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仲良し少女の恋愛相談
疑問を抱きながら
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『心音。その考えっていうのは何?』
小声で話すのも限界が訪れ、ラインで話を再開する。
と言っても、声を出さないのも、それは盗聴器の向こう側の人物──美結ちゃんが違和感を覚えてしまうだろう。
だから、不自然にならないように所々で声を挟んだ。
普通の日常の会話をしているように、ごく自然に。
『えっとですね。盗聴器で私たちの声を盗み聞いているのは、多分美結さんで正解だと思います』
『考えたくもないけど。うん。そうだよね』
『多分、向こうは盗聴器の存在がバレたと気付いていない筈です。伊奈さんの演技はそこそこ上手でしたから』
『え、上手だった? ありがとう!』
『はい。ラインをしている間に、どんどんと時間は過ぎています。……伊奈さん。美結さんの自宅はご存知なんですよね?』
送られてきたラインに私は「うん!」と返事をした。
不自然かもしれないが、喋らないよりかはマシだと思う。
立て続けるように、私は文字を入力した。
『そうだね。やっぱり、無事を確認するには家に行くのが一番だと思う』
ちょうどその考えを持っていたところだ。
たくさん存在する疑問を解消するよりも、美結ちゃんの無事を確かめるためには、やはり家に行くのが一番だと思う。
『はい。そうなんですが。そこで出てくる私の考えというのがですね。逆にこの盗聴器を利用してやろうという考えなんです』
『気になる。時間的に早く教えて!』
『はい。ですがその前に、やらなければいけないことがあります。……ちょっと待っていてください。職員室に行きます。そこにいるであろうEクラスの先生から美結さんの情報を引き出したいんです。善は急げと言いますが、こればっかりは聞く必要があります』
『どうして? さっき来た朱里ちゃんは、「担任はその人のことを知らない」的なこと言ってたよ?』
『どう考えても嘘でしょう。が……そこら辺は後々調べましょう』
『分かった。信じる。……でも、それなら私も着いて行った方がいいんじゃない? 美結ちゃんはEクラスの先生のことを、持ち物検査が厳しい怖い先生って言ってたけど……。だから私にこの箱を渡してきたんだけどさ。怖い先生なら、私も着いって行った方がいいと思うんだけど』
『怖い先生ですか……。それも嘘でしょう。それは伊奈さんに補聴器を預けるための口実だと思います。……というか伊奈さん。そういう大事なことはもっと早めに教えてください!』
『ごめん……』
自分でも文字を打ちながらなぜ気づかなかったと思うほどだが。
心音の顔を見れば、あまり怒ってなさそうだったので安心して頭を下げた。
『それで伊奈さん。あなたが着いてくるのは勿論とても嬉しいことですよ。ですが、人と話すことができるあなたが着いてきたら、私の計画は恐らく破綻するでしょう。そして私の考えている作戦というのはどうもかなり脆いです』
『待って。それならこの盗聴器をここに置いていけば良くないかな?』
我ながら良い案だと思った。
が、なぜか心音の手は止まり、私を見た。
やがてゆっくりと手は動き出す。
この話している時間もロスタイムなのではと思うけど。
私は気にせずに、返信が届くのを待った。
何せ心音の入力速度はかなり早い。
美結ちゃんに対する考えが心音にはあるのだから、寧ろこれくらいのロスは気にならないほどだった。
『えっとですね。変なところから話を始めますが、盗聴器を伊奈さんの胸ポケに入れさせたのは、恐らくですが「一番声が届きやすい」のが一番の理由で、次の理由は「衣擦れの音を聞くため」だと思うんです』
「なるほど?」
声に出して私は頷く。
届いたその返信の意味を、さして理解はしていなかった。
だけど私はそう頷く。その声を、美結ちゃんに届けるために。
『ここで注目して欲しいのが、二番目の理由である「衣擦れの音を聞くため」という部分です。どこかに置いてしまうと衣擦れの音は聞こえなくなります。……確か、伊奈さんは絶対に制服の胸ポケから出さないでと言われていたんですよね?』
『うん。まぁ、そんな感じのことは言われてた』
『ですよね。だから美結さんはここで「あれ? ポケットから出している?」を違和感を持つはずです』
『ちょっと待って。私が今、こうして立ち止まっている間はさ、衣擦れの音ってしないものじゃないの?』
思ったままを文章にすると、心音はまた困ったように指を止め。
また、その指を動き始めた。
『そうなんです。だから、これは保険なんです。私も盗聴器なんて勿論使ったことなんてないですから聞いている側がどう感じるか分かりません。だけど「空気感」というのでしょうか。胸ポケに入っている盗聴器の音声はこもって聞こえ、胸ポケから出した盗聴器の音声は開放的に聞こえるかもしれないです。箱に入ってるからそんなものは変わらないかもですが。まぁ……この話は別に今は深く理解する必要性はないです。詳しい話はまた今度します! とりあえず今は、このことは後回し! 私が職員室に行って先生に会う必要がありますから!』
その長文を読み終えた頃。
心音はすでに教室を出ていた。
開いたドアは、勢いよく開かれた反動で強く閉じられた。
ぶっちゃけて言うと、心音の書いたその文章の意味をさして理解ができなかった。
目で文字を追うが、それは頭によく入ってこない。
美結ちゃんのことで、今は頭がパンパンだったからだ。
「あぁ。明日の課題だるいなー」
心音の言っていることが分からない今。
帰ってくるまで、こんなアホみたいな演技を続けることでしか、私は役に立てない。
私のこの声に、美結ちゃんは違和感を持つだろうか?
