女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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恋する乙女の恋愛相談

揺らぐ全身。声の衝撃

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 『私を伊奈さんに教える』

 そう天崎さんに言われたけど。
 それも意味が良く分からなくて、『どういうこと?』と返したけど、既読は付くだけで返信は来なかった。

 その事に、若干の違和感を抱きつつも、スマホの電源を落とし、枕の横に置いた。

 天崎さんを私に教えるということは、単に自分の事を知ってもらうということだろうけど。

 天崎さんのことを好きな人は、私の学校に大勢いる。
 そして私は、その一部になった。
 なんだか不思議な感覚だ。
 多くの人が好きになるものを、私も好きになる。
 そういう言い方だと、普通の事の様に感じるけど……普通では無い。
 だって向こうも私の事が好きだから。
 そう考えると、なんとなく優越感の様な物に浸れるものであった。

「……でも。好きって……」

 今まで色々な人の相談に乗ってきたつもりだったけど、いざ自分がその立場になってみると難しい。

 私が抱いている感情が『恋』というのは分かる。だけど、なんだろう……。
 複雑な。ごちゃごちゃしたものがその中にはあって……。
 考えれば考えるほど、頭が痛い。

 だから……今は考えずに、これから分かっていくのが一番なんだと思う。
 天崎さんも、自分のことを教えてくれるって言ってたし。
 うん。それでいい。
 急ぐ必要は無い。

 そう、納得した。

 と、ほぼ同時だった。

 ──ガチャ。

 下の方から、玄関のドアが開く音がする。
 その音は、シーンとしたこの部屋に良く響く。

 そういえば鍵は開けっ放しだったっけ。
 楓花が帰ってきたのだろう。
 しかし今は17時半。
 少し帰ってくるのが早い気がした。
 そういえば桃杏ちゃんとはどうなったのかな。
 桃杏ちゃんは告白できたのだろうか。
 もし付き合うなんてことになっていたら、私にとっても嬉しい話だけど。
 後でそれとなく確認してみよ。

「…………」

 一分程度の間をおいて、下から階段を上る音が聞こえる。
 いつもの楓花だったら、駆けのぼって私の元へとダイブしてくるはずだけど。
 なんだか、重い足取りだ。
 ……何かあったのかな。と心配になってしまう。

 そして、足音が変わる。
 木の床をゆっくりと歩く音。
 階段はもう上りきったらしく。
 その音がどんどん大きくなっていく。
 私の部屋に来ている途中なのだろうか。

 私はベッドから身体を起こし、ドアの方を向き、その上で正座した。

 聞こえていた足音は、部屋のドアの前でピタと止まる。
 けど、入ってこない。
 やはり、何かあったらしかった。

「楓花? 大丈夫?」

 ドアの向こうへと、調子を窺う。

「……」

 返信は来ない。

「……やなことでもあった?」

 ドアへと歩みながら恐る恐る。問う。

「……」

 返ってくるのは沈黙のみ。

「えっと……」

 何か気のきいた言葉をかけてあげたいけど。
 何も浮かんでこない。

 その時、不意に、私の後ろの方からスマホが鳴った。
 天崎さんからだろうけど、今は構ってあげられない。

 一瞬それた注意をドアの向こう側に戻す。

「……」

 相変わらず沈黙している。
 だけど、気配はある。「すー」と、細い呼吸だけが聞こえる。
 姉ならここでどうするべきなのだろう。
 そっとしておくべきか、慰めに行くべきか。
 そんなの、後者の方に決まってる──!

「楓花っ!」

 ドアを開いた。
 声だけは大きく、ドアはゆっくりと小さく。

 だけど、違かった。

「──っ」

 違かったって。
 そこにいたのは妹ではなくて。

「あ、天崎、さん?」

 さっきまで車の中で横に座っていた、白いワンピースの人。
 その人が。ここに。スマホを両手に抱えて立っていた。

 思考が追いつかない。
 どうして? なんで?
 頭に浮かぶのは疑問符ばかり。

「どうして、ここに──」

 私の方へと、何も言わずに近づいてくる。
 いや、何も言わないのは知っている。
 けど、何というか。無言の圧力というか、そういうものを感じた。

 だけど。さっきまでこっちのことを見向きもしなかった彼女と、今、目が合っている。
 その彼女の目に縛られているように、私はその場で固まった。
 顔が、さっきよりも熱い。熱すぎる。
 変温動物かってくらいに、私の体温は今、上昇している。
 上昇し続けている。

 彼女は。一歩、こっちへと。
 私は。一歩も動けない。

 近い。
 すっごく近い。
 今にも、体が触れ合いそうなくらいに。

 目の前のその人は、もっていたスマホをポケットにしまった。

 そのままその右手を、私の背中へと回してきて──。
 また一歩と、近づいてきて。体がぶつかる。
 そのあと、すぐに、もう片方の手が私の背中を触った。

「~~っ!」

 ……ハグ。されている。
 言葉にならない声が漏れ出る。
 心音しんおんが届きそう。
 ……やばい、頭のなか真っ白になっちゃう。
 やばい。これは、やばいって。

 彼女は、私の背中に添えた手を、まさぐる様に搔き回す。
 くすぐったいのと、恥ずかしいのと、嬉しいのが混同した意味わからない感情を覚えながらも、私はほぼ無意識に同じ様に天崎さんの背中へと手を回した。

 なんだこれ。なにやってんだこれ。
 私もなにハグしちゃってんだ。
 恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい。

 私。こんな人じゃない。
 抱きつかれて、抱き返す様な。そんな人じゃない。
 好きだからなの? 好きだから私は、こうしているの?
 もう。分からない。何が何だか、分からないって。

 何もわからないのに。
 そのまま、もっと抱き寄せられて。
 彼女の口が私の耳元に近づいた。

「んっ……」

 息がかかって、体が震える。

 そして。次の瞬間だった。

「だいすき」

 華奢な、掠れた様な。
 そんな声が私の耳を刺激する。

 ……天崎さんの。声だった。
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