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長篠城再び
第34話
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奥平貞昌「酒井様も……。」
奥平貞勝「あぁ観音堂で討ち死に遂げている。今、徳川の中で三河東部を束ねる事の出来る者は不在である。不在と言えば……。」
奥平貞昌「少しお待ち下さい。」
奥平貞勝「山県様の提案に話を戻そうか?」
奥平貞昌「いえ。あまりの事に整理がついていません故。」
奥平貞勝「待とうか。」
奥平貞昌「ありがとうございます。」
奥平貞勝「話はこれで終わりでは無いぞ。覚悟が出来てからにしようか?」
奥平貞昌「いえ。お願いします。」
奥平貞勝「わかった。武田が設楽原で勝利したのは確認しているな?」
奥平貞昌「はい。」
奥平貞勝「敗れたのは徳川である事も?」
奥平貞昌「確認しています。」
奥平貞勝「織田はどうしていると思う?」
奥平貞昌「と言われますと?」
奥平貞勝「織田の軍勢は逃げてしまった。」
奥平貞昌「そのような虚言。信用するわけ。」
奥平貞勝「私は織田の陣中であった場所の全てを通ってここに来た。信長が本陣を構えた所から織田の諸隊が陣を構えた所に至るまで。この目で確かめた上でここに来ている。それでこれは伝え聞いた話であるが、どうやら織田の軍勢は……。」
武田と徳川が激突する前に逃げ帰ってしまったらしい。
奥平貞勝「とんだ腰抜け共の集まりだ。あれだけの人数が居て。あんな奴らに2度も誑かされた貞能が憐れでならぬ。」
奥平貞昌「何があったのでありますか?」
奥平貞勝「山県様の部隊が織田信長の宿所を急襲。これに驚いた信雄が父信長を助ける事無く逃亡したからだ。」
奥平貞昌「それは真実でありますか?」
奥平貞勝「外向けに書かれたものであるから、多少盛られているとは思う。しかし今、織田の部隊がここを去ったのは紛れもない事実である。」
奥平貞昌「それで信長様は?」
奥平貞勝「わからぬ。同じく跡取りの信忠の消息も不明。」
奥平貞昌「岐阜に戻ったと言う情報は?」
奥平貞勝「武田の内通者の。あくまでこれも伝聞でしか無いが、三河を通った形跡は無い。ほかは武田領内。そこを通過した事実も無い。信長、信忠の宿所は灰燼と帰している。これは私がこの目で見ている。」
奥平貞昌「となりますと……。」
奥平貞勝「あぁ当主と跡取りを同時に失った可能性が高い織田は、後継者争いが勃発する可能性が高いと見て間違いない。故に此度のような大規模な援軍を期待する事は出来ない。そうなるとお前がこのまま徳川の陣営に留まり首尾よく武田を追い払う事が出来たとしても、此度のような支援を得る事は出来ないと見て間違いない。」
そして何より……。
奥平貞勝「徳川家康もこの世にはおらぬ。」
奥平貞昌「えっ!家康様が。でありますか!?」
奥平貞勝「其方を動揺させるためでは無い。事実を述べているだけである。」
奥平貞昌「何故殿は……。」
奥平貞勝「織田が退却していく中にあっても徳川が退く事は無かった。そして山県様の部隊と激突。その最中。背後に高坂昌信を発見した徳川の本隊は山県隊とのいくさを大久保隊に託し、高坂様率いる部隊目掛け突進。思わぬ徳川の突撃に高坂様の部隊は後退。それを見て更に追い掛ける徳川であったのだが……。これは高坂様の策略であった。横を馬場様。背後を武田様囲まれた徳川は壊滅的打撃を受け遁走。残された徳川勢の亡骸の中に紛れていたのが徳川家康であった。」
長篠城外。
