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仲良し少女の恋愛相談
閑話 私と桃杏ちゃん
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「「「ありがとうございましたー!」」」
部員、総勢五十人程の吹奏楽部。
その練習が今日も終わる。
次々と音楽室を出て行く面々。
それを見送り、一人になった私はのっそりと動き出す。
「……はぁ」
疲れた。唇が痛い。
そして今から、戸締りかぁ。
「だるーーーーーい!」
心の叫びが思わず口から飛び出る。
だって、一人で戸締りせんといかんもん。
せめて何人かにやらせろって思う。私一人だけて。死ぬて。
「うるさいよー、楓花」
その声は、唐突だった。
「うわ。ビックリした」
声のする方を反射的に見て、そこには桃杏ちゃんがいた。
音楽室の入り口で、こっちを可笑しそうに眺めている。
そういえば今日は桃杏ちゃんと一緒に帰る約束をしていたんだっけ。
いつもはお姉ちゃんと帰っていたからこういうのは初めてだ。
しかも、私たち。一応、付き合ってるんだし……。
いや、一応というか、普通に付き合っている。
お姉ちゃん離れもそうだし……なんというか、桃杏ちゃんとならって思えたし。
だから、そう。気まずいとか、そういう風になる必要はない。
「戸締り、手伝おうか?」
片手にカバンをぶら下げながら、そう聞いてくる。
私は、別に相手の好意を遠慮するタイプじゃない。
むしろ、折角の好意を断ることこそ失礼な気がする。
いや。遠慮するのは社交辞令というものなのかもしれないけど。
子供なんで、そういうのはイマイチよく分からない。
だから私は。
「おなしゃす!」
頭を下げて、無遠慮に。
お陰様で、すぐに戸締りを終えた。
空き教室の電気が付いていて無駄な労力を失ったけど、まぁいいや。
※
四階からの長い階段を下り終え、靴箱へと。
その時。ふと頭によぎったことを問うてみようと、私はこう切り出した。
「私たちって、付き合ってるんだよね?」
「──なっっっ!」
「なっっっ! じゃなくて、質問に答えろー」
スリッパから靴へと履き替えながら、からかうように私は言う。
「何でそんな質問をするの? え、まさか私たちって、まだ付き合えてない?」
「いやいや、全然付き合ってる気でいるんだけど、えっと。私、こういうの本当によくわからなくて、恋人同士って普通、手とか繋ぐもんじゃないかなーと、思いまして」
「なるほど。楓花は恋愛について何も知らない……と。ふーん?」
「まぁ。今までずっとお姉ちゃんにベッタリだったしね」
「え、待って。単純な疑問なんだけど。楓花ってシスコンだったわけじゃない? それがどうして私と付き合ってくれたの? え、振らんでよ?」
「振らないし、この話しなかったっけ?」
「されてないよ!」
「え、絶対したよ! ……あ、待って。心の中でしただけだった」
「もー。なにそれー」
「ごめんごめん。えっと──」
音楽室にいた時の思考を思い返す。
そのことを口にするというのは若干、恥ずかしさを覚える。
が。躊躇っていても仕方ないので、とりあえずそのままを言う。
「私、ずっとシスコンでいるわけにもいかないし、それに桃杏ちゃんならいいかなって思えたから……かな? きゃー恥ずい」
「マジっすか。超嬉しいです楓花先輩」
「私は同輩でーす。ともかく、早く学校でよ? 閉まっちゃうよ」
桃杏ちゃんをポンポンと叩いて急かす。
桃杏ちゃんも今日は歩きとのことで、私たちは小走りに正門をくぐる。
※
桃杏ちゃんとの帰り道。
ちょうど半分くらい歩いたかな?
