吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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黄金の美酒は夢の中で香る

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「これは…どういうことだミオン…」

「…」


夢の中の夢の中のゴトーは…
現実世界や夢の中と同じように。

同じベッドで、同じ顔で眠っていた。


「色々忘れている…だけど…ここにいるゴトーが眠っているという事が、おかしなことだということはわかる」

「…」

「お前が…眠らせたのか…」

「…」

「騙したのか…俺を」

「…」


ミオンは…何も言わない。
ジェイスはもっと彼女を問いただしたかったが…

すでに怒りの理由すら忘れてしまっていて、その言葉を口から出すことが出来なかった。

しかし漠然と10年間一緒に旅をしてきたミオンに騙されたと言う深い悲しみだけは…
べったりとジェイスの心にあった。

ミオンはそんなジェイスをみて…


「だってね…」

「…」

「僕…ゴトー大好きなんだ…ゴトーの夢の中は美味しいものいっぱい…服にしみ込んだハチミツの香りも大好き…」

「…」

「だから夢の中のゴトーだけじゃなく…夢の中の夢の中のゴトーにも眠ってもらったんだよ…」


リリスは優しい口調で続ける。


「でもね僕、ジェイスのことも大好きだよ…?この10年間色々なことがあったけど、ジェイスがいたからすっごく楽しかったんだ♪」


反省や…罪悪感は彼女になく。
まるでいつもの会話の延長のように、彼女は話す。

ジェイスは忘れてしまった頭の中の空白部分と目の前に眠るゴトー…
そして、二コリと笑いかけてくるミオンに対して、言いようのない感情を抱きはじめる。

それは非情に複雑な気持ちだった。

怒りや悲しみとはまた違う…
絶望に近い感覚。



「ゴトーに…寝言を言わせなきゃいけないんだ…」

「…」

「それが…俺の目的なんだ…ミオン…ゴトーに寝言を言わせるんだ…そうすれば…そうすれば…」

「…?」

「(そうすれば…なんだっけ…?)」

「無理だよ…」

「…」

「だって見ての通り、ゴトー寝てるし…ゴトーに寝言を言わせるためには『夢の中の夢の中の夢の中』にいるゴトーに会わないと無理…」

「夢の中の…夢の中の…夢の…中…」


ジェイスは膝から崩れ落ちた。
もはやなぜ自分がこんなに落ち込んでいるのかもわからないのに。

ミオンは、そんなジェイスを後ろから優しく抱きしめる。

そして10年間そうしてきたように…
やさしくジェイスの耳元でささやいた。


「ねぇジェイス…よしよしして…」

「…」

「いつもみたいに…なでなでってして…」

「…」


自分の感情を形容することができぬまま…
ジェイスは自分に甘えるミオンを見る。

かわいらしい…
愛くるしい…

しかし、そう感じている今の感情に大きな違和感もあった。

もはやジェイスの敵はミオンではなく…
多くの感情や目的を忘れてしまった自分自身だった。


バッ!


「!」


ジェイスは、ミオンを振りほどく。
かろうじて、今置かれている現状が『良くないこと』だと言うことは理解できる。

そして…
ミオンを殺さなければ、何も進展しないことにも気づいていた。

ジェイスは眠るときに現実世界から持ってきた剣を抜く。

剣を構えるジェイスを見て…
リリスはまた二コリと笑顔を見せる。


「無理だよ…ジェイス…」

「…」

「この世界じゃ…現実から持ち込んだ剣は使えないよ…?それに、ジェイスにはできるの…?」

「…」

「私を…殺せるの…?」


ミオンはジェイスにまた…
甘えるように抱きついた。

しかし、ジェイスはそれをさらに拒絶する。



「離れろッ!!」

「…?」


ミオンは、ジェイスから強引に払いのけられても…
冷静な笑顔を見せ続けたが…ジェイスが抜いたその剣を見た時、その剣が異様であることに気づく。

ジェイスが抜いたその剣には…
刃が無かったのだ。


「(…あの剣…刃が…ない…?)」

「…」


ジェイスは3本の剣を持っている。

普段使っている剣は、ホークビッツの刀匠・マスター・エルドランザが打ったロングソード、名を『バルムンク』と言った。
ライディングスチールの芯に、40寸弱の刀身を持ったその剣は恐ろしく軽く、刃こぼれもしにくい。
しかし、この『バルムンク』を持ってしても切れないものがある。

存在そのものが不安定な存在…
例えば幽霊や夢の中に住まうリリスには、物質的にいくら優れた『バルムンク』でも斬ることができない。


「はぁ…はぁ…」


今回、ジェイスが夢の中に持ち込んだ剣は、名を『ホロ』と言った。
柄(つか)と鍔(がく)だけの剣『ホロ』には、物質的な刃がついていない。

『ホロ』は聖法魔術の根源である聖感…つまりは願いや心の強さで刃を形成する。
目に見えないその刃は、不安定な存在である怪物に干渉する力を持っていた。

ジェイスは目には見えない刀身の切先をリリスに向ける。

全てを忘れていても…
身体はその使い方を知っていた。


「ゴトーに…寝言を言わせるんだ…ミオン…」

「だからできないって…それになんて言わせるの?」

「…」

「もう、どんな寝言を言わせるかも覚えてないでしょ?」


ミオンは、ジェイスの現状を誰よりもよく理解していた。
何を覚えているのか、何を忘れているのか。

おそらくジェイス自身よりも正確に。


「もう無理なんだよ?ジェイス…」

「はぁ…はぁ…」

「僕もジェイスもここからでることができない…だから諦めよ?」

「…」

「僕と一緒に…ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっとここで暮らそう…?」

「…」


ジェイスは息使いがどんどん荒くなる。

そんなジェイスに、ミオンはゆっくりと近づく。


「私、ジェイスの胸の中で寝るの大好き…すごく落ちつくんだ…」

「…やめろ…ミオン…」

「ジェイスに頭をなでられながら眠ると、とっても幸せな気分になる…」

「やめろッ!!」

「ジェイス…大好きだよ」

「やめろッ!!!!」


しかし…
ジェイスの中にあるモンスタースレイヤーの本能が…

自分自身を守るため、この場で行うべき行動に答えを見出した。



バシュッッ!!!!



「!!!」

「はぁ…はぁ…」

「ジェイス…」

「…」

「どう…して…」


ジェイスは…ミオンを斬った。
血も流れず、ただ悲しそうにジェイスを見る。


ジェイスは本当に、本当に辛かった。


しかし、ジェイスの中にある本能は…
彼女を斬らなければ、この膨大な世界に結末が訪れない事を覚えていた。


「ミオン…」


ドサ…


ジェイスはミオンを抱く…
彼女の身体は徐々に消えていく。

彼女との10年間の思い出に…
この夢の中の世界に…

残酷な結末が訪れた。

…かと、思われた。


「はぁ…はぁ…」


しかし、結末は訪れなかった。


夢から覚めないのである。


通常、リリスを殺せば…
リリスによって夢を見せられている人は目を覚ます。

しかし、ゴトー氏は夢から覚めなかったのだ。

それは、夢の原因であったリリスの存在が必要ないほど…
ゴトー氏が夢の奥深くにまで堕ちてしまったことを示していた。



そしてジェイスは…
眠りにつくゴトー氏を見る。


「行かなくては…夢の中の夢の中の夢の中へ…ゴトー氏に…会わなくては…」


そしてジェイスは…
なぜそうするのか理由もわからずに…

ゴトー氏の夢の中の夢の中の夢の中へ…

1人で向かうのだった。


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