武藤喜兵衛「物は言い様ですね。」
内藤昌豊「実際は困りに困って逃げていただけなんだけどな……。」
高坂昌信「内藤の忠告が無かったらどうなっていた事か……。」
武藤喜兵衛「結果的には大魚を得る事が出来たのでありますから。」
高坂昌信「反省している。」
内藤昌豊「後はお前が貞勝に託した言葉を貞昌がどう判断するか?に掛かっている。」
高坂昌信「うちが出来る配慮はここまで。もし拒絶して来たら……。」
長篠城。
奥平貞勝「山県様の話に戻ろう。山県様は自らの監督不行き届きを詫びた上で、御館様に次の事を進言した。それは……。」
自らの手柄と引き換えに奥平貞昌の助命を嘆願。
奥平貞勝「この提案を御館様は受諾している。つまり其方は今、無罪放免の立場にある。」
奥平貞昌「一時の戯言に過ぎぬとしか思えませぬ。」
奥平貞勝「まぁそう考えるのが自然だな。昔の話にあるな。源頼朝の父義朝を亡き者にした者が、頼朝挙兵に怯え降伏。それを快く許した頼朝の信頼を勝ち取るべく平家打倒に邁進した彼らに待っていた運命は……斬首。頼朝から約束されたのは美濃尾張の地では無く、身の終わりだった。」
奥平貞昌「……はい。」
奥平貞勝「そうなってしまう事を山県様も心配していた。」
奥平貞昌「えっ!?」
奥平貞勝「それを聞いた御館様がある提案をして来たそうな。それを言うためにここに来た。」
奥平貞昌「お聞かせ願えますか?」
奥平貞勝「その気になってくれたか?」
奥平貞昌「いえ。そうではありません。そうではありませんが……。」
奥平貞勝「無理するで無い。城の現状は其方が一番わかっている事であろう。」
高坂昌信が武田勝頼に献策した内容を奥平貞昌に伝える奥平貞勝。
奥平貞昌「……もしこれを拒絶したのでありましたら……。」
奥平貞勝「その時か。その時は……城の前に先程話した者共の首を並べるまでの事。勘違いするで無いぞ。」
奥平貞勝「あぁ観音堂で討ち死に遂げている。今、徳川の中で三河東部を束ねる事の出来る者は不在である。不在と言えば……。」
奥平貞昌「少しお待ち下さい。」
奥平貞勝「山県様の提案に話を戻そうか?」
奥平貞昌「いえ。あまりの事に整理がついていません故。」
奥平貞勝「待とうか。」
奥平貞昌「ありがとうございます。」
奥平貞勝「話はこれで終わりでは無いぞ。覚悟が出来てからにしようか?」
奥平貞昌「いえ。お願いします。」
奥平貞勝「わかった。武田が設楽原で勝利したのは確認しているな?」
奥平貞昌「はい。」
奥平貞勝「敗れたのは徳川である事も?」
奥平貞昌「確認しています。」
奥平貞勝「織田はどうしていると思う?」
奥平貞昌「と言われますと?」
奥平貞勝「織田の軍勢は逃げてしまった。」
奥平貞昌「そのような虚言。信用するわけ。」
奥平貞勝「私は織田の陣中であった場所の全てを通ってここに来た。信長が本陣を構えた所から織田の諸隊が陣を構えた所に至るまで。この目で確かめた上でここに来ている。それでこれは伝え聞いた話であるが、どうやら織田の軍勢は……。」
武田と徳川が激突する前に逃げ帰ってしまったらしい。
奥平貞勝「とんだ腰抜け共の集まりだ。あれだけの人数が居て。あんな奴らに2度も誑かされた貞能が憐れでならぬ。」
奥平貞昌「何があったのでありますか?」
奥平貞勝「山県様の部隊が織田信長の宿所を急襲。これに驚いた信雄が父信長を助ける事無く逃亡したからだ。」
奥平貞昌「それは真実でありますか?」
奥平貞勝「外向けに書かれたものであるから、多少盛られているとは思う。しかし今、織田の部隊がここを去ったのは紛れもない事実である。」
