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見上げた空は蒼かった
それからの日々
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九月になって私が学校に行った理由は、やはり伊奈ちゃんの存在がいたからだけど、五月のあの頃は伊奈ちゃんのせいで私はこんなになってしまったと思い込んでいて、なんだか矛盾している。
だけど。それについては伊奈ちゃんのせいではないと気付くことができた。
いや。今考えてみれば伊奈ちゃんのせいではないことは明白だったけど。
あの時の自分はとにかく病んでいた。今となってはそれが理解できる。
病んでいる時って、案外自分が病んでいることには気づけないものだった。
話を戻して、私が伊奈ちゃんのせいではないと気付けたのは、カウンセリングを受け始めてからだった。
五月からは、ほぼ放心状態で生活、というかほぼ寝たきりみたいな生活をしていて、両親はそれを見かねたのだろう。
六月のある日、家にカウンセラーを名乗る女性がやってきた。
促されるまま、私はその人の話やら聞いた。
最初は「これが自己啓発セミナーか」みたいな、可愛げのないことを思っていたけれど、二週間に一度訪れるその女性の話を聞いている内に、次第に私は心が軽くなった。
少なくとも私の味方になってくれた女性だった。
担任の先生も、定期的に家にやってくる。
先生も一応、私の味方っぽいけど。……ってそりゃそうだ。教師なのだから。
だけど。五月の頃、グループラインであった出来事を知らないようだった。
つまりあのグループにいた人たちは、誰も先生に私のことを話していないのだろう。結構みんな薄情である。
まぁ恐らく、私の悪口を言っていた奴らが口止めをしているんだろうけど。
けど。それらは、もうどうでもよくなった。
なぜか。答えは単純で、単位を落としてしまったからだ。
先生は悲しそうに『留年』か『退学』か『転校』を選べと言った。
これが、七月の出来事だった。
通信制の高校に転校を決めた。
私は親にほとんどを任せ、転校の手続きをした。
学校は一学期いっぱいまで、私の籍があるらしい。
つまり二学期が明ける九月からは、私の籍はなくなるようだった。
八月。
朝、起きれないことには変わりなかったが、少し元気になってきた。
これも、カウンセラーの女性と、両親のお陰様だった。
あの日の嫌な出来事が次第に頭の中で薄くなり、思い返せるのは良い思い出。
私は、伊奈ちゃんのことが好きだったということを思い出した。
あの時、私がこんな風になったのは、なんで伊奈ちゃんのせいだと思ったのか、分からない。あの時の私は盲目的だったと思う。
正直、もうあの女子校のことはどうでもよくなったが、忘れ物を取りに行こうと、その時決心した。
伊奈ちゃんのことだ。
九月も中頃。
通信校から出された課題をやっていく日々だった。
うん。楽しいわけではないけど、少なくとも辛さは無かった。
伊奈ちゃんにいつ会いに行こうかと悩んでいた。
勿論想いを伝えるためだった。口で伝えるのは恥ずかしいので手紙にした。
家に会いに行こうか学校に会いに行こうかで悩みもしたが、学校にした。
手紙を家で渡すのも不自然な上に、急に押しかけるのも失礼な気がしたから。
相談部という部活の部長らしいので、前回の恋愛相談の続きということで部室へ行き、そこで手紙を渡せば自然だと思った。
学校の先生には忘れ物を取りに来たということにすればいいだろう。
日曜日。明日は月曜日なのでということで、手紙を書くことにした。
久しぶりに、いつかの便箋を取り出して、伊奈ちゃんへの想いを書き綴った。
昼から夜まで、書いては消し、書いては消しを繰り返し。
清書をして、その手紙の出来栄えに私は大きく頷いた。
月曜日。昼に起きて、私はリビングへと下り、母に頭を下げた。
「おはよう」
今日は母は夜勤の日なので、今はこうして家にいる。
「あら、おはよう。今日は結構早かったわね」
「うん。まぁね」
今の時間は十三時。お世辞にも早いとは言えない。
まぁ。これが私にとっての早いなのだが。
私はそう頷くと、続けてこう話す。
手紙を渡すために、学校に行きたいという事を伝えるためだ。
だけど、そう言うわけにもいかないので、そこに少し嘘を混ぜる。
「ねぇ。急に思い出したことがあってさ。学校に私の大事なものを忘れたんだよね……。それを取り行きたいなって」
そこまで言うと、母は心配そうな表情を浮かべる。
「そうなの? 大丈夫? 私が取りに行けるけど……」
「大丈夫。それ、他の人には見られたくないほどプライベートなものでさ」
少し嘘を吐きすぎな気もするが、伊奈ちゃんに会うためだ。仕方ない。
「それって教室? 取りに行くの嫌じゃない?」
「一年生の教室ではないんだ。一応母さんには付いてきて欲しいんだけど。……その部屋の鍵が必要で、職員室で借りてきて欲しいなって」
「わかった」
母は怪訝そうな顔になりながらも、そう頷いた。
※
これを独りで思考しているのは三日後の木曜日の私。
部屋でうずくまりながら、カーテンが閉められた暗い部屋でこんなことを考えている。
思い返す私の人生は、とても哀れなものだと思う。
どうせ失敗に終わるのだから、この時の私の張り切り様は、正直言って馬鹿馬鹿しい。
