40 / 42
論功
第40話
しおりを挟む
医王寺武田勝頼本陣。
武藤喜兵衛「殿。」
武田勝頼「どうした?」
武藤喜兵衛「兄上が見当たらないのでありますが。」
武田勝頼「あぁ。それだったら山県と一緒に城攻めに向かっている。」
武藤喜兵衛「えっ!?いくさは終わったのではありませぬか?」
武田勝頼「私もそう思っていたのだが、山県から相談があって……。」
武藤喜兵衛「どのような内容でありますか?」
武田勝頼「山県が言うには
『このいくさで徳川家康を討つ事が出来ました。確証はありませんが織田信長信忠親子も同様であります。
しかし我らが獲得する事が出来たのは長篠城しかありません。長篠城は元々我らの城。謂わば失地を回復したに過ぎません。その原因を作ったのは私、山県昌景であります。』」
武藤喜兵衛「そのような事。誰も……。」
武田勝頼「『そのような事は無い。父信玄の遺言に従ったまでの事。』
と伝え、その点は納得してもらう事が出来た。ただ……。」
武藤喜兵衛「山県様は何と仰ったのでありますか?」
武田勝頼「『本来、自らの手で取り返して当たり前の長篠を。殿(私の事ね。)始め他の方々に多大な迷惑を掛ける事になってしまいました。このままでは収まりがつきません。』
と言って来てな……。」
武藤喜兵衛「それで兵を?」
武田勝頼「あぁ動かしておる。ただ条件を付けた。
『単独行動は禁止する。向かう先はこちらが指定する。けっして無理はするな。討ち死になど許さぬ。』
と……。」
武藤喜兵衛「それで兄上を。」
武田勝頼「それに小幡にもお願いしている。真田、小幡からは逐一報告するよう指示している。」
武藤喜兵衛「向かった先はどちらへ?」
武田勝頼「最終目的地は足助に定めている。岡崎城を目標としていた時、山県が最初に狙っていた場所でもある。下調べも済んでいる事であろうし、いくさの結果を足助の者共も知っている事であろう。周りを囲って様子を見て、抵抗する様ならば威圧だけして戻って来い。と伝えている。」
武藤喜兵衛「そう言えば馬場様の姿も……。」
武田勝頼「馬場は今、古宮……もしかしたら田峯に入ったかもしれぬ。目的は菅沼正貞の長篠復帰と奥平貞昌の赦免並びに川中島移封の了承を得るため。後は特に牛久保についてになるか……。」
武藤喜兵衛「と言われますと?」
武田勝頼「今回の奥平離反の原因の1つが牛久保の取り分で揉めた事にある。今後の野田牛久保攻略の仕方によっては。についての折衝を馬場にお願いしている所である。」
長篠城を出発し、古宮城で態勢を立て直した山県昌景は田代城から大沼城。浅谷城を攻略しながら足助城を包囲。その包囲の最中も別部隊を編成し、八桑城。更には阿摺城を手に入れたのでありました。その方法は全て……。
武藤喜兵衛「『自落した。』
との事であります。これらの城は規模が小さいとは言え、全て我らと境を為す謂わば臨戦態勢にあった城であります。」
武田勝頼「頼るべき大樹が折れてしまうと呆気ないものだな……。」
武藤喜兵衛「はい。」
武田勝頼「味方に被害は?」
武藤喜兵衛「ありません。」
武田勝頼「足助の状況は?」
武藤喜兵衛「長篠のように要塞化されているわけではありませんし、援軍を望む事も出来ません。それに連携する城は皆白旗を揚げてしまっていますので。」
武田勝頼「出向く必要も無いか……。」
武藤喜兵衛「仰せの通りであります。」
2日後。足助城開城の報告が届く。
武田勝頼「足助は最前線。加えて城が堅固とは言えない。かと言って今後の事の打ち合わせをしなければならぬ故。皆を集めねばならない……。」
武藤喜兵衛「論功の事でありますか?」
武田勝頼「それもある。当人不在で決めるわけにはいかないだろう?」
武藤喜兵衛「そうですね……。それでありましたら私が行きましょうか?」
武田勝頼「大丈夫か?」
武藤喜兵衛「少なくとも高坂様よりは戦う事は出来ますし、足助には兄2人が居ます。(長兄の)信綱に(次兄の)昌輝の委任状を託し、昌輝と私を足助に留め。信綱を山県様。小幡様と共に戻しましょう。その間、私は足助の縄張りと弱点の確認。補強すべき点の洗い出しを行います。」
武田勝頼「そこまで言ってくれるのであれば、喜兵衛の意見。採用する。」
武藤喜兵衛「ありがとうございます。」
武田勝頼「ただ……高坂の了承が……。」
武藤喜兵衛「それでありましたら私から伝えておきます。殿からは言い難いと思いますので。」
武田勝頼「恩に着ます。」
高坂昌信の了承を得た武藤喜兵衛は、武田勝頼の手勢の一部を伴い足助城に向け出立。足助城で山県昌景の部隊と合流し、事の次第を報告。それを聞いた山県昌景は手筈通り当地に真田昌輝と武藤喜兵衛を残し古宮城へ移動。時を同じくして古宮城に到着したのは馬場信春。
馬場信春「足助の件は聞いている。見事であった。」
山県昌景「いくさらしい事はしてはおらぬ。ところで其方の方は?」
馬場信春「(菅沼)正貞の復帰と(奥平)貞昌の赦免については問題無く済んだ。」
山県昌景「それは何より。」
馬場信春「ただ問題なのは……。」
武藤喜兵衛「殿。」
