女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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仲良し少女の恋愛相談

美結ちゃんの家へ。全速力!

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 荒々しい息を吐きながら、いつもの長い階段を下った。
 生徒や先生から、妙なものを見るような視線を受けている。
 が、それを振り払い、とにかく全速力でまずは靴箱へと向かった。

「──っはぁ。はぁ」

 途切れる息。
 呼吸を整えながらも、速く。速く。

 一段飛ばし。二段飛ばしと階段を下りて。
 一階まで、下り切る。

 立ち止まって。少し深呼吸。
 ……うん。まだあまり疲れていない。
 というか、美結ちゃんのためならまだ走れる。

 心音のあの言い方的に、美結ちゃんはまだ家にいるらしい。
 『死ぬかも』とそう言っていたが、方法が私には分からない。
 自殺の仕方なんて、結構限られていはいるはずだが。
 美結ちゃんは、盗聴器なんて持っているくらいだ。
 どういう方法で決行するのか何も分からない。
 と、最悪の可能性が前提になっているのもおかしい。
 まだ家にいるのなら、そんなことを考えているのも変だ。

 私は走り出すと同時に、その暗鬱な考えを振りほどく。
 だめだ。今は家に行くことだけに焦点を置こう。
 さっきから余計なことを考えすぎている。
 って、これもさっきから何度も思っていることだけど。

「──っはぁ。よし」

 靴箱まで走りついて。靴に履き替える間に少し休憩。
 その休憩時間も数秒で終わりを迎え、また走り出した。

 余計なことは考えない。
 溢れまくっている謎が私のことを悩ます。が、もう考えない。

「考えないぞーーーー‼︎」

 邪念を私の大声で消滅させる。
 陸上部らしき人間から冷たい視線を感じるけど。
 これも気にしない! 考えない!
 浮くことに関してはめっちゃ慣れているから。
 いや、慣れるわけはないけど。場数を踏んできたってことだ。

「──っ」

 髪が揺れて私の視界の邪魔になる。
 それくらいにめちゃくちゃに走っていた。
 流石に邪魔すぎるので、私は一旦立ち止まり、ポケットからゴムひもを取り出して。前髪を全部あげて、それを結ぶ。
 めっちゃデコが広い変な人になったけど。これも気にしない!
 違和感を頭に感じつつも、私はまた足を動かす。

 正門を抜けて、いつもの住宅街に入る。
 私の帰路の途中にあるので、結構すぐそこにあるのだ。

 今は中学生の制服を着た生徒が下校をしている途中だった。
 私が中学の頃、着ていた制服である。
 その人たちからも、変な視線を浴びせられる。
 もちろん無視して、前のめりに走り続ける。

「──はぁっ」

 呼吸をすることすらも困難になって。自身の疲れを自覚する。
 無我夢中に走りすぎて、そんなことすらもすっかり忘れていた。
 だが。もう目的地まであと僅か。
 私は息を大きく吸い込むと、ラストスパートをかけた。

 足がくたびれ、感覚がなくなる。
 もう少し走ったらその場で倒れてしまいそうな。それくらいの頃だった。
 我慢できず、すぐ横のブロック塀にもたれかかった時、顔をなんとなく上げて昔見慣れたその家に気付いた。

「……着いた」

 走りきった感動を覚えながら、私はドアの前まで近付き。
 ゴムひもをとって、垂れる前髪を横に分けて。
 インターホンを鳴らす。
 それを押す私の手は、めっちゃ汗にまみれていた。

 ──ピンポーン。

「はーい」

 ドアに阻まれ曇った声が、奥の方から返ってきて。
 続けてドタドタと、うるさい足音が近付いてくる。

 子機に映る私を確認しなかったのだろう。
 ドアを開き、出てきたその女性は、私の顔を見て目を丸くした。

「あぁ! 伊奈さんよね? 久しぶりね!」
「お久しぶりです」

 ぺこりと頭を下げる。
 確かに久しぶりだ。
 私は朝とかにゴミ出しに行くこの人の姿を見たりするのだけど、こうして対面になるのは多分小学生以来だろう。多分。

「美結なら、今外に行っててここにはいないけど……どうしたの?」

 と。
 何も言っていないのにそんなことを言ってきた。
 いや。まぁ、私が家に来る用事は美結ちゃんが関係していると勘違いしている?

「え。そうですか。本当にいないんですか?」
「えぇ。ごめんね、伊奈さん」

「あぁいえ……」

 ……これは違和感を覚えて当然なのではないか?
 だって今の私の少し上がった息、汗で濡れまくった全身。
 その他諸々を跳ね除けて、第一に美結ちゃんのことを言ってきたのだ。
 これはおかしい。うん、おかしい。

「美結ちゃんは、今どこにいるのか教えて貰えますか?」

 聞いてみる。

「あぁ。……えっと」

 言葉を詰まらせた。
 これはもう、察しの悪い自分でも分かる。
 美結ちゃんの母さんは嘘を吐いている。
 言い訳を考えていない人の言葉の詰まらせ方だ。知らんけど。
 なぜ嘘を吐くのか理由は分からない。分かる必要もない。

「あー。分かりました! また今度出向きますね!」

 大きくそう言って見せた。
 家の中にいる美結ちゃんに、この声が届くように。

「あ。すみませんね。じゃあ、また今度。ごめんなさいね。お茶の一つも出してあげられなくて」
「大丈夫ですよ! さようなら!」

 大袈裟な身振りで振り返り、私は一旦道路へと出た。
 背中に当たるドアの閉まる音。
 それを聞いて、数秒待つ。
 また振り返る。

 さっきのドアを見る。
 その奥から、足音が聞こえるが、その音はどんどん遠ざかっていった。

 小学生の頃。
 この家には散々お世話になっている。
 この家に何があるか。どういう構造なのか。
 全て理解しているつもりだった。

 不法侵入?
 うん。これは不法侵入だ。

 私は敷地に入って、直ぐ左に曲がる。
 そこはこの美結ちゃんの家の庭だった。
 リビングからそこの庭は見えるのだが、カーテンは閉まっていた。
 別に開いていても匍匐ほふく前進をすればバレないとは思うが。
 ともかく私は足音を立てないように、その前をゆっくりと通過する。

 そして家の裏へとやってきた。
 かなり狭くて、1.5人分くらいの広さだ。
 そこに置かれている物が私には必要だった。
 移動されている心配もしたが、まぁこんなものは外に置く他ないだろう。

 後で家の人にどう思われてもいい。
 やっていることは頭おかしいけど、元々頭はおかしい。
 だから、こんなことしても私の頭がそれを許してくれる。

 美結ちゃんは家にいるという確信がある。
 その確信があるからこそ、今は私はこうしているのだ。

 横に倒されて置かれているそれに、私は手を伸ばす。
 とは、半分に畳まれた脚立きゃたつだ。

「待っていてね。美結ちゃん」
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