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第13話 希望のために
しおりを挟む今は使われなくなった鉱山道を通り、小屋の真下で身を潜める。
(約束の時間までもう少し…)
朝の空気は冷たく、息が白い。 遠くで鳥の鳴き声が一瞬して、また静けさが戻る。
やがて――ガタン、ガタン…。 山間を抜けて、車輪の音が微かに響いた。
(動いた…時間通り。)
馬車が小屋の横に止まり、御者が馬を引き上げる。
(よし…)
コビーは鉱山道に戻り、横穴を抜けて小屋の床下へ。 そっと板を押し上げ、中の様子をうかがう。
小屋に入り、人気がないことだけ確認する。
(気配はなし……)
外へ回り込み、荷台底部の梁に括りつけられた布袋を指で探る。封緘紐に封蝋――王印。
(偽札じゃない……封は未開封、連番も揃ってる。王印も透かしも本物だ。よし。)
口を割ると、乾いた紙の匂いがふっと立った。
「ふぅー…」
息を整え、ドアを開けて外へ。 麻袋を抱え、鉱山道を抜けて走り出す。
(はぁ……はぁ……札束って見た目より重い……さすがに三千万ウィルは堪える……)
岩壁に囲まれた道を抜け、馬に袋を積み北へ。
山道の先――。
一見、誰もいないように見えた。 けれどコビーには、岩陰や木立の影に潜む兵士の気配がはっきりと分かっていた。
(やっぱりね…ナビルの兵士は命令に逆らわない…隠れたまま動かないなんて、ほんと礼儀正しいよね…)
わざと気づかないふりをして、馬を進める。 その背後、岩陰から低い声が漏れた。
「……通過した。後方より追尾せよ。」
砂利がこすれる音。 影が一斉に動いた。
(ほら、来た…でも想定済みだよ。)
左右の林道からも二騎ずつ。
(見逃さないってことだろうけど…)
コビーは川の浅瀬へ馬を進めた。 冷たい水が蹄を打ち、飛沫が足を濡らす。
(そろそろ主流のとこ…)
(見えた…あれだ!)
ガットが仕掛けた堰き止め。 一本の縄が川面から出ている。
(川を氾濫させれば、後ろの二騎は追ってこれない。)
馬上で身を乗り出し、距離を測る。
(これで!)
縄を思いきり引いた。
――ガラガラガラ!
ドシャアァァァー!
「な、なんだ!?洪水?さがれ!巻き込まれるぞ!」
轟音とともに水があふれ、濁流が走る。 一気に主流が崩れ、コビーと兵士を分断した。
(よし…あとは…北側の二騎だけ…ちゃんとついてきてね!)
「追えるのは我々二騎のみだ!絶対に見失うな!」
二騎が距離を詰めてくる。
(焦ってるね…そんなに詰めるとバレちゃうよ?)
コビーは森に入り、入口で―― 小さな筒に火打ちを走らせ、地面に叩きつけた。
ボン! 白煙が一気にひろがった。
「煙幕?ごほっごほっ…」
「援軍を要請しろ!私だけでも追う!森にいるのは確かだ!」
「はっ!」
一騎が走り戻る。
「用意周到なやつらめ…」
白煙の中を右へ、左へ。 枝を裂きながら、森を縫って走る。
(ついてこれないみたいだね…)
やがて洞窟の影に身を隠した。 荒い呼吸の奥で、かすかに笑みを浮かべる。
(この身代金は、僕たちの希望だ。)
(ガット……王女さんを頼んだよ……)
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