女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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見上げた空は蒼かった

独り思考

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 死のう死のう。
 私はこの世に必要のない存在だから。
 死ぬべきだ。
 死んだって誰も悲しまない。
 そう思い込んでいる。
 けどなかなか実行に移せない。
 それは何でだろう。
 ただ時間だけが過ぎていく。

 ずっとそういう心持ちだった。
 
 

 私の名前は白河美結。
 白い河と書いて白河。
 美結と書いて美結。
 いい名前だと思う。この響きが好きだ。

 私は変人だ。
 心の中でこんな思考をしている時点でお察しだろう。
 だが、そんなことは私の人生の過酷さに比べたらどうでもいい。
 私がこうなってしまったのは、きっと、恋をしてしまったせいだろう。
 あの時好きにならなければ、こんなことにはなって無かった。
 けど。……けど。悪いのは、全部私だった。



 話を遡って、小学生の頃。
 私には好きな人がいた。
 それが先の、私の人生を狂わせた人だった。
 好きになった経緯は、いつも私と遊んでくれていたから。ただそれだけ。
 私はいつも一人でいたということもあり、遊んでくれる人はいなかった。
 その人に誘われたのも、最初は数合わせとしか思わなかった。
 だから気を遣われてると思い、私はどんどん惨めな気持ちに陥った。
 私はある日、聞いてみた。

「なんで私なんかに構うの?」

 登校中。
 前を歩くその人に。
 聞けば、笑顔で振り返った。

「仲良くなりたいから!」

 そう言われて、また前を歩き出した。
 多分、この時だった。
 恋に落とされた瞬間は。
 屈託の無いその笑顔に、私は惚れたのだ。

 私はそんなに記憶は良い方ではないが、そこから私の人生が色付き始めたんだと思う。
 だからこそ。中学になる前、父の転勤が決まったその時、私は絶望した。
 その転勤先は、住んでいた場所からかなり離れていた。
 父が車で毎日通うのは困難な距離。
 仕方なく、私は引越しを受け入れた。
 引越しといっても、超不幸中の小幸いというべきか、その転勤先の近くには祖父母の家があったので、そこに滞在する事となり、マンションなどを新しく購入する必要は無かった。
 なぜマンションを購入しなかったかというのは割と簡単な事で、単純に金の問題だ。
 それに母は母の仕事があるということで、私は父に着いていくこととなり母とは離れ離れになってしまった。
 日曜日に、私と父は祖父母の家から元々住んでいた家へと戻り、父母と三人で家族の時間を過ごした。
 初恋の彼女と会おうと思えば、その時会えたんだと思う。

 いや、一度会おうと私は外へ出て、その人を探した。
 けれど見つからず、仕方ないと思いつつ、家に帰れば、リビングで母は泣いていた。
 なんで? と、そう問うた。

「私に会うために帰ってきたんじゃないの……?」

 だと。そう言われてしまった。
 母は悪い人じゃない、けれどこういうところがある人だった。
 だから私はそれ以来、家に帰ってきても外に出ることは無くなった。

 話は進み、中学三年の十一月。
 また父の転勤が決まった。
 そこが、元々住んでいた家の近くだった。
 今までに無いほど、私は喜んだ。
 私は祖父母の家の近くにある割と優秀な進学校にいく予定だったが、すぐに志望校を変更した。それが今いる女子校だ。
 何より、高校は別であれ、また初恋の彼女に会う可能性があるかもしれないという事実に私は高揚した。
 私立なので、合格は当然のこと。
 私は授業料が半額になるS判定で受かる事ができた。

 だけど。
 中学三年生の三月。
 元の家に引越し、高校の制服の採寸を終え、新しい学校生活にウキウキしていた頃だっただろうか。
 私の人生の転機とも言える事が起きた。
 私は、ある病気を発症した。
 それは『起立性調節障害』という病気だ。
 その病気の症状は、簡単に言えば『朝、起きることができない』というものだった。
 思春期で発症する傾向が多く、私の持っている偏頭痛がそれの一因だったらしい。

 母に無理矢理起こして貰ったが、私は起きることができない。
 生活習慣を直した方がいいとの事で、私は春休みの間、病気の症状がほぼ無くなる午後から運動などもしたが、それでも朝、起きられないことには変わりなかった。

 そして四月も幾つか過ぎ、入学式になった。
 私は。入学式に出席できなかった。
 学校生活というのは最初が肝心であり、そのスタートダッシュを私は逃してしまった。
 私は学校に行けなくなった。

 四月も終わる頃。
 私は初めて学校に行った。
 授業は出ていない。
 親と共に、先生のところへ話し合いに言ったためだ。
 有難いことに先生方は優しかった。
 今まで一度も学校に来ていない私を、何も咎めなかった。
 病気が治るまで、学校は午後から登校で、夜に家で単位をとるために先生から出された宿題をこなせばいいと言ってくれた。
 それでも私は悩んでいた。
 単に学校に行きづらかったからだ。

 五月になった。
 私はまだ、家に篭もりっぱなしだった。
 寝る時間が朝になり、起きる時間が夕方。
 それから、担任が家に届けてきてくれた課題を解き、なんとか一部の単位をとることはできていた。

 日に日に惨めな気持ちになり。
 両親や先生に対する罪悪感、自分に対する嫌悪感に苛まれていった。

 そんなある日。
 夕方六時に起きた私は。
 ベッドから身を起こし、何となくカーテンを開いた。
 本当に何となくだ。
 多分寝ぼけていたからだと思う。

 窓の外から射し込んだ、沈みかけの夕日の光は私にとって何日かぶりに目にする太陽だった。
 そのまま、ただぼーっと外を眺めた。
 見下ろした道路には、犬の散歩をしている少女や遊び帰りの自転車小僧、仲良く一緒に帰る女子学生数人。
 それを見て、私は初めて、自分の病気を心の底から恨んだ。
 その人たちが楽しそうだったからだ。
 なんでなりたくてなった訳でもない病気に、ここまで苦しまなければならないのか、自分にとってそれに対する都合のいい答えを見つけることはできなかった。

 ──これ以上眺めていても、自分が嫌になるだけだ。

 カーテンに手をかけ、それを閉めようとした時、丁度視界の端に人影が映る。
 そこにいたのが普通の人だったら、そんなの気にせず、もうカーテンを閉めるとこだったが私はそうはしなかった。

 私の学校と同じ制服。
 どこかで見た、二人の女学生。
 病気に囚われ、忘れかけていたその存在。
 この家に戻ってこれて大いに喜んだのは、見下ろした先にいるその存在がこの近くにいたから。

 走馬灯の様に思い出された私の記憶。
 カーテンを開いた私に、深く感謝をした。

「伊奈ちゃん…………」

 私の初恋の人。
 と、その人の妹。
 二人で一緒に歩いていた。道の真ん中。
 私の人生に、再び転機が訪れた。そう思った。
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