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見上げた空は蒼かった
私の想いは伝わらず
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火曜日。十四時頃。
家に届いた品物を開封した。
盗聴器と、受信機。その他諸々。
盗聴器は思ったよりも小型だった。
これをどうにかして伊奈ちゃんに持たせたい。
そう考えて、私は小箱を用意した。
適当に物置を漁れば、丁度いい箱が出てきた。
盗聴器をその中に入れてみて、サイズがピッタリだということに、よしと頷く。
英語で書かれた複雑な説明書を翻訳して、なんとか設定を済ませることが出来た。
結構時間がかかったが、今の時刻は十六時。
昨日と同じ時刻くらいには学校に着くことが出来そうだった。
カバンを持って、その中に丁寧に盗聴器を入れる。
私は学校へ向かった。
昨日の手紙に、伊奈ちゃんはどういう反応をくれるのか期待をしながら。
※
昨日と同じだ。
母には付いてきて貰わなかったくらいで。
人が少ない職員室でそそくさと鍵を回収し、部室へ行って、また鍵を戻す。
鍵を戻す必要なんて無いんじゃないかって思ったけど。まぁいいやと。
昨日通りに、私は窓際に立つ。
チャイムが鳴った。
あまり意識はしていなかったけど、自分の心臓も結構鳴っていた。
……不安も結構ある。
けど。今は、昨日の手紙に期待をしよう。
絶対伝わっているはずだから。
やはり昨日通りに部屋の前を人が過ぎ。
遅れて、ゆっくりとした足音が聞こえてきた。
よく聞いてみれば、その足音は二つだった。
一つはうるさく、一つは静か。
そしてドアの開く音を聞いた。
「美結ちゃん」
声が飛んできて、私は振り返る。
嬉々とした気持ちだったが、その手がまた繋がれていることによって、私はまた不安な気持ちになる。
だけど。今はそれを振り払って、明るく言い放つ。
「伊奈ちゃん先輩! 昨日の手紙、どうでしたか!」
間を空け、伊奈ちゃんはこう聞き返す。
「ラブレターのことだよね?」
それ以外に何があるというのか。
うん。何もない。
「ら、ラブレターって! 後ろの伊奈ちゃん先輩の彼女さんも聞いてるんだから、そんな声を大にして言わないで!」
「な! 彼女じゃない! それとごめんなさい!」
彼女じゃない……ね。
どうも怪しく思えてしまう。
昨日もそれは聞いたけど、どうにも。
心なしか、伊奈ちゃんの顔は崩れているような気がするし。
私は重複して聞く。
「彼女じゃない、って……。私、相当睨んでるんだけど、本当に違う?」
「違いまーす」
……今は、その言葉を信じよう。
そもそもこの告白がちゃんと伊奈ちゃんに伝わっていて、私たちが付き合うということになったのなら、もう盗聴器を渡す必要はないと思うのだ。
無駄な金になるかもしれないが、付き合うことの方が価値が高い。
使わなかった盗聴器は、ネットオークションにでも出せばいい。
「そ。ならいいけど。……あ、あと、そこの伊奈ちゃん先輩の彼女もどきさんは、昨日と同じくこの部屋から出て行って貰えませんか?」
「うわっ。結構、辛辣な口ぶり」
当たり前だ。こんなの聞かれてたら厄介だ。
補聴器を付けているということは、耳が完全に悪いわけではないのだから。
どうでもいいが、その人は今日はマスクを付けていた。風邪だろうか。
伊奈ちゃんは後ろを確認した。
何か見つめ合っているような彼女らに、私は嫌な予感が走り呼びかける。
「あ、伊奈ちゃん先輩はここにいて。昨日、帰ってくるの遅すぎたし。今から話す内容は、多分すぐ終わるから」
「……りょーかいです。でも、天崎さんは耳が良くないですから、ちょっと部室の外へと案内しますね……」
「先輩なのになんで敬語なの。……それと、なんか落ち込んでません? やっぱり付き合ってるんじゃ──」
「よーし! 天崎さん! 外へ出よっか!」
逃げるように部室の外へ。
「ごめんね」という囁きが聞こえたと思えば。
ドアが開いて、再び部室の中へ。
「おかえり。伊奈ちゃん先輩」
私は伊奈ちゃんの前に佇んだ。
「た、ただいま」
「おか。……いよっし。てなわけで本題。……昨日の手紙の感想を聞かせて?」
「うん。いいけど。その前に、椅子に座らない? 立ったままもあれだしさ」
「いや、いい。すぐ終わる」
なぜそんなにも渋る。
私はついつい冷めた口調で吐きすてる。
さっきから、私は明るく装おうとして。だけど、心の中にある不安な気持ちがそれを邪魔して、どこか態度の落差が激しい。
「……美結ちゃん? どうかした?」
やはり疑問に思ったのか、そう問われてしまう。
けれど私は。それを誤魔化すように、元気に本題へと話を移した。
「ど、どうもしてないよ! はい。それよりも感想をお聞かせ願います!」
伊奈ちゃんは少し悩んだような顔になったが、すぐに口を動かして、私のお願いに受け答えた。
「えっとね。とりあえず、めっちゃ良かった! こっちにまで、そのね。えっとね。美結ちゃんのめっちゃ熱い想いが伝わってきました」
……。
「やっぱそうだよね。ありがとう」
やはりだ。
この鈍感な人は、私の想いに何も気づいていない。
さっきまでの高揚した気持ちは、どこかへ飛んで行ってしまっていた。
これは伊奈ちゃんへの手紙と言うことも出来たかもしれないが、そんなのする気力もまるで起こらなかった。
「あ。うん。どもども! だから私が添削する必要はないと思う!」
「……添削ね。必要なかったんだ」
そういう問題じゃない。
添削って私言ったか? 言ってないよ。
「うん! これで美結ちゃんの想い人……? まぁ、その人に凄く良く伝わると思うよ!」
「本当? 伝わる?」
伝わってねーじゃん。
……本当、何なのこの人。
「もちもち! 私が言ってるんだから大丈夫だって!」
「……うん。そうだね」
もう。何なんだ。
私はどうすればよかったのか。
正解が分からない。
「まぁ。不安かもしれないけどさ! 頑張って!」
今更、私に何を頑張ることがあるというのか。
「うん。そうだね。伊奈ちゃんは、そういう人だった」
人の気持ちに気付かない。そういう人。
「うんうん。こういう人だよ」
「うん。まぁ。ありがと。私はこれで、今日は帰るね」
私は、もう何も考えずに言葉を発していた。
返す言葉はほとんど反射のようなものだった。
「あ、うん!」
「あ。その手紙、一応私に返してくれない?」
「一応って、美結ちゃんのじゃん!」
「あーごめん。緊張のせいかな。少し変になってるかも」
「落ち着いて。リラックスだよ。……ほい。昨日の手紙」
「ありがと。……あ、あとさ。私も渡すものがあるんだけど。いい?」
何も考えたくなかったが、これは一応しておこうと思った。
「え、なになに」
カバンのとこまで行き、ガサゴソと探し。
私はそこから小箱を取り出した。
「え、なにそれ?」
伊奈ちゃんが疑問の言葉を投げかけ、私はそれに答える。
「えっとね。この箱を、伊奈ちゃん先輩に預かって欲しいんだ」
「中にはなにが入ってるの?」
「言えない。けど、空けないで。ずっと、伊奈ちゃん先輩が大切に持ってて」
「え。まぁ。分かった。じゃあ、家の引き出しの中にしまっておこうかな」
「それはダメ。伊奈ちゃん先輩の制服の胸ポケット。それがダメなら、スカートのポケットでもいい。ともかく、それをずっと身につけて」
「え。なんでなんで。理由気になる」
……。
正直、理由をそこまで聞かれるとは眼中になかったので、私は猛スピードで脳を回し、訳の分からない理由を思いつく。
「……分かった。言いたくなかったんだけど、仕方なく教えてあげる」
「うんうん」
「その中に入ってあるのは媚薬なの。それでね──」
「いや待て」
伊奈ちゃんは困惑した表情だ。そりゃそうだ。
自分もどこでこんな言葉を覚えたのか。わけも分からず。
だけど。これなら触れづらいだろうと思った。
「どうしたの? 伊奈ちゃん先輩」
「どうしたのじゃなくて! え、今、媚薬って言ったよね?」
「はい」
