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2 呪いを解いてください
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私は皆に聞こえるように、ゆっくりとアルバート殿下に告げた。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
「……なんだと?」
「まさかお忘れですか? 婚約となったときに殿下は言いました。『私より多い魔力は必要ない』と。……そして、紋を私に刻んだのです」
その瞬間、アルバート殿下の顔が青ざめた。
「……な、なんだとアルバート」
「まさか、紋などと」
周囲の空気が一気に凍りつく。
殿下に付き従っていた騎士たちも、驚きに目を見開いた。
紋を刻む行為は、魔力を制限し、相手の行動を操る呪いの一種。
それを平民や身分の低い者に強いるのは重罪である。ましてや、婚約者に施すなど許されるはずもない。
「……紋を入れるのは、重罪だ」
驚いた誰か声が聞こえ、私は微笑み頷いた。
「そうです。……でも、ここにあるのです」
私はドレスのスカートをまくり上げた。淑女のあるまじき行為に、皆がざわりとする。
注目を感じながら、私は自分の足を皆に見えるようにさし示した。右側の太ももの部分に、紋が刻まれている。
「私とアルバート殿下は婚約関係にありました。私が告発するということは、私からの婚約破棄を意味します。……それでは、伯爵家の我が家は簡単につぶれてしまうでしょう」
私は冷静に、彼の目を見据えながら言葉を続けた。アルバート殿下は、もはや笑顔すら保てず、動揺が顔に浮かび上がる。
「だから、私が他言しないと思っていたのでしょう。事実、私はずっと黙っていました。婚約が続いている限りは」
「で、でも……」
「でも、殿下からの婚約破棄であれば問題ないでしょう。さあ、呪いを解いてください」
アルバートは唇を噛みしめ、しばらく沈黙した。その沈黙が長引くほど、周囲にいた者たちも事の重大さを悟り始めた。
「アルバート……紋を消しなさい」
「……わかり、ました」
王は諦めたような口調で命令すると、アルバートは悔しさを滲ませながらも了承した。
アルバートは、騎士に囲まれ私を睨みつけながら紋を消した。
途端私の中の魔力が解放された感覚があり、自分を取り戻せた気持ちになった。
「リリア様、アルバート殿下は自分の婚約者の魔力が高いからと紋を刻むような人間よ。残念だったわね」
私は静かに呟く。リリアは信じられないというようにわたしの事を見ている。
「アルバート殿下……どうしてそんな事を……。まさか、聖女である私が……こんな酷い目に……」
「ねえ、リリア様。あなたが聖女だと言っているような魔法は、私はとっくに習得していたわ。ただ使えなかった。この紋のせいで」
かつて、私は聖女として聖国に赴く予定だった。私は聖魔法が得意で、それを生かした仕事がしたいと思っていた。
父も賛成してくれていた。
しかし、王は聖女が国から出る事を望まなかった。王は私の魔力が強すぎることを恐れ、婚約を盾にして自由を奪ったのだ。
「……アルバート殿下、あなたは、私を所有物のように扱った」
彼は一言も言えず、ただその場に立ち尽くしていた。
彼の母親である王妃すらも、何も言わない。全てを知っていたのか、それともただ無関心だったのか。
――どちらにせよ、私にはもう関係ない。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
「……なんだと?」
「まさかお忘れですか? 婚約となったときに殿下は言いました。『私より多い魔力は必要ない』と。……そして、紋を私に刻んだのです」
その瞬間、アルバート殿下の顔が青ざめた。
「……な、なんだとアルバート」
「まさか、紋などと」
周囲の空気が一気に凍りつく。
殿下に付き従っていた騎士たちも、驚きに目を見開いた。
紋を刻む行為は、魔力を制限し、相手の行動を操る呪いの一種。
それを平民や身分の低い者に強いるのは重罪である。ましてや、婚約者に施すなど許されるはずもない。
「……紋を入れるのは、重罪だ」
驚いた誰か声が聞こえ、私は微笑み頷いた。
「そうです。……でも、ここにあるのです」
私はドレスのスカートをまくり上げた。淑女のあるまじき行為に、皆がざわりとする。
注目を感じながら、私は自分の足を皆に見えるようにさし示した。右側の太ももの部分に、紋が刻まれている。
「私とアルバート殿下は婚約関係にありました。私が告発するということは、私からの婚約破棄を意味します。……それでは、伯爵家の我が家は簡単につぶれてしまうでしょう」
私は冷静に、彼の目を見据えながら言葉を続けた。アルバート殿下は、もはや笑顔すら保てず、動揺が顔に浮かび上がる。
「だから、私が他言しないと思っていたのでしょう。事実、私はずっと黙っていました。婚約が続いている限りは」
「で、でも……」
「でも、殿下からの婚約破棄であれば問題ないでしょう。さあ、呪いを解いてください」
アルバートは唇を噛みしめ、しばらく沈黙した。その沈黙が長引くほど、周囲にいた者たちも事の重大さを悟り始めた。
「アルバート……紋を消しなさい」
「……わかり、ました」
王は諦めたような口調で命令すると、アルバートは悔しさを滲ませながらも了承した。
アルバートは、騎士に囲まれ私を睨みつけながら紋を消した。
途端私の中の魔力が解放された感覚があり、自分を取り戻せた気持ちになった。
「リリア様、アルバート殿下は自分の婚約者の魔力が高いからと紋を刻むような人間よ。残念だったわね」
私は静かに呟く。リリアは信じられないというようにわたしの事を見ている。
「アルバート殿下……どうしてそんな事を……。まさか、聖女である私が……こんな酷い目に……」
「ねえ、リリア様。あなたが聖女だと言っているような魔法は、私はとっくに習得していたわ。ただ使えなかった。この紋のせいで」
かつて、私は聖女として聖国に赴く予定だった。私は聖魔法が得意で、それを生かした仕事がしたいと思っていた。
父も賛成してくれていた。
しかし、王は聖女が国から出る事を望まなかった。王は私の魔力が強すぎることを恐れ、婚約を盾にして自由を奪ったのだ。
「……アルバート殿下、あなたは、私を所有物のように扱った」
彼は一言も言えず、ただその場に立ち尽くしていた。
彼の母親である王妃すらも、何も言わない。全てを知っていたのか、それともただ無関心だったのか。
――どちらにせよ、私にはもう関係ない。
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