武田勝頼「どうした?」
武藤喜兵衛「兄上が見当たらないのでありますが。」
武田勝頼「あぁ。それだったら山県と一緒に城攻めに向かっている。」
武藤喜兵衛「えっ!?いくさは終わったのではありませぬか?」
武田勝頼「私もそう思っていたのだが、山県から相談があって……。」
武藤喜兵衛「どのような内容でありますか?」
武田勝頼「山県が言うには
『このいくさで徳川家康を討つ事が出来ました。確証はありませんが織田信長信忠親子も同様であります。
しかし我らが獲得する事が出来たのは長篠城しかありません。長篠城は元々我らの城。謂わば失地を回復したに過ぎません。その原因を作ったのは私、山県昌景であります。』」
武藤喜兵衛「そのような事。誰も……。」
武田勝頼「『そのような事は無い。父信玄の遺言に従ったまでの事。』
と伝え、その点は納得してもらう事が出来た。ただ……。」
武藤喜兵衛「山県様は何と仰ったのでありますか?」
武田勝頼「『本来、自らの手で取り返して当たり前の長篠を。殿(私の事ね。)始め他の方々に多大な迷惑を掛ける事になってしまいました。このままでは収まりがつきません。』
と言って来てな……。」
武藤喜兵衛「それで兵を?」
武田勝頼「あぁ動かしておる。ただ条件を付けた。
『単独行動は禁止する。向かう先はこちらが指定する。けっして無理はするな。討ち死になど許さぬ。』
と……。」
武藤喜兵衛「それで兄上を。」
武田勝頼「それに小幡にもお願いしている。真田、小幡からは逐一報告するよう指示している。」
武藤喜兵衛「向かった先はどちらへ?」
武田勝頼「最終目的地は足助に定めている。岡崎城を目標としていた時、山県が最初に狙っていた場所でもある。下調べも済んでいる事であろうし、いくさの結果を足助の者共も知っている事であろう。周りを囲って様子を見て、抵抗する様ならば威圧だけして戻って来い。と伝えている。」
武藤喜兵衛「そう言えば馬場様の姿も……。」
武田勝頼「馬場は今、古宮……もしかしたら田峯に入ったかもしれぬ。目的は菅沼正貞の長篠復帰と奥平貞昌の赦免並びに川中島移封の了承を得るため。後は特に牛久保についてになるか……。」
武藤喜兵衛「と言われますと?」
武田勝頼「今回の奥平離反の原因の1つが牛久保の取り分で揉めた事にある。今後の野田牛久保攻略の仕方によっては。についての折衝を馬場にお願いしている所である。」
長篠城を出発し、古宮城で態勢を立て直した山県昌景は田代城から大沼城。浅谷城を攻略しながら足助城を包囲。その包囲の最中も別部隊を編成し、八桑城。更には阿摺城を手に入れたのでありました。その方法は全て……。
武藤喜兵衛「『自落した。』
との事であります。これらの城は規模が小さいとは言え、全て我らと境を為す謂わば臨戦態勢にあった城であります。」
武田勝頼「頼るべき大樹が折れてしまうと呆気ないものだな……。」
武藤喜兵衛「はい。」
武田勝頼「味方に被害は?」
武藤喜兵衛「ありません。」
武田勝頼「足助の状況は?」
武藤喜兵衛「長篠のように要塞化されているわけではありませんし、援軍を望む事も出来ません。それに連携する城は皆白旗を揚げてしまっていますので。」
武田勝頼「出向く必要も無いか……。」
武藤喜兵衛「仰せの通りであります。」
2日後。足助城開城の報告が届く。
武田勝頼「足助は最前線。加えて城が堅固とは言えない。かと言って今後の事の打ち合わせをしなければならぬ故。皆を集めねばならない……。」
武藤喜兵衛「論功の事でありますか?」
武田勝頼「それもある。当人不在で決めるわけにはいかないだろう?」
武藤喜兵衛「そうですね……。それでありましたら私が行きましょうか?」
武田勝頼「大丈夫か?」
武藤喜兵衛「少なくとも高坂様よりは戦う事は出来ますし、足助には兄2人が居ます。(長兄の)信綱に(次兄の)昌輝の委任状を託し、昌輝と私を足助に留め。信綱を山県様。小幡様と共に戻しましょう。その間、私は足助の縄張りと弱点の確認。補強すべき点の洗い出しを行います。」
武田勝頼「そこまで言ってくれるのであれば、喜兵衛の意見。採用する。」
武藤喜兵衛「ありがとうございます。」
武田勝頼「ただ……高坂の了承が……。」
武藤喜兵衛「それでありましたら私から伝えておきます。殿からは言い難いと思いますので。」
武田勝頼「恩に着ます。」
高坂昌信の了承を得た武藤喜兵衛は、武田勝頼の手勢の一部を伴い足助城に向け出立。足助城で山県昌景の部隊と合流し、事の次第を報告。それを聞いた山県昌景は手筈通り当地に真田昌輝と武藤喜兵衛を残し古宮城へ移動。時を同じくして古宮城に到着したのは馬場信春。
馬場信春「足助の件は聞いている。見事であった。」
山県昌景「いくさらしい事はしてはおらぬ。ところで其方の方は?」
馬場信春「(菅沼)正貞の復帰と(奥平)貞昌の赦免については問題無く済んだ。」
山県昌景「それは何より。」
馬場信春「ただ問題なのは……。」
0
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる