女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

文字の大きさ
50 / 82
見上げた空は蒼かった

それからの日々

しおりを挟む
 九月になって私が学校に行った理由は、やはり伊奈ちゃんの存在がいたからだけど、五月のあの頃は伊奈ちゃんのせいで私はこんなになってしまったと思い込んでいて、なんだか矛盾している。

 だけど。伊奈ちゃんのせいではないと気付くことができた。
 いや。今考えてみれば伊奈ちゃんのせいではないことは明白だったけど。
 あの時の自分はとにかく病んでいた。今となってはそれが理解できる。
 病んでいる時って、案外自分が病んでいることには気づけないものだった。

 話を戻して、私が伊奈ちゃんのせいではないと気付けたのは、カウンセリングを受け始めてからだった。
 五月からは、ほぼ放心状態で生活、というかほぼ寝たきりみたいな生活をしていて、両親はそれを見かねたのだろう。
 六月のある日、家にカウンセラーを名乗る女性がやってきた。
 促されるまま、私はその人の話やら聞いた。
 最初は「これが自己啓発セミナーか」みたいな、可愛げのないことを思っていたけれど、二週間に一度訪れるその女性の話を聞いている内に、次第に私は心が軽くなった。
 少なくとも私の味方になってくれた女性だった。

 担任の先生も、定期的に家にやってくる。
 先生も一応、私の味方っぽいけど。……ってそりゃそうだ。教師なのだから。
 だけど。五月の頃、グループラインであった出来事を知らないようだった。
 つまりあのグループにいた人たちは、誰も先生に私のことを話していないのだろう。結構みんな薄情である。
 まぁ恐らく、私の悪口を言っていた奴らが口止めをしているんだろうけど。

 けど。それらは、もうどうでもよくなった。
 なぜか。答えは単純で、単位を落としてしまったからだ。
 先生は悲しそうに『留年』か『退学』か『転校』を選べと言った。
 これが、七月の出来事だった。
 通信制の高校に転校を決めた。
 私は親にほとんどを任せ、転校の手続きをした。
 学校は一学期いっぱいまで、私の籍があるらしい。
 つまり二学期が明ける九月からは、私の籍はなくなるようだった。

 八月。
 朝、起きれないことには変わりなかったが、少し元気になってきた。
 これも、カウンセラーの女性と、両親のお陰様だった。
 あの日の嫌な出来事が次第に頭の中で薄くなり、思い返せるのは良い思い出。
 私は、伊奈ちゃんのことが好きだったということを思い出した。
 あの時、私がこんな風になったのは、なんで伊奈ちゃんのせいだと思ったのか、分からない。あの時の私は盲目的だったと思う。
 正直、もうあの女子校のことはどうでもよくなったが、忘れ物を取りに行こうと、その時決心した。
 伊奈ちゃんのことだ。

 九月も中頃。
 通信校から出された課題をやっていく日々だった。
 うん。楽しいわけではないけど、少なくとも辛さは無かった。
 伊奈ちゃんにいつ会いに行こうかと悩んでいた。
 勿論想いを伝えるためだった。口で伝えるのは恥ずかしいので手紙にした。
 家に会いに行こうか学校に会いに行こうかで悩みもしたが、学校にした。
 手紙を家で渡すのも不自然な上に、急に押しかけるのも失礼な気がしたから。
 相談部という部活の部長らしいので、前回の恋愛相談の続きということで部室へ行き、そこで手紙を渡せば自然だと思った。
 学校の先生には忘れ物を取りに来たということにすればいいだろう。

 日曜日。明日は月曜日なのでということで、手紙を書くことにした。
 久しぶりに、いつかの便箋を取り出して、伊奈ちゃんへの想いを書き綴った。
 昼から夜まで、書いては消し、書いては消しを繰り返し。
 清書をして、その手紙の出来栄えに私は大きく頷いた。

 月曜日。昼に起きて、私はリビングへと下り、母に頭を下げた。

「おはよう」

 今日は母は夜勤の日なので、今はこうして家にいる。

「あら、おはよう。今日は結構早かったわね」
「うん。まぁね」

 今の時間は十三時。お世辞にも早いとは言えない。
 まぁ。これが私にとっての早いなのだが。

 私はそう頷くと、続けてこう話す。
 手紙を渡すために、学校に行きたいという事を伝えるためだ。
 だけど、そう言うわけにもいかないので、そこに少し嘘を混ぜる。

「ねぇ。急に思い出したことがあってさ。学校に私の大事なものを忘れたんだよね……。それを取り行きたいなって」

 そこまで言うと、母は心配そうな表情を浮かべる。

「そうなの? 大丈夫? 私が取りに行けるけど……」
「大丈夫。それ、他の人には見られたくないほどプライベートなものでさ」

 少し嘘を吐きすぎな気もするが、伊奈ちゃんに会うためだ。仕方ない。

「それって教室? 取りに行くの嫌じゃない?」
「一年生の教室ではないんだ。一応母さんには付いてきて欲しいんだけど。……その部屋の鍵が必要で、職員室で借りてきて欲しいなって」

「わかった」

 母は怪訝そうな顔になりながらも、そう頷いた。


    ※


 これを独りで思考しているのは三日後の木曜日の私。
 部屋でうずくまりながら、カーテンが閉められた暗い部屋でこんなことを考えている。
 思い返す私の人生は、とても哀れなものだと思う。
 どうせ失敗に終わるのだから、この時の私の張り切り様は、正直言って馬鹿馬鹿しい。
 ここで私が学校に行ったせいで、さらに私はどん底へと突き落とされたのだ。
 やっぱり伊奈ちゃんのせいだ。

 これ以上考えても余計に辛くなるだけだと言うのに、私は回想を続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...