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ラクロス編
第5話 角煮の沙織さん
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次の日――
大学キャンパス内。
昼前の食堂は、講義の合間に集まった学生たちでほどよく賑わっていた。
食器の触れ合う音、注文を呼ぶ声、遠くで笑う声が混ざり合い、柔らかな喧騒をつくっている。
その一角、窓際のテーブルで彩音は一人、トレーも置かずに座っていた。
スマホを机に伏せ、時折入口のほうへ視線をやる。
隣には、いつものように守護霊さんが腰を下ろしている。
「彩音ー!」
「あ、沙織さん。」
肩にバッグを掛けた沙織が、少し急いだ足取りで近づいてきた。
「ごめんごめん。遅くなって。」
「はいこれ…彩音はいっぱい食べるから少し多めに。」
笑いながら、沙織はビニール袋をテーブルの上に置いた。
隣にいた守護霊さんが、彩音より先にそのビニール袋を覗き込んだ。
そして――
ごくり…
「ありがとうございます。」
彩音の口元にも、自然と笑みがこぼれる。
ビニール袋の中には、透明なタッパーがひとつ。 その中いっぱいに、照りのある角煮がぎっしりと詰まっていた。
「おぉ…こんなに…」
「ふふふっ。いい顔するねぇ…彩音は。」
「え…」
「いや、こっちがうれしくなるんだわ。」
「そういう顔されると。」
沙織はほおづえをつき、楽しそうに彩音をじっと見つめる。
「ははっ…ですかね?」
彩音は少し照れたように笑った。
「ほんっとかわいいやつだな彩音は!」
頭をがしがしと撫でられ、
「いたたた…」
彩音が小さく声を上げる。
「沙織さん、どうやってこんなにほろほろの角煮出来るんですか?」
「ん?それは…」
「それは?」
彩音と守護霊さんが、そろって前のめりになる。
「企業秘密。」
「……」
「だって教えたら彩音のこのうれしそうな顔見れなくなるじゃん?」
ニヤリと、沙織が笑う。
こくり。と守護霊さん。
「いやいやいやいや…」
彩音はぶんぶんと首を振った。
「私には作れないですよ…」
「ふふふっ。じゃあ少しだけ。」
沙織は声を落とし、指を一本立てる。
「私は角煮作るとき赤ワイン使って、6時間ぐらい煮込む。」
「仕込みはネットとか出てるやり方と同じだよ。」
「赤ワインかぁ…」
「高級な角煮だ…」
こくこく。
「あとは国産のいい豚肉を使う。」
「…超高級な角煮だ…」
こくこくこく。
「ふふっ。まぁ、角煮の話はこんくらいで。」
沙織は軽く手を叩いた。
「で、例の梶原真夏の話。」
「はい。」
こくり。
二人同時に、うなづく。
「明日、西川時間取れるから帰りにガスト…いいかな?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「うん。じゃあ決まりね。」
椅子が小さく音を立て、沙織が立ち上がる。
「また、LINEするから。」
「よろしくね?」
「はい。」
「こくり。」
「ふふっ。」
沙織は振り向きざまに片手を上げ、そのまま人の流れの中へと消えていった。
彩音はしばらく、その背中を見送ってから、そっとビニール袋に視線を落とす。
(角煮…おいしくいただきます…)
大学キャンパス内。
昼前の食堂は、講義の合間に集まった学生たちでほどよく賑わっていた。
食器の触れ合う音、注文を呼ぶ声、遠くで笑う声が混ざり合い、柔らかな喧騒をつくっている。
その一角、窓際のテーブルで彩音は一人、トレーも置かずに座っていた。
スマホを机に伏せ、時折入口のほうへ視線をやる。
隣には、いつものように守護霊さんが腰を下ろしている。
「彩音ー!」
「あ、沙織さん。」
肩にバッグを掛けた沙織が、少し急いだ足取りで近づいてきた。
「ごめんごめん。遅くなって。」
「はいこれ…彩音はいっぱい食べるから少し多めに。」
笑いながら、沙織はビニール袋をテーブルの上に置いた。
隣にいた守護霊さんが、彩音より先にそのビニール袋を覗き込んだ。
そして――
ごくり…
「ありがとうございます。」
彩音の口元にも、自然と笑みがこぼれる。
ビニール袋の中には、透明なタッパーがひとつ。 その中いっぱいに、照りのある角煮がぎっしりと詰まっていた。
「おぉ…こんなに…」
「ふふふっ。いい顔するねぇ…彩音は。」
「え…」
「いや、こっちがうれしくなるんだわ。」
「そういう顔されると。」
沙織はほおづえをつき、楽しそうに彩音をじっと見つめる。
「ははっ…ですかね?」
彩音は少し照れたように笑った。
「ほんっとかわいいやつだな彩音は!」
頭をがしがしと撫でられ、
「いたたた…」
彩音が小さく声を上げる。
「沙織さん、どうやってこんなにほろほろの角煮出来るんですか?」
「ん?それは…」
「それは?」
彩音と守護霊さんが、そろって前のめりになる。
「企業秘密。」
「……」
「だって教えたら彩音のこのうれしそうな顔見れなくなるじゃん?」
ニヤリと、沙織が笑う。
こくり。と守護霊さん。
「いやいやいやいや…」
彩音はぶんぶんと首を振った。
「私には作れないですよ…」
「ふふふっ。じゃあ少しだけ。」
沙織は声を落とし、指を一本立てる。
「私は角煮作るとき赤ワイン使って、6時間ぐらい煮込む。」
「仕込みはネットとか出てるやり方と同じだよ。」
「赤ワインかぁ…」
「高級な角煮だ…」
こくこく。
「あとは国産のいい豚肉を使う。」
「…超高級な角煮だ…」
こくこくこく。
「ふふっ。まぁ、角煮の話はこんくらいで。」
沙織は軽く手を叩いた。
「で、例の梶原真夏の話。」
「はい。」
こくり。
二人同時に、うなづく。
「明日、西川時間取れるから帰りにガスト…いいかな?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「うん。じゃあ決まりね。」
椅子が小さく音を立て、沙織が立ち上がる。
「また、LINEするから。」
「よろしくね?」
「はい。」
「こくり。」
「ふふっ。」
沙織は振り向きざまに片手を上げ、そのまま人の流れの中へと消えていった。
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