女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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恋する乙女の恋愛相談

聞こえる親。聞こえない子

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 尾行をするので、大したおめかしはしていない。
 白のシャツに、普通のパンツ。
 それらを着衣し、家の前で天崎さんの到着を待つ。

 もう九月も中頃。
 夏のあの暑さから解放される思っていたが、意外とそうでもなく。
 その暑さを紛らわすため、私は天崎さんと楽しく(?)ラインのやり取りをしている。

『ねね。天崎さん。今日の作戦会議しよーよ』
『いいですね! どういう作戦でいきましょう』

『尾行をします! ばれそうになったら逃げる! 以上!』
『あれ? それだけですか?』

『それだけです! あ、でも不審に思われないように行動することも大事です!』
『はい! あ、あと。思ったんですが、何に乗りましょうか! 乗り物!』

『いやいや、あくまで尾行だよー。楽しみに行く訳じゃないない』
『そうですか……。あ、でも尾行って凄くアドレナリン出ますよね! 隠れんぼしてる時のあれです!』

 ……。
 こ わ い。

『それは、ちょっとよく分かんないかなー』
『残念です。……あ、あと三秒で着くと思います』

 「え……」と漏らすと、同時に顔あげると。
 白い軽自動車がそこに止まっていてた。

 後部座席のウィンドウが下がり、その場所には天崎さんがいた。心音の方の。
 白いワンピースを着ていた。
 尾行向きの格好ではないとは思うけど、それよりも先に可愛いと思ってしまった。
 制服の彼女しか見たことなかったので、私服というのはすごく新鮮だ。
 女神なだけあってやはり何着ても似合うなと、羨ましく思ってしまう。

「「……」」

 そんな彼女と。
 目は合っている。
 けれど言葉じゃ伝わらないし、沈黙が訪れる。
 向こうは向こうでいつもの真顔だし。
 ……気まずい。

 とりあえず。
 ラインで聞いてみよう。
 右手に持ってたスマホを私の目線に持っていく。

『乗っていいですよー!』

 と。気づかぬうちに、そうメッセージが届いていた。

『じゃあ、お願いします』

 窓から顔を覗かせてる彼女に会釈し、私はそこに向かう。
 律儀に後部座席のドアを開いてくれて。
 そのまま、よいしょよいしょと、私が座るスペースを空けてくれた。
 ……優しい。

 ありがとう、と小さく呟いて、運転席に座っている天崎ママへと一言。

「よろしくお願いします!」


※※※※※※


「君が噂の伊奈ちゃん?」

 車に乗って約一分。
 前の席から聞こえてくる、明るい声。
 天崎ママの第一声がそれだった。

「え! 噂……ですか?」
「そうそう。心音がいつも好き好き言ってるからさー」

 天崎ママの声は、明るいだけでなく、大きい。
 うるさいくらいによく聞こえている。
 ミラーから見えるその顔は、さすが女神の生みの親。
 神の親ってなんだよって感じだけど、とにかく美人だった。

 にしても。
 いつも好き好き言ってるんすか、天崎さん。
 言う……というか、ラインとか、ホワイトボードで伝えるってことだろうけど。

 改めて、好き好きって。
 ……はっず。

「そ、そうなんですね。……恥ずかしい」
「そうなのよ。最近もさ、伊奈ちゃんとコミュニケーション取れてすっごく喜んでたんだよー。これからもよろしくしてあげてね。この子、友達全然いないからさ」
「どうも。よろしくされちゃいます」

「ありがとうね。……それで、お二人はお付き合いしているの? それ、私きになるかなー」
「あーでも。告白は──ぎょっ!」

 「告白はされました」と言いかけたところで、私の脇腹に天崎さんの手が刺さり、発言が中断されてしまう。
 彼女の方に目をやると、細く綺麗な人さし指で私のスマホを差していた。
 下に向けていたスマホを上に向ける。

『母さんと何話してるんですか?』

 送られてきていたそのメッセ。
 まるで私たちの会話が聞こえているようだ。

 ……って。天崎ママは耳が悪くないのかな?

 んー。どうなんだろ。
 質問するにも結構デリケートな内容だし。
 ……ま、いっか。

 ぼやけた焦点を画面に合わし、返信する。

『えっとね。天崎さんが、私のことを好き好きって話をしていまして』
『やめてください』
『すみません』

 横からの殺気を感じ取り、流れるように謝罪した。
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