まぁ心音曰く、さっきの演技も上手だったらしいし大丈夫。
心音が帰ってくるその間まで、このアホみたいな演技を続けよう。
小声で話すのも限界が訪れ、ラインで話を再開する。
と言っても、声を出さないのも、それは盗聴器の向こう側の人物──美結ちゃんが違和感を覚えてしまうだろう。
だから、不自然にならないように所々で声を挟んだ。
普通の日常の会話をしているように、ごく自然に。
『えっとですね。盗聴器で私たちの声を盗み聞いているのは、多分美結さんで正解だと思います』
『考えたくもないけど。うん。そうだよね』
『多分、向こうは盗聴器の存在がバレたと気付いていない筈です。伊奈さんの演技はそこそこ上手でしたから』
『え、上手だった? ありがとう!』
『はい。ラインをしている間に、どんどんと時間は過ぎています。……伊奈さん。美結さんの自宅はご存知なんですよね?』
送られてきたラインに私は「うん!」と返事をした。
不自然かもしれないが、喋らないよりかはマシだと思う。
立て続けるように、私は文字を入力した。
『そうだね。やっぱり、無事を確認するには家に行くのが一番だと思う』
ちょうどその考えを持っていたところだ。
たくさん存在する疑問を解消するよりも、美結ちゃんの無事を確かめるためには、やはり家に行くのが一番だと思う。
『はい。そうなんですが。そこで出てくる私の考えというのがですね。逆にこの盗聴器を利用してやろうという考えなんです』
『気になる。時間的に早く教えて!』
『はい。ですがその前に、やらなければいけないことがあります。……ちょっと待っていてください。職員室に行きます。そこにいるであろうEクラスの先生から美結さんの情報を引き出したいんです。善は急げと言いますが、こればっかりは聞く必要があります』
『どうして? さっき来た朱里ちゃんは、「担任はその人のことを知らない」的なこと言ってたよ?』
『どう考えても嘘でしょう。が……そこら辺は後々調べましょう』
『分かった。信じる。……でも、それなら私も着いて行った方がいいんじゃない? 美結ちゃんはEクラスの先生のことを、持ち物検査が厳しい怖い先生って言ってたけど……。だから私にこの箱を渡してきたんだけどさ。怖い先生なら、私も着いって行った方がいいと思うんだけど』
『怖い先生ですか……。それも嘘でしょう。それは伊奈さんに補聴器を預けるための口実だと思います。……というか伊奈さん。そういう大事なことはもっと早めに教えてください!』
『ごめん……』
自分でも文字を打ちながらなぜ気づかなかったと思うほどだが。
心音の顔を見れば、あまり怒ってなさそうだったので安心して頭を下げた。
『それで伊奈さん。あなたが着いてくるのは勿論とても嬉しいことですよ。ですが、人と話すことができるあなたが着いてきたら、私の計画は恐らく破綻するでしょう。そして私の考えている作戦というのはどうもかなり脆いです』
『待って。それならこの盗聴器をここに置いていけば良くないかな?』
我ながら良い案だと思った。
が、なぜか心音の手は止まり、私を見た。
やがてゆっくりと手は動き出す。
この話している時間もロスタイムなのではと思うけど。
私は気にせずに、返信が届くのを待った。
何せ心音の入力速度はかなり早い。
美結ちゃんに対する考えが心音にはあるのだから、寧ろこれくらいのロスは気にならないほどだった。
『えっとですね。変なところから話を始めますが、盗聴器を伊奈さんの胸ポケに入れさせたのは、恐らくですが「一番声が届きやすい」のが一番の理由で、次の理由は「衣擦れの音を聞くため」だと思うんです』
「なるほど?」
声に出して私は頷く。
届いたその返信の意味を、さして理解はしていなかった。
だけど私はそう頷く。その声を、美結ちゃんに届けるために。
『ここで注目して欲しいのが、二番目の理由である「衣擦れの音を聞くため」という部分です。どこかに置いてしまうと衣擦れの音は聞こえなくなります。……確か、伊奈さんは絶対に制服の胸ポケから出さないでと言われていたんですよね?』
『うん。まぁ、そんな感じのことは言われてた』
『ですよね。だから美結さんはここで「あれ? ポケットから出している?」を違和感を持つはずです』
『ちょっと待って。私が今、こうして立ち止まっている間はさ、衣擦れの音ってしないものじゃないの?』
思ったままを文章にすると、心音はまた困ったように指を止め。
また、その指を動き始めた。
『そうなんです。だから、これは保険なんです。私も盗聴器なんて勿論使ったことなんてないですから聞いている側がどう感じるか分かりません。だけど「空気感」というのでしょうか。胸ポケに入っている盗聴器の音声はこもって聞こえ、胸ポケから出した盗聴器の音声は開放的に聞こえるかもしれないです。箱に入ってるからそんなものは変わらないかもですが。まぁ……この話は別に今は深く理解する必要性はないです。詳しい話はまた今度します! とりあえず今は、このことは後回し! 私が職員室に行って先生に会う必要がありますから!』
その長文を読み終えた頃。
心音はすでに教室を出ていた。
開いたドアは、勢いよく開かれた反動で強く閉じられた。
ぶっちゃけて言うと、心音の書いたその文章の意味をさして理解ができなかった。
目で文字を追うが、それは頭によく入ってこない。
美結ちゃんのことで、今は頭がパンパンだったからだ。
「あぁ。明日の課題だるいなー」
心音の言っていることが分からない今。
帰ってくるまで、こんなアホみたいな演技を続けることでしか、私は役に立てない。
私のこの声に、美結ちゃんは違和感を持つだろうか?
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心音が帰ってくるその間まで、このアホみたいな演技を続けよう。
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