奥平貞昌「それで信長様は?」
奥平貞勝「わからぬ。同じく跡取りの信忠の消息も不明。」
奥平貞昌「岐阜に戻ったと言う情報は?」
奥平貞勝「武田の内通者の。あくまでこれも伝聞でしか無いが、三河を通った形跡は無い。ほかは武田領内。そこを通過した事実も無い。信長、信忠の宿所は灰燼と帰している。これは私がこの目で見ている。」
奥平貞昌「となりますと……。」
奥平貞勝「あぁ当主と跡取りを同時に失った可能性が高い織田は、後継者争いが勃発する可能性が高いと見て間違いない。故に此度のような大規模な援軍を期待する事は出来ない。そうなるとお前がこのまま徳川の陣営に留まり首尾よく武田を追い払う事が出来たとしても、此度のような支援を得る事は出来ないと見て間違いない。」
そして何より……。
奥平貞勝「徳川家康もこの世にはおらぬ。」
奥平貞昌「えっ!家康様が。でありますか!?」
奥平貞勝「其方を動揺させるためでは無い。事実を述べているだけである。」
奥平貞昌「何故殿は……。」
奥平貞勝「織田が退却していく中にあっても徳川が退く事は無かった。そして山県様の部隊と激突。その最中。背後に高坂昌信を発見した徳川の本隊は山県隊とのいくさを大久保隊に託し、高坂様率いる部隊目掛け突進。思わぬ徳川の突撃に高坂様の部隊は後退。それを見て更に追い掛ける徳川であったのだが……。これは高坂様の策略であった。横を馬場様。背後を武田様囲まれた徳川は壊滅的打撃を受け遁走。残された徳川勢の亡骸の中に紛れていたのが徳川家康であった。」
長篠城外。
武藤喜兵衛「物は言い様ですね。」
内藤昌豊「実際は困りに困って逃げていただけなんだけどな……。」
高坂昌信「内藤の忠告が無かったらどうなっていた事か……。」
武藤喜兵衛「結果的には大魚を得る事が出来たのでありますから。」
高坂昌信「反省している。」
内藤昌豊「後はお前が貞勝に託した言葉を貞昌がどう判断するか?に掛かっている。」
高坂昌信「うちが出来る配慮はここまで。もし拒絶して来たら……。」
長篠城。
奥平貞勝「山県様の話に戻ろう。山県様は自らの監督不行き届きを詫びた上で、御館様に次の事を進言した。それは……。」
自らの手柄と引き換えに奥平貞昌の助命を嘆願。
奥平貞勝「この提案を御館様は受諾している。つまり其方は今、無罪放免の立場にある。」
奥平貞昌「一時の戯言に過ぎぬとしか思えませぬ。」
奥平貞勝「まぁそう考えるのが自然だな。昔の話にあるな。源頼朝の父義朝を亡き者にした者が、頼朝挙兵に怯え降伏。それを快く許した頼朝の信頼を勝ち取るべく平家打倒に邁進した彼らに待っていた運命は……斬首。頼朝から約束されたのは美濃尾張の地では無く、身の終わりだった。」
奥平貞昌「……はい。」
奥平貞勝「そうなってしまう事を山県様も心配していた。」
奥平貞昌「えっ!?」
奥平貞勝「それを聞いた御館様がある提案をして来たそうな。それを言うためにここに来た。」
奥平貞昌「お聞かせ願えますか?」
奥平貞勝「その気になってくれたか?」
奥平貞昌「いえ。そうではありません。そうではありませんが……。」
奥平貞勝「無理するで無い。城の現状は其方が一番わかっている事であろう。」
高坂昌信が武田勝頼に献策した内容を奥平貞昌に伝える奥平貞勝。
奥平貞昌「……もしこれを拒絶したのでありましたら……。」
奥平貞勝「その時か。その時は……城の前に先程話した者共の首を並べるまでの事。勘違いするで無いぞ。」
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