きっと、叶うから

横田碧翔

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低学年編

市大会決勝トーナメント

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 予選から一週間後、決勝トーナメント一回戦の日になった。予選を二位で通過した僕たちは、他のグループを一位で通過したチームとの対戦だ。それでも、勝てる気がしていた。僕と勇気を中心に攻撃をして、勇武を中心に守備をする。この作戦なら、格上のチームとも互角に戦える。それだけの力がついている。全員がそう信じていた。
「いいか。今日からは決勝トーナメントだ。負けたら終わりだ。何がなんでも勝たなくちゃ意味がない。相手が強いとかそんなことは関係ない。さぁいこう!」
試合前のミーティングで、監督が熱い言葉をかけてくれ、僕たちのやる気は最高潮に達する。ドクドクと心臓から血液が前身に流れていくのがよく分かる。身体が軽い。コンディションは最高だ。
「両チーム整列お願いします」
審判から整列の合図があり、相手チームと正面に向かい合う。だが、並んですぐに、思わず後退りしてしまった。僕の正面に立った相手選手は、今まで会ってきた同い年の誰よりも、ダントツで背が高い。他の選手も大きい選手が多いが、その選手は特別だった。びびりそうになっている自分に気づき、みなぎっていた熱を失ってはいけないと、さっきよりも近くに寄って整列し直す。最初は、思わずその大きさにびびってしまったけれど、よく見れば体も細いし、顔はなんだか覇気のない顔をしている。デカいだけという感じだ。
「これより試合を始めます。フェアプレーでお願いします。礼!」
審判の掛け声と同時に礼をしてから、握手をするために一歩踏み込む。
「お願いします!」
もう怖くないぞという意味を込めて、力強く相手選手の手を握る。だが、向こうは特に表情も変えず、ほとんど握り返してもこなかった。

「マジで勝とうぜ。いくぞ!」
「おー!」
勇武の掛け声に全員が声を合わせて反応し、円陣から自分のポジションに散る。気合は十分。ジャイアントキリングだ。
 ピッー!審判の笛が鳴り、僕たちボールで試合が始まる。僕と勇気がパス交換をしながらドリブルで切り込んでいく。僕が一人目を左にかわして、二人目が来たところで勇気にパスを出す。パスを受けた勇気がそのまま右にかわして、また僕にパスを戻す。いいリズムだ。ドリブルだけでなく、パスの選択肢があることで相手が混乱しているのが分かる。これなら、相手が強くても通用する。このままゴールまで、そう思った瞬間、僕の体は宙に舞った。スライディングでボールごと吹っ飛ばされたのだ。僕にスライディングした相手選手はすぐに立ち上がると、僕らのゴールめがけて、思いっきりボールを蹴り上げる。高く上がったボールが僕らのゴールに向かって飛んでいく。だが大丈夫だ。後ろには勇武がいる。ゴール手前で勢いを失ったボールの落下地点に勇武が入り、ヘディングで跳ね返そうとする。その寸前、ボールと勇武の間にあのデカブツが現れた。デカブツは飛んできたボールを胸でトラップすると、そのまま体を半回転させてボレーシュートを放った。一瞬の出来事だった。会場にいる全員が、その美しい動きに見惚れていた。開始二分、僕らは失点した。

 その後も、僕らは得点できずに失点をし続け、前半終了時には0―5。もう負けが決まったようなものだった。
「一回、失点のことは忘れよう。相手は強いしこれはしょうがない。とにかく一点取ろう!」
そう言って、監督は僕らを鼓舞するが、もう誰も聞いていない。みんな戦意喪失してしまっている。これでは戦えない。
「切り替えようよ!一点でも取ろうよ!諦めるなよ!」
僕も声をかけるが誰も反応しない。悔しい。なんで諦めるのか。まだ六点取れば勝てるじゃないか。だが、そう思っているのは僕だけだった。

 後半開始と同時に、いきなりデカブツがドリブルで仕掛けてくる。ここでボールを奪えれば、少しは士気が高まるはずだ。僕はがむしゃらにボールを奪いにいく。右に、左に体を振ってフェイントかけてくるが、なんとか食らいつく。ここが勝負の分かれ目だと僕はなんとなく勘づいている。なんとしても抜かれるわけにはいかない。フェイントについてこられたことに驚いたのか、相手の足が一瞬止まる。ここしかない。僕は素早く右足を伸ばす。そのまま、僕の右足がボールに届く・・・その寸前、相手がボールを軽く蹴る。ボールは僕の股の下をゆっくり通り抜けて行く。狙われていた。わざと止まって、僕に足を出させたのだ。僕はまんまとその罠に引っかかったのだ。完敗だ。チームとしても、個人としても。それでも僕は諦めなかった。いや、認めたくなかったのだ。自分の実力はこんなものだと。所詮は井の中の蛙でしかなかったのだと。僕以外の味方は完全に足が止まっていたが、そんなことはもう関係ない。とにかく一点でも取りたかった。そのためにガムシャラにボールを追いかける。奪ったボールはパスもせず、ドリブルで一人、突っ込んでいく。取られたら死に物狂いでボールを取り返しに走る。それをひたすら繰り返した。途中で、悔しくて、苦しくて涙が止まらなくなった。それでも、僕は走り続けた。一度でも止まってしまったら、もう動けないと思ったから。

 結果は0―17のボロ負けだった。


低学年編 完
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