転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参

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第一の難関 宿敵ローナ

王都からの監視者と辺境伯領の「監査」

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 ローナの追放劇は、王都の貴族社会に大きな波紋を広げた。公爵令嬢が辺境の地で、辺境伯夫人に完全に敗北し、屈辱的に追放されたという事実は、王都の権威主義者たち、特にローナの背後にいた王弟公爵とその腹心の財務大臣にとって、看過できない事態だった。彼らは、辺境の地位が低い貴族の娘と見下していたアナスタシアが、これほどまでの知性と影響力を持つことを知り、強い警戒感を抱き始めた。

 ローナの報告を受けた王弟公爵は、辺境伯領の急激な発展、そしてマクナル様と私の強固な夫婦仲が、王都の中央集権体制にとって危険な「独立勢力」になりつつあると判断した。辺境伯領が導入した「シンプルな帳簿術」や「合理的投資証券」は、王都の貴族が既得権益として握っている経済構造を揺るがすものだったからだ。

 ローナが追放されてから一ヶ月後、王都から「辺境伯領の運営状況に関する特別監査団」が派遣されてきた。監査団の長は、王弟公爵の腹心である、狡猾な老貴族、エルンスト男爵だった。

 マクナル様は、私の隣で冷静に監査団を迎えた。

「ようこそ、エルンスト殿。辺境の地までご苦労様。王都からわざわざ監査とは、随分と熱心ですな」

 エルンスト男爵は、いかにも王都の貴族らしい、尊大な態度で答えた。

「辺境伯様。辺境伯領の経済発展は、王都でも話題となっております。しかし、その発展が、王国の法に基づいているか、そして徴税が正しく行われているか、王都として確認する義務がございます。特に、辺境伯夫人が導入されたという、あの奇妙な『可視化帳簿』。あれは、王国の公的な会計法に則ったものではございませんね」

 彼の狙いは、私の導入した合理的な経営システムを否定し、辺境伯領の経済に王都の監視と介入の足がかりを作ることだった。

「エルンスト様。この監査は、ローナ様の追放に対する、王弟公爵様の個人的な嫌がらせではございませんか」マクナル様は、敢えて挑発的な言葉を投げかけた。

 エルンスト男爵は顔色を変えることなく、しかし明確な敵意を込めて言った。

「辺境伯様。ローナ様は単なるきっかけに過ぎません。王都が憂慮しているのは、辺境伯領の、あまりにも急速で、かつ『中央の統制を受けない』経済的独立でございます。特に、辺境伯夫人が導入したという、あの『投資証券』。あれは、王国の金融制度の根幹を揺るがしかねない危険な試みです。我々は、辺境伯領の全ての帳簿を精査いたします」

 彼は、王都の法律と権威を盾に、辺境伯領の運営の全てをひっくり返そうとしていた。

 私は、マクナル様を一歩下がらせ、監査団の前に進み出た。

「エルンスト様。監査、心より歓迎いたします」

 私は微笑んだ。私の知識は、この監査団が持ち込む王国の古い法律と、この時代の会計制度の欠陥を、完全に把握していた。

「ですが、王国の公的な会計法が、辺境伯領の特殊な環境に、どれだけ適合しているか、という点が問題となります。王国の法律は、辺境の急な気候変動による穀物の腐敗、隣国との軍事的な緊張による徴税の一時停止など、辺境ならではのリスクを考慮に入れておりません」

 私は、前世の「リスクマネジメント」の知識を用いて、王都の法律の不備を指摘した。

「わたくしどもが導入した『可視化帳簿』は、王国の会計法を否定するものではございません。むしろ、王国の法が対応できない、辺境特有のリスクを『補完』し、王都への報告をより迅速かつ正確にするための、合理的なツールでございます。我々は、王都の法律に基づき、この帳簿を『監査報告書の付録』として提出いたします」

 私は、王都の権威を否定するのではなく、私のシステムが王都のシステムを「アップグレード」するものだと主張したのだ。

 エルンスト男爵は、私の緻密な論理構成と、法律知識の深さに驚きを隠せなかった。彼は、私が単なる貴族の娘ではなく、王都の学者をも凌駕する知識を持っていることを悟った。

「加えて、エルンスト様」私は言葉を続けた。「この辺境伯領が、王都の統制から離れていると仰いますが、この辺境伯領の経済的な安定こそが、王国の国境を守る軍事力の安定に直結しています。わたくしどもは、王国の国防を担う、最も忠実な盾です。この盾を揺るがすような監査は、王国の安全を脅かすことになりかねません。どうぞ、ご慎重に」

 私は、辺境伯領の経済的な発展を「王国の国防」という、彼らが最も触れられない聖域と結びつけた。

 マクナル様は、私の隣で、深く頷いた。

「エルンスト殿。妻の言う通りだ。我々の領地経営は、全て王国の安全と、王都への忠誠のために行われている。監査は歓迎するが、王国の盾である我々の運営を妨害するような行為は、許さない」

 監査団は、私の論理的防衛の前に、出鼻をくじかれた。彼らは、単純な横槍を入れることができず、辺境伯邸での、緻密で気の遠くなるような帳簿の精査に入らざるを得なくなった。しかし、彼らはまだ、私たちが用意した次の罠に気づいていなかった……。
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