そんな場所で、私は唐突に立ち止まる。
「あ。ここ美結ちゃんの家かー」
「誰それ? 誰その女? 楓花、浮気してるの?」
そんな謎の疑問を抱いた桃杏ちゃん。
本当に何を言ってんだって感じなんだけど、
「違う違う」と言い、私はすぐ傍にある家を指した。
「ただの幼馴染。ここの家に住んでる人。そういえば、五月以来。学校で見ないなって思って。Eクラだから、単純に離れていて見かけないのかもだけど」
「じゃあ、そうなんじゃない? 私たちはAクラだし」
「そっかぁ。ま、気にしすぎよね」
特に疑問を抱きもせず、歩みを再開する。
並走する桃杏ちゃんから、少し温度を感じた。
「あのさ。楓花」
「どしたの?」
「もう一回聞くけどさ。楓花は本当に恋愛に関して疎いんだよね」
「うん! 無さすぎる! 最後の恋愛経験は多分お母さんかもしれない」
「……ふーん。ねね? 知ってる?」
「なーに?」
前を向きながら、私は返事をした。
その返事から少し間が空いて、隣から生唾を飲み込む音が聞こえた。
続くように息を軽く吸い込む音が聞こえて。
出そうとしている声が引っかかっているような変な音が聞こえて。
「……付き合ったらね。普通は、最初にキスするものなんだよ」
か細い声で、そう吐き出された。
「ふーん。そうなんだ」
「あれ? 反応薄くない?」
「だって、普通のことなんでしょ? じゃあ、しようよ」
「え。本当にしていいの? え、どうしよう」
言い出しっぺのくせに、なぜか急に慌てる桃杏ちゃん。
私がこう返すのは予想外のことだったのだろうか。
「え。しないの?」
「します! 超します! させてください!」
「ん。いいよ」
歩みを止めた。
道端で、こんなことをしてもいいのかと疑問に思ったけど。
騒音被害なわけでもないし、桃杏ちゃん曰く普通のことなんだから、まぁ大丈夫なのだろう。……誰にも見られていないしね。
「……」
と言っても、ここからどうすればいいのだろうか。
ぶっちゅーってすればいいのだろうか。
何も分からないので、とりあえずここは桃杏ちゃんに任せよう。
私は目をつむった。
「んっ……」
ほっぺに柔らかい手が触れた。
微かにそれは震えている。
ゆっくりと、こっちに気配が近付いた。
「い……いきますよぅ!」
その声も震えていて、吐き出す息が私に当たる。
そして。私の上唇に彼女の唇が触れた。
下唇が、少し寂しいキスだった。
その触れた唇はすぐに私から遠ざかった。
目を開き、桃杏ちゃんを確認した。
「……キス、外したかも」
桃杏ちゃんは、恥ずかしそうに両手で顔面を覆った。
「何か恥ずかしいの?」
「いや、そりゃあ、ちょっと上にいっちゃったから。恥ずいよー」
「いやー。私的には、初のキスでちゃんと当てる方が難しいと思うけどな……」
「そう? じゃあ、もう一回──」
「続きはまた今度! ともかく、今は帰ろ!」
「えー、なんか物足りないよー」
「時間的に結構、やばいしさ。じゃあ、また明日しよ?」
「分かった。……せめて、手だけでも繋がせて」
「いいよー」
私から手を差し出して、それを桃杏ちゃんが握る。
手を繋ぐのも、何気に身内を除いて未経験だった。
順番的には、手を繋いで、ハグして、キス。だと思うけど。
桃杏ちゃんが満足ならそれでいいか。と、思考的にも前を向く。
いつも通る道の筈なのに、その場所は全く違っていて。
お姉ちゃんとの帰り道でも、結構輝くものがあるけど。
桃杏ちゃんとの帰り道は、色鮮やかだった。
好きだ。
部員、総勢五十人程の吹奏楽部。
その練習が今日も終わる。
次々と音楽室を出て行く面々。
それを見送り、一人になった私はのっそりと動き出す。
「……はぁ」
疲れた。唇が痛い。
そして今から、戸締りかぁ。
「だるーーーーーい!」
心の叫びが思わず口から飛び出る。
だって、一人で戸締りせんといかんもん。
せめて何人かにやらせろって思う。私一人だけて。死ぬて。
「うるさいよー、楓花」
その声は、唐突だった。
「うわ。ビックリした」
声のする方を反射的に見て、そこには桃杏ちゃんがいた。
音楽室の入り口で、こっちを可笑しそうに眺めている。
そういえば今日は桃杏ちゃんと一緒に帰る約束をしていたんだっけ。
いつもはお姉ちゃんと帰っていたからこういうのは初めてだ。
しかも、私たち。一応、付き合ってるんだし……。
いや、一応というか、普通に付き合っている。
お姉ちゃん離れもそうだし……なんというか、桃杏ちゃんとならって思えたし。
だから、そう。気まずいとか、そういう風になる必要はない。
「戸締り、手伝おうか?」
片手にカバンをぶら下げながら、そう聞いてくる。
私は、別に相手の好意を遠慮するタイプじゃない。
むしろ、折角の好意を断ることこそ失礼な気がする。
いや。遠慮するのは社交辞令というものなのかもしれないけど。
子供なんで、そういうのはイマイチよく分からない。
だから私は。
「おなしゃす!」
頭を下げて、無遠慮に。
お陰様で、すぐに戸締りを終えた。
空き教室の電気が付いていて無駄な労力を失ったけど、まぁいいや。
※
四階からの長い階段を下り終え、靴箱へと。
その時。ふと頭によぎったことを問うてみようと、私はこう切り出した。
「私たちって、付き合ってるんだよね?」
「──なっっっ!」
「なっっっ! じゃなくて、質問に答えろー」
スリッパから靴へと履き替えながら、からかうように私は言う。
「何でそんな質問をするの? え、まさか私たちって、まだ付き合えてない?」
「いやいや、全然付き合ってる気でいるんだけど、えっと。私、こういうの本当によくわからなくて、恋人同士って普通、手とか繋ぐもんじゃないかなーと、思いまして」
「なるほど。楓花は恋愛について何も知らない……と。ふーん?」
「まぁ。今までずっとお姉ちゃんにベッタリだったしね」
「え、待って。単純な疑問なんだけど。楓花ってシスコンだったわけじゃない? それがどうして私と付き合ってくれたの? え、振らんでよ?」
「振らないし、この話しなかったっけ?」
「されてないよ!」
「え、絶対したよ! ……あ、待って。心の中でしただけだった」
「もー。なにそれー」
「ごめんごめん。えっと──」
音楽室にいた時の思考を思い返す。
そのことを口にするというのは若干、恥ずかしさを覚える。
が。躊躇っていても仕方ないので、とりあえずそのままを言う。
「私、ずっとシスコンでいるわけにもいかないし、それに桃杏ちゃんならいいかなって思えたから……かな? きゃー恥ずい」
「マジっすか。超嬉しいです楓花先輩」
「私は同輩でーす。ともかく、早く学校でよ? 閉まっちゃうよ」
桃杏ちゃんをポンポンと叩いて急かす。
桃杏ちゃんも今日は歩きとのことで、私たちは小走りに正門をくぐる。
※
桃杏ちゃんとの帰り道。
ちょうど半分くらい歩いたかな?