ここで私が学校に行ったせいで、さらに私はどん底へと突き落とされたのだ。
やっぱり伊奈ちゃんのせいだ。
これ以上考えても余計に辛くなるだけだと言うのに、私は回想を続けた。
だけど。それについては伊奈ちゃんのせいではないと気付くことができた。
いや。今考えてみれば伊奈ちゃんのせいではないことは明白だったけど。
あの時の自分はとにかく病んでいた。今となってはそれが理解できる。
病んでいる時って、案外自分が病んでいることには気づけないものだった。
話を戻して、私が伊奈ちゃんのせいではないと気付けたのは、カウンセリングを受け始めてからだった。
五月からは、ほぼ放心状態で生活、というかほぼ寝たきりみたいな生活をしていて、両親はそれを見かねたのだろう。
六月のある日、家にカウンセラーを名乗る女性がやってきた。
促されるまま、私はその人の話やら聞いた。
最初は「これが自己啓発セミナーか」みたいな、可愛げのないことを思っていたけれど、二週間に一度訪れるその女性の話を聞いている内に、次第に私は心が軽くなった。
少なくとも私の味方になってくれた女性だった。
担任の先生も、定期的に家にやってくる。
先生も一応、私の味方っぽいけど。……ってそりゃそうだ。教師なのだから。
だけど。五月の頃、グループラインであった出来事を知らないようだった。
つまりあのグループにいた人たちは、誰も先生に私のことを話していないのだろう。結構みんな薄情である。
まぁ恐らく、私の悪口を言っていた奴らが口止めをしているんだろうけど。
けど。それらは、もうどうでもよくなった。
なぜか。答えは単純で、単位を落としてしまったからだ。
先生は悲しそうに『留年』か『退学』か『転校』を選べと言った。
これが、七月の出来事だった。
通信制の高校に転校を決めた。
私は親にほとんどを任せ、転校の手続きをした。
学校は一学期いっぱいまで、私の籍があるらしい。
つまり二学期が明ける九月からは、私の籍はなくなるようだった。
八月。
朝、起きれないことには変わりなかったが、少し元気になってきた。
これも、カウンセラーの女性と、両親のお陰様だった。
あの日の嫌な出来事が次第に頭の中で薄くなり、思い返せるのは良い思い出。
私は、伊奈ちゃんのことが好きだったということを思い出した。
あの時、私がこんな風になったのは、なんで伊奈ちゃんのせいだと思ったのか、分からない。あの時の私は盲目的だったと思う。
正直、もうあの女子校のことはどうでもよくなったが、忘れ物を取りに行こうと、その時決心した。
伊奈ちゃんのことだ。
九月も中頃。
通信校から出された課題をやっていく日々だった。
うん。楽しいわけではないけど、少なくとも辛さは無かった。
伊奈ちゃんにいつ会いに行こうかと悩んでいた。
勿論想いを伝えるためだった。口で伝えるのは恥ずかしいので手紙にした。
家に会いに行こうか学校に会いに行こうかで悩みもしたが、学校にした。
手紙を家で渡すのも不自然な上に、急に押しかけるのも失礼な気がしたから。
相談部という部活の部長らしいので、前回の恋愛相談の続きということで部室へ行き、そこで手紙を渡せば自然だと思った。
学校の先生には忘れ物を取りに来たということにすればいいだろう。
日曜日。明日は月曜日なのでということで、手紙を書くことにした。
久しぶりに、いつかの便箋を取り出して、伊奈ちゃんへの想いを書き綴った。
昼から夜まで、書いては消し、書いては消しを繰り返し。
清書をして、その手紙の出来栄えに私は大きく頷いた。
月曜日。昼に起きて、私はリビングへと下り、母に頭を下げた。
「おはよう」
今日は母は夜勤の日なので、今はこうして家にいる。
「あら、おはよう。今日は結構早かったわね」
「うん。まぁね」
今の時間は十三時。お世辞にも早いとは言えない。
まぁ。これが私にとっての早いなのだが。
私はそう頷くと、続けてこう話す。
手紙を渡すために、学校に行きたいという事を伝えるためだ。
だけど、そう言うわけにもいかないので、そこに少し嘘を混ぜる。
「ねぇ。急に思い出したことがあってさ。学校に私の大事なものを忘れたんだよね……。それを取り行きたいなって」
そこまで言うと、母は心配そうな表情を浮かべる。
「そうなの? 大丈夫? 私が取りに行けるけど……」
「大丈夫。それ、他の人には見られたくないほどプライベートなものでさ」
少し嘘を吐きすぎな気もするが、伊奈ちゃんに会うためだ。仕方ない。
「それって教室? 取りに行くの嫌じゃない?」
「一年生の教室ではないんだ。一応母さんには付いてきて欲しいんだけど。……その部屋の鍵が必要で、職員室で借りてきて欲しいなって」
「わかった」
母は怪訝そうな顔になりながらも、そう頷いた。
※
これを独りで思考しているのは三日後の木曜日の私。
部屋でうずくまりながら、カーテンが閉められた暗い部屋でこんなことを考えている。
思い返す私の人生は、とても哀れなものだと思う。
どうせ失敗に終わるのだから、この時の私の張り切り様は、正直言って馬鹿馬鹿しい。
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これ以上考えても余計に辛くなるだけだと言うのに、私は回想を続けた。
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