の居酒屋は、今夜は臨時休業となっていた。
 売る為のエールが、昼間で売り切れてしまったのだから、仕方がないだろう。
 シンとした中で、ミミアの部屋に集まったみんなに、領主邸での出来事を話す。
「……と言う訳で、残念だけど、みんなとコリン村に行くのは無理になっちゃった。 明日の早朝、ここを立とうと思う」
 みるみる、ミミアもリムも、目にいっぱいの涙を溜めている。
「そんな~、マナちゃんともココちゃんとも、ハクちゃんミルクちゃんとも、これから、まだまだ一緒だと思ってたのに~」
「領主の野郎、ろくでもねぇな」
「領主、許すまじ」
 イシュリーまでも、怒ってくれている。
「犬を守りたいのは、わたしの気持ちだし。 それで、みんなやコリン村の人達に迷惑はかけられないから」
「うん。 まぁ、それは分かった。 けどせめて、この町を無事に出る手助けくらいはさせてくれ」
 コータが続ける、
「最初、この町に入った時、関所があったろ。 もしかしたら、領主の通達で止められるかもしれない。 俺等の馬車に隠れて、町の外に出てから逃げればいいんだよ」
「そっか、確かに~」
「そ~だよマナちゃん、それくらいさせて~」
 べそをかきながら、リムもうなずく。
「そうと決まれば、俺等も出立の準備が要るな。 朝イチで交易ギルドの倉庫に行って、馬車も取って来なくちゃならねぇし。 荷物まとめて早寝するぞ」
「マナちゃん~。 じゃあこれ、預かってたドードーのお肉、返しておくね~」
 ミミアも泣きながら、バッグから肉の包みを取り出す。
「これは、ミミア達が……」
と、言いかけた所で、ココが割って入ってくる。
「お肉は、ココ達の!」
「「「 !!!!! 」」」
「は、はじめて、ココちゃんの声が聞こえた~」
「すげえ、本当に頭ン中に声がしたわ」
「うれしい~。 ココちゃんの声かわいい~」
 お肉を、ミミア達に譲ろうとしたのに焦ったのか、皆にテレパシーを送ってしまったようだ。
 騒ぐ皆をよそに、またココは、ぷいっと知らんふりをする、が、目線はずっとお肉から離そうとしない。
「ごめんね、お肉やっぱり欲しいです」
「どうぞどうぞ~、ココちゃんの声が聞けただけで満足だよ~」
「ココちゃん、ドードーのお肉、好きなんだね~」
 結局、残っているドードーの肉は、全部こちらで貰える事になってしまった。
 ココのひと声、おそるべしである。

 コータ達の部屋を出ると、お肉は魔法バッグに入れて、今度は、階下のアニタさんに事情を話しに行く。
 アニタさんは、少しずつ店内の片付けをしていた。
「アニタさん、ちょっといいかな?」
「あぁ、あんたかい、おつかれさん。 領主様のとこの食事はおいしかったかい?」
「うん。 それでなんだけど、実はね……」
 そうして、アニタさんにも事情を話す。
「やっぱり。 あの領主ときたら、ろくでもなかったねぇ」
「それで、アニタさんにも、わたしが逃げる事で、迷惑をかけちゃうかもしれないから」
「そんな事はいいんだよ、気にするんじゃないよ」
「ううん。 絶対に、しつこく行方を聞かれたりすると思うから、そのお詫びに、これをもらっておいて欲しくって」
 そう言って、アームレスリングの優勝賞品として出していた、トパーズの魔宝石をアニタさんに手渡す。
「これね、睡眠誘導・小の付与効果が付いていて、安眠のお守り程度のものらしいんだけど、アニタさんにもらって欲しいんだ」
「安眠のお守り……」
 するとアニタさんは、静かに、静かに泣き出した。
「アニタさん?」
 びっくりして声をかけると、アニタさんは、その涙と同じくらい静かに語り出す。
「ごめんよ、こんな泣いたりして。 あんたが、どうって訳じゃないから心配しなさんな。 ただ、この石が安眠のお守りって聞いたらねぇ。 ちょっと、たまんなくなっちまってねぇ」
「厨房に挨拶をって、今日、あんた言ってくれてたろ? 実はねぇ、あそこで腕を振るってくれていた亭主は、もうとっくに亡くなってるんだよ」
「もう2年と半年前になるかねぇ、悪性腫瘍しゅようってやつだよ。 回復魔法で対処してもらったけど、もう手遅れでねぇ。 でも、亡くなるまでには猶予ゆうよがあった」
「それであの人は、あたしと、このひよどり亭の行く末を酷く心配してくれてねぇ。 大金はたいて、高名な魔術師から、デク人形を買ってきたんだよ」
「そのデク人形に自分の料理の技術を、そっくりそのまんま移してもらって、 『これで、お前もひよどり亭も安心だ』 って。 そう言って、笑顔で逝っちまった」
「でもあたしは、あの人が亡くなってからというもの、寂しくって眠れなくなっちまって。 あの人の料理は、変わらずあるのに、あの人が、もういないってのが辛くてねぇ。 毎日がむしゃらに働いて、倒れ込むようにしか、寝られなくなっちまったんだよ」
「だから、あんたのくれた、この安眠のお守りが、あの人からのメッセージみたいに思えちまってねぇ。 『おまえ、ちゃんと寝ろよ』 って、言われてるような気がして。 ほんと、ありがとうねぇ、大事にさせてもらうよ」
 わたしも、聞いているうちに、涙が出て止まらなくなってしまっていた。
 話し終わったアニタさんと、抱き合って、一緒にさめざめと泣いて、泣いて。
 泣き疲れた頃に、ふっ、と気が抜けてしまった。
 アニタさんも、ちょっと照れたように、
「さぁさ、湿っぽくなっちまって、悪かったね。 水分補給で、熱いお茶でも飲もうか」
 そう言って、お茶を入れに、カウンターの中に入って行く。
「明日の朝は、お弁当をたくさん持たせてやるからね。 亭主のデク人形に、一晩かけて、たっぷり弁当をこさえるように言ったからね。 あんた、魔法バッグは買ったって言ってたかい? そこの、交易ギルドからの優勝賞品の、ソーダ水とジンジャーエールも、入るようなら入れちまいな。 旅の間に、飲み食いに困るようじゃ、いけないからね」