「え、あ。まぁ。理由は聞きません……はい」
うん。うまくいったっぽい。
けれど。この嘘をより事実に仕立てるために、私は説明を続けた。
「私ね、学校で恋人とえっちなことをするのが夢だったんだ。だからこの告白が成功したら、その相手に媚薬を使おうと思って」
「いや、別に理由は聞いて──」
「私のクラスの担任が凄く厳しくてさ、毎日持ち物検査があるんだよね。ポケットとか裏返さないといけないし、カバンは漁られるし。だから、伊奈ちゃん先輩にそれを預かってもらおうかと思ってさ。いいよね?」
「あ。はい。おけです」
よくこんなポンポンと嘘が出てくるな。
自分に関心をしてしまう。
私は、今、痴女だと思われているのだろうか。
もう。なんだろう。
こんなこと言ったら、もう好きな人は伊奈ちゃんじゃないと、伊奈ちゃんもはっきりしてしまうだろうに。
……こんなことを言った理由は多分。もう伊奈ちゃんは私のことを好きにならないと、心の中の私の認識できない場所で、そう思ってしまったんだ。
それなら、この盗聴器を手渡して。
伊奈ちゃんとあの女がどういう関係かを確かめたい。そう思ったのだろう。
無意味なことをしている。自分でも思う。
けれど、ブレーキは効かなかった。
「じゃあ、いつでも取り出せるように。できれば胸ポケに」
「りょ、りょーかいです」
「じゃあ。……行ってきます」
「が、頑張って!」
カバンを持って、部屋を逃げるように出た。
……なんでだろう。なんでだろう。
意味のないことだと分かっているのに、どうして止まれないんだろう。
好きになったのは、間違いだ。
伊奈ちゃんのせいで。伊奈ちゃんのせいで……。
こんなにも掻き乱されて。辛い思いにさせられて。
私は酷い女だ。
何もかも、伊奈ちゃんが悪いということにしてしまって。
都合が良くなれば、伊奈ちゃんはいい人だの、伊奈ちゃんは悪くないだの、伊奈ちゃんは私の好きな人だの。
けど。悪いじゃん。これに関しては。何も気づいてくれないじゃん。
ずっと。何にも。私の抱える重い想いに。何も。
重いのに。何で伝わらないのかな。
昨日よりも大粒の涙が、廊下に落ちていた。
家に届いた品物を開封した。
盗聴器と、受信機。その他諸々。
盗聴器は思ったよりも小型だった。
これをどうにかして伊奈ちゃんに持たせたい。
そう考えて、私は小箱を用意した。
適当に物置を漁れば、丁度いい箱が出てきた。
盗聴器をその中に入れてみて、サイズがピッタリだということに、よしと頷く。
英語で書かれた複雑な説明書を翻訳して、なんとか設定を済ませることが出来た。
結構時間がかかったが、今の時刻は十六時。
昨日と同じ時刻くらいには学校に着くことが出来そうだった。
カバンを持って、その中に丁寧に盗聴器を入れる。
私は学校へ向かった。
昨日の手紙に、伊奈ちゃんはどういう反応をくれるのか期待をしながら。
※
昨日と同じだ。
母には付いてきて貰わなかったくらいで。
人が少ない職員室でそそくさと鍵を回収し、部室へ行って、また鍵を戻す。
鍵を戻す必要なんて無いんじゃないかって思ったけど。まぁいいやと。
昨日通りに、私は窓際に立つ。
チャイムが鳴った。
あまり意識はしていなかったけど、自分の心臓も結構鳴っていた。
……不安も結構ある。
けど。今は、昨日の手紙に期待をしよう。
絶対伝わっているはずだから。
やはり昨日通りに部屋の前を人が過ぎ。
遅れて、ゆっくりとした足音が聞こえてきた。
よく聞いてみれば、その足音は二つだった。
一つはうるさく、一つは静か。
そしてドアの開く音を聞いた。
「美結ちゃん」
声が飛んできて、私は振り返る。
嬉々とした気持ちだったが、その手がまた繋がれていることによって、私はまた不安な気持ちになる。
だけど。今はそれを振り払って、明るく言い放つ。
「伊奈ちゃん先輩! 昨日の手紙、どうでしたか!」
間を空け、伊奈ちゃんはこう聞き返す。
「ラブレターのことだよね?」
それ以外に何があるというのか。
うん。何もない。
