オーデション〜リリース前

のーまじん

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パラサイト

予兆

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  外は、心地よい日射しが降り注ぎ穏やかな初夏の風が私の頬を撫でて行く。
 長山の車に若葉さんが同乗するので、私は秋吉と座っていた後部席ではなく助手席に座り、それを見た運転席の長山が思い付いたように若葉溶生の曲をかけてくれた。

 それは、私が知らない新しい若葉溶生の曲であり、長山達には懐かしい学生時代の曲のようだった。

 ここからは一般道を走り、若葉溶生を迎えにゆく。



 車に流れる若葉のゲーム曲は、90年代初頭に流行した怪奇ものや冒険もので、ゲーム製作に金のかけられた時代を思わせる上品なが響く。

 電子音の曲については、良し悪し分からなかったが、オーケストラで演奏されたものは重厚感の中にアニメ映画の期待感のような、軽い高揚感を刺激する冒険曲があり、
 それは、この歳で初めて聴いた私にも新曲として受け入れられる、しっかりとした仕上がりに感じられた。

 が、次の曲がかかると長山と秋吉の様子が変わる。
 いや、悪い出来の曲ではない。
 それはビオラのソロ演奏で、陰鬱いんうつでミステリアスな雰囲気を含ませた美しい曲だ。

 この曲は当時人気のあった怪奇もののゲーム用に作られた作品で、この曲に暗い雰囲気をまとわせたのは、ゲームの内容だけではない。

 この作品の発表後におこった事件の為なのだ。

 「この曲を聞くと…思い出しますよね。
 販売停止をくらった、あのゲームの事。
 ああ、若葉さん本当に薬なんかに手をだしたのかな?」
長山は嫌な思い出を語るように言葉を投げつけるように語る。
「え?でも、あれは結局、無罪でしたよね?
 確か、医師に処方された薬をお酒で飲んだからとか。風邪薬か何かでしたっけ?
当時の 薬の飲み合わせの健康番組でやってましたね。
その後販売されましたね。 叔父さん確か持ってますよ。そのゲーム。」
秋吉は軽く受け答えをする。
 この二人の表情に、くだんのゲームへの熱量の違いが目に見えるようだ。

 90年代、溶生(ときお)は、そのゲーム曲のイメージソングを担当していたが、ある日、事務所所有のマンションで作曲中に急に裸に近い格好で外に飛び出し、体に虫が這い回ると体を掻きむしっているところを病院へと運ばれた。

 その様子がコカインが引き起こす寄生虫妄想きせいちゅうもうそうを想像させたために、警察が事情聴取をしたりして、騒ぎが大きくなったらしい。

 なんとなく、若葉溶生の人生を、秋吉相太の境遇に重ねてみる。


 秋吉は声優志望の役者だが、なかなか芽が出ず単発派遣で食いつないでいたのだ。
それが、『シルク』のオーディションで合格し、晴れて芸能人として成り上がった、と、昔の芸能界ほど明暗はないみたいだが、秋吉の仕事が増えた。

 二人とも幸せになって欲しい。

 私は、心からそう思った。
これから製作する番組は、番組の宣伝も兼ねているらしい。

 アニメの音楽は、同じく若葉溶生さんが手掛ける事になっていて、それは、業界通でなくても検索下手な私ですら、『シルク』と打ち込めば、つらつらと表示される内容だ。
 下の方へとスクロールすると、まるで地獄の最下層へと落ちるように、
 オカルトじみた、脚色された不気味な話が増えてゆく。

 薬中…再燃
 殺人疑惑
 謎の失踪…


 それらの言葉と共に、インターネットのコメント欄が何やら不穏な言葉で埋まって行く。

[オーメン]聖マラキの予言成就か!?7年前の若葉家の失踪事件と
100年目によみがえる呪いの歌が黙示録のラッパを鳴らす!!!

 もっともらしく興味を引くような、華やかな疑惑がアクセス数が欲しいと叫んでいる。


はぁ?

仰々しいタイトルを見つめながら私は呆れたが、あとから朝の夢がよみがえり不安にさせる。

 私は、雅苗の指に止まったアオムシサムライマユコバチを思い出していた。

 寄生バチは生き餌を好むのだ。と、するなら彼女は生き埋めにされたのだろうか?

 馬鹿馬鹿しい…。

 検索した動画によると、なんでも来年、2020年はインド歴の終わりで人類が滅亡するのだそうだ。
4月ノートルダム大聖堂が火災に見舞われた衝撃で、またノストラダムスと滅亡論がネットに沸きだしているのだから仕方ない。

それにしても…溶生さんをそんな話に巻き込まなくても。

私はそれについては動画の主に少し不満を言いたくなる。確かに、アニメの主題歌で話題になるのは仕方がないが、人類滅亡とは!
そんな事を思って、その時、気がついた。

 この動画には、虫の話なんて登場してないことに。
私の脳裏に、朝の夢の大地から生えてきたような白い女の指がフラッシュバックする。


 「池上さん、なに見てるんですか…」
秋吉が突然後部席から私のスマホを取り上げて画面に表示された内容に絶句する。

 「池上さんも気にしてるんですか?あの噂。」
はしゃいでいた秋吉が真顔で私を見つめた。
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