 翌朝、まだ日も登らない暗いうちから、わたし達は起き出して、出立の支度を始めていた。
 朝一番に交易ギルドに行って、馬車を取って来るためだ。
 アニタさんも、付き合って起きてきてくれて、用意されていたお弁当を、数十個もカウンターに並べている。
「あんた達、2組に分かれるんなら、ちゃんと、それぞれで分けて魔法バッグに入れるんだよ。 飲み水も、こっちのタンクにたっぷり汲んでおいたから、入るようなら入れちまいな」
「アニタさん、ありがとう~」
 ミミアは、お礼を言いながら、魔法バッグに、いくつかのお弁当と水のタンクを2個入れる。
 残りは、全部こちらで引き受ける。
 だが、お弁当40個に、犬用の食事60食、犬用のおやつの固焼きクッキー100g入りが3袋、水のタンクが8個。
 さすがに、多い気はする。
 まぁ、全然、余裕で入るので貰うけど。
 あとは、宿代と食事代に、このお弁当の料金を精算したい、と言うと、コータにもアニタさんにも、思いっきり拒否されてしまう。
「マナちゃんは、これから逃亡生活なんだから、現金は大事にしておけよ」
 アニタさんも、
「あんたから、お金なんてもらえないよ。 お守りも貰った事だし十分。 それよりも、ほとぼりが冷めたら、また絶対に顔を見せに来ておくれ」
 そう言って、抱きしめてくれた。
 また、鼻がツンとして、涙がうるっと出そうになるが、何とかこらえる。
 アニタさんを、抱き締め返しながら、
「絶対、絶対、また会いに来ます」
 そう約束した。
 アニタさんから、離れると、
「マナちゃん、これ」
 そう言って、コータに、何やら紙片を渡される。
「コリン村での俺等の住処。 交易で旅に出てる事も多いけど、手紙くれるなり、その内、訪ねて来るなりしてくれよ。 待ってるからさ」
「うん。 絶対、絶対、会いに行くよ」
「マナちゃん~、本当だよ、絶対だよ~」
「待ってるからね~」
 また、ミミアとリムは、泣き出してしまう。
 イシュリーも、うつむいてこらえているようだ。
「さ、じゃあ作戦決行だ。 俺等は馬車を取って来るから、後は、よろしくな」
「いってらっしゃい、お願いします」
 そうして、コータとイシュリーは、まだ薄暗い中を出て行った。
 わたしは、部屋でディアンドルに着替えて、フード付きマントを羽織りフードを目深に被る。
 足元は、冒険者用の膝下ブーツだ。
 これなら、地元の人と大差ないので目立たないだろう。
 犬達には、魔法バッグに入ってもらう。
 荷物は、全て魔法バッグに入れてあるので、これで忘れ物はないな。
 指差し確認して、部屋を出る。
 たったの4泊5日の滞在だったのに、この部屋から出るのが寂しく感じる。
「マナちゃん~、馬車来たよ~」
 小さく呼ばれて、階下に下りる。
 もう一度、アニタさんに、しっかりと抱きついて、
「達者でね」
 ポン ポン と優しく背中をたたかれる。
 そうして、店の入り口で待つ馬車に乗り込んだ。
 ミミアとリムも、
「じゃあ、アニタさんありがとう~」
 お礼もそこそこに、馬車に乗る。
 皆が乗り込んだのを確認すると、コータが、無言で馬車を動かす。
 さぁ、まずは関所を通過できるかどうかだ。





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