「ら、ラブレターって! 後ろの伊奈ちゃん先輩の彼女さんも聞いてるんだから、そんな声を大にして言わないで!」
「な! 彼女じゃない! それとごめんなさい!」
彼女じゃない……ね。
どうも怪しく思えてしまう。
昨日もそれは聞いたけど、どうにも。
心なしか、伊奈ちゃんの顔は崩れているような気がするし。
私は重複して聞く。
「彼女じゃない、って……。私、相当睨んでるんだけど、本当に違う?」
「違いまーす」
……今は、その言葉を信じよう。
そもそもこの告白がちゃんと伊奈ちゃんに伝わっていて、私たちが付き合うということになったのなら、もう盗聴器を渡す必要はないと思うのだ。
無駄な金になるかもしれないが、付き合うことの方が価値が高い。
使わなかった盗聴器は、ネットオークションにでも出せばいい。
「そ。ならいいけど。……あ、あと、そこの伊奈ちゃん先輩の彼女もどきさんは、昨日と同じくこの部屋から出て行って貰えませんか?」
「うわっ。結構、辛辣な口ぶり」
当たり前だ。こんなの聞かれてたら厄介だ。
補聴器を付けているということは、耳が完全に悪いわけではないのだから。
どうでもいいが、その人は今日はマスクを付けていた。風邪だろうか。
伊奈ちゃんは後ろを確認した。
何か見つめ合っているような彼女らに、私は嫌な予感が走り呼びかける。
「あ、伊奈ちゃん先輩はここにいて。昨日、帰ってくるの遅すぎたし。今から話す内容は、多分すぐ終わるから」
「……りょーかいです。でも、天崎さんは耳が良くないですから、ちょっと部室の外へと案内しますね……」
「先輩なのになんで敬語なの。……それと、なんか落ち込んでません? やっぱり付き合ってるんじゃ──」
「よーし! 天崎さん! 外へ出よっか!」
逃げるように部室の外へ。
「ごめんね」という囁きが聞こえたと思えば。
ドアが開いて、再び部室の中へ。
「おかえり。伊奈ちゃん先輩」
私は伊奈ちゃんの前に佇んだ。
「た、ただいま」
「おか。……いよっし。てなわけで本題。……昨日の手紙の感想を聞かせて?」
「うん。いいけど。その前に、椅子に座らない? 立ったままもあれだしさ」
「いや、いい。すぐ終わる」
なぜそんなにも渋る。
私はついつい冷めた口調で吐きすてる。
さっきから、私は明るく装おうとして。だけど、心の中にある不安な気持ちがそれを邪魔して、どこか態度の落差が激しい。
「……美結ちゃん? どうかした?」
やはり疑問に思ったのか、そう問われてしまう。
けれど私は。それを誤魔化すように、元気に本題へと話を移した。
「ど、どうもしてないよ! はい。それよりも感想をお聞かせ願います!」
伊奈ちゃんは少し悩んだような顔になったが、すぐに口を動かして、私のお願いに受け答えた。
「えっとね。とりあえず、めっちゃ良かった! こっちにまで、そのね。えっとね。美結ちゃんのめっちゃ熱い想いが伝わってきました」
……。
「やっぱそうだよね。ありがとう」
やはりだ。
この鈍感な人は、私の想いに何も気づいていない。
さっきまでの高揚した気持ちは、どこかへ飛んで行ってしまっていた。
これは伊奈ちゃんへの手紙と言うことも出来たかもしれないが、そんなのする気力もまるで起こらなかった。
「あ。うん。どもども! だから私が添削する必要はないと思う!」
「……添削ね。必要なかったんだ」
そういう問題じゃない。
添削って私言ったか? 言ってないよ。
「うん! これで美結ちゃんの想い人……? まぁ、その人に凄く良く伝わると思うよ!」
「本当? 伝わる?」
伝わってねーじゃん。
……本当、何なのこの人。
「もちもち! 私が言ってるんだから大丈夫だって!」
「……うん。そうだね」
もう。何なんだ。
私はどうすればよかったのか。
正解が分からない。
「まぁ。不安かもしれないけどさ! 頑張って!」
今更、私に何を頑張ることがあるというのか。
「うん。そうだね。伊奈ちゃんは、そういう人だった」
人の気持ちに気付かない。そういう人。
「うんうん。こういう人だよ」