そんな場所で、私は唐突に立ち止まる。
「あ。ここ美結ちゃんの家かー」
「誰それ? 誰その女? 楓花、浮気してるの?」
そんな謎の疑問を抱いた桃杏ちゃん。
本当に何を言ってんだって感じなんだけど、
「違う違う」と言い、私はすぐ傍にある家を指した。
「ただの幼馴染。ここの家に住んでる人。そういえば、五月以来。学校で見ないなって思って。Eクラだから、単純に離れていて見かけないのかもだけど」
「じゃあ、そうなんじゃない? 私たちはAクラだし」
「そっかぁ。ま、気にしすぎよね」
特に疑問を抱きもせず、歩みを再開する。
並走する桃杏ちゃんから、少し温度を感じた。
「あのさ。楓花」
「どしたの?」
「もう一回聞くけどさ。楓花は本当に恋愛に関して疎いんだよね」
「うん! 無さすぎる! 最後の恋愛経験は多分お母さんかもしれない」
「……ふーん。ねね? 知ってる?」
「なーに?」
前を向きながら、私は返事をした。
その返事から少し間が空いて、隣から生唾を飲み込む音が聞こえた。
続くように息を軽く吸い込む音が聞こえて。
出そうとしている声が引っかかっているような変な音が聞こえて。
「……付き合ったらね。普通は、最初にキスするものなんだよ」
か細い声で、そう吐き出された。
「ふーん。そうなんだ」
「あれ? 反応薄くない?」
「だって、普通のことなんでしょ? じゃあ、しようよ」
「え。本当にしていいの? え、どうしよう」
言い出しっぺのくせに、なぜか急に慌てる桃杏ちゃん。
私がこう返すのは予想外のことだったのだろうか。
「え。しないの?」
「します! 超します! させてください!」
「ん。いいよ」
歩みを止めた。
道端で、こんなことをしてもいいのかと疑問に思ったけど。
騒音被害なわけでもないし、桃杏ちゃん曰く普通のことなんだから、まぁ大丈夫なのだろう。……誰にも見られていないしね。
「……」
と言っても、ここからどうすればいいのだろうか。
ぶっちゅーってすればいいのだろうか。
何も分からないので、とりあえずここは桃杏ちゃんに任せよう。
私は目をつむった。
「んっ……」
ほっぺに柔らかい手が触れた。
微かにそれは震えている。
ゆっくりと、こっちに気配が近付いた。
「い……いきますよぅ!」
その声も震えていて、吐き出す息が私に当たる。
そして。私の上唇に彼女の唇が触れた。
下唇が、少し寂しいキスだった。
その触れた唇はすぐに私から遠ざかった。
目を開き、桃杏ちゃんを確認した。
「……キス、外したかも」
桃杏ちゃんは、恥ずかしそうに両手で顔面を覆った。
「何か恥ずかしいの?」
「いや、そりゃあ、ちょっと上にいっちゃったから。恥ずいよー」
「いやー。私的には、初のキスでちゃんと当てる方が難しいと思うけどな……」
「そう? じゃあ、もう一回──」
「続きはまた今度! ともかく、今は帰ろ!」
「えー、なんか物足りないよー」
「時間的に結構、やばいしさ。じゃあ、また明日しよ?」
「分かった。……せめて、手だけでも繋がせて」
「いいよー」
私から手を差し出して、それを桃杏ちゃんが握る。
手を繋ぐのも、何気に身内を除いて未経験だった。
順番的には、手を繋いで、ハグして、キス。だと思うけど。
桃杏ちゃんが満足ならそれでいいか。と、思考的にも前を向く。
いつも通る道の筈なのに、その場所は全く違っていて。
お姉ちゃんとの帰り道でも、結構輝くものがあるけど。
桃杏ちゃんとの帰り道は、色鮮やかだった。
好きだ。
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