「うん。まぁ。ありがと。私はこれで、今日は帰るね」
私は、もう何も考えずに言葉を発していた。
返す言葉はほとんど反射のようなものだった。
「あ、うん!」
「あ。その手紙、一応私に返してくれない?」
「一応って、美結ちゃんのじゃん!」
「あーごめん。緊張のせいかな。少し変になってるかも」
「落ち着いて。リラックスだよ。……ほい。昨日の手紙」
「ありがと。……あ、あとさ。私も渡すものがあるんだけど。いい?」
何も考えたくなかったが、これは一応しておこうと思った。
「え、なになに」
カバンのとこまで行き、ガサゴソと探し。
私はそこから小箱を取り出した。
「え、なにそれ?」
伊奈ちゃんが疑問の言葉を投げかけ、私はそれに答える。
「えっとね。この箱を、伊奈ちゃん先輩に預かって欲しいんだ」
「中にはなにが入ってるの?」
「言えない。けど、空けないで。ずっと、伊奈ちゃん先輩が大切に持ってて」
「え。まぁ。分かった。じゃあ、家の引き出しの中にしまっておこうかな」
「それはダメ。伊奈ちゃん先輩の制服の胸ポケット。それがダメなら、スカートのポケットでもいい。ともかく、それをずっと身につけて」
「え。なんでなんで。理由気になる」
……。
正直、理由をそこまで聞かれるとは眼中になかったので、私は猛スピードで脳を回し、訳の分からない理由を思いつく。
「……分かった。言いたくなかったんだけど、仕方なく教えてあげる」
「うんうん」
「その中に入ってあるのは媚薬なの。それでね──」
「いや待て」
伊奈ちゃんは困惑した表情だ。そりゃそうだ。
自分もどこでこんな言葉を覚えたのか。わけも分からず。
だけど。これなら触れづらいだろうと思った。
「どうしたの? 伊奈ちゃん先輩」
「どうしたのじゃなくて! え、今、媚薬って言ったよね?」
「はい」
「え、あ。まぁ。理由は聞きません……はい」
うん。うまくいったっぽい。
けれど。この嘘をより事実に仕立てるために、私は説明を続けた。
「私ね、学校で恋人とえっちなことをするのが夢だったんだ。だからこの告白が成功したら、その相手に媚薬を使おうと思って」
「いや、別に理由は聞いて──」
「私のクラスの担任が凄く厳しくてさ、毎日持ち物検査があるんだよね。ポケットとか裏返さないといけないし、カバンは漁られるし。だから、伊奈ちゃん先輩にそれを預かってもらおうかと思ってさ。いいよね?」
「あ。はい。おけです」
よくこんなポンポンと嘘が出てくるな。
自分に関心をしてしまう。
私は、今、痴女だと思われているのだろうか。
もう。なんだろう。
こんなこと言ったら、もう好きな人は伊奈ちゃんじゃないと、伊奈ちゃんもはっきりしてしまうだろうに。
……こんなことを言った理由は多分。もう伊奈ちゃんは私のことを好きにならないと、心の中の私の認識できない場所で、そう思ってしまったんだ。
それなら、この盗聴器を手渡して。
伊奈ちゃんとあの女がどういう関係かを確かめたい。そう思ったのだろう。
無意味なことをしている。自分でも思う。
けれど、ブレーキは効かなかった。
「じゃあ、いつでも取り出せるように。できれば胸ポケに」
「りょ、りょーかいです」
「じゃあ。……行ってきます」
「が、頑張って!」
カバンを持って、部屋を逃げるように出た。
……なんでだろう。なんでだろう。
意味のないことだと分かっているのに、どうして止まれないんだろう。
好きになったのは、間違いだ。
伊奈ちゃんのせいで。伊奈ちゃんのせいで……。
こんなにも掻き乱されて。辛い思いにさせられて。
私は酷い女だ。
何もかも、伊奈ちゃんが悪いということにしてしまって。
都合が良くなれば、伊奈ちゃんはいい人だの、伊奈ちゃんは悪くないだの、伊奈ちゃんは私の好きな人だの。
けど。悪いじゃん。これに関しては。何も気づいてくれないじゃん。
ずっと。何にも。私の抱える重い想いに。何も。
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