女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

文字の大きさ
62 / 82
心音と共に、

待ちかねたキス

しおりを挟む
 放課後だ。
 例によって、授業はあまり聞いていない。
 頬杖をついて、窓の外と心音を見ていたら、いつの間にか終わっていた。
 なんて素晴らしいことなのだろうか。

 今日も部室に向かう。
 今日は。心音とキスをするからだ。
 そういう理由がなくても、一応部室には向かう予定だったのだけれど。
 そういう明確すぎる理由が、今日はある。
 何日ぶりかな。二日か、三日?
 考えるのも意味ない気がして、私は席を立ち上がった。

「……心音」

 荒れ狂う心と真逆に、私のボソボソという声。
 さすがに補聴器はそれを拾わないと思ったが、普通に心音も立ち上がる。
 こくりと頷くのを確認して、私は心音の手を取る。
 いつもよりも、なんだか手汗の量が多い気がした。私の手汗がだ。


     ※


「ただいま。我が部室」

 正確には学校の部室。
 その場所へと足を踏み入れ、カバンをそそくさと端っこに置きに行く。
 カバンからスマホを取り出して、また、心音もスマホを取り出す。
 なんだか隠れてスマホを使っているこの状況は、なんだか不良らしい。
 と言うよりスマホ中毒者?
 少なくとも、ライン中毒になりつつあるのは事実だった。

『さてと。心音!』
『はい!』

 呼びかけると心音から元気の良い返事が返ってくる。ラインだけど。
 横を見れば、やっぱり真顔です。
 けど。昨日は一応、笑顔を見せてくれたんだよなぁ。と思い返す。
 私が美結ちゃんの家へと向かう時だ。
 あの時は割と非常事態でそんなに意識していなかったけど。
 心音の笑顔というものは非常に貴重なものだ。
 もうちょっと頭に焼き付けておけばよかったなぁと。そう思う。
 ダジャレとか言えば笑ってくれるのかな……。いや、笑うわけないな。
 と、考えながら、私は心音へと送る文面も同時に考える。

『キスをいたしましょう!』

 考えたって、これしかなかった。
 美結ちゃんのことが頭をよぎったが、でも、私の相手は心音だ。
 今、見るべきは心音。

『出た。今日は積極的なタイプの伊奈さんなんですね』
『そうですがなにかー!』

 というか積極的なタイプの伊奈さんってなに。
 ほのおタイプとか、みずタイプの私もいるのだろうか。
 いません。

『そんなにキスがしたいんですか?』
『い、いや。これはですね。心音さんが、私とキスをしたいって言ったからですね……』

『あ。そうなんですね。そういう考えならしませんけど』
『うっそーーーー! 私がしたいんですーー!』

『へー。伊奈さんが。私と。キスを。したいって思っているんですねー。へー』

 助けて。
 これはなんて返せばいいのだろうか。
 前にキスした時も、こういうやりとりがあった気がしなくもない。
 ともかく。手の動くままに返信しよう。

『そうですがっ! じゃあ、心音さんはどうなんですかー?』
『したいです』

「うっ」

 その即答に思わず口から漏れる。
 私の心にこうかはばつぐん。
 既に早かった心拍数が加速していっている感じがする。

『しないんですか? あと、十秒以内にしてくれなかったらしませんけど』
『します‼︎』

 急かされて、私はスマホを速攻ポケットに突っ込んだ。
 心音もいつの間にやらスマホをしまったらしく、私の方を向いていた。
 キスを欲しがっている顔には見えなかった。
 これじゃ、こんなに顔が熱くなっている私がバカみたいだけど。
 それでも、私は、心音との距離を縮める。
 部屋は少し暗い。
 外は雨で、この部屋の電気も付けるのを忘れていたから。
 心音と私の背丈は近い。だからしやすい。
 今、何秒経ったかな。もう十秒は超えている。
 いきなりすぎるキスで、私も若干困惑中だ。
 まぁ。私からしようって言ったんだけど……。

「じゃ、じゃあ……」

 心音の頬に手を当てて。
 一本じゃ足りないので、両頬に。
 耳に入る雨音と私の心音しんおんを意識しながら。
 私は、ゆっくり。ゆっくりと。口を近づける。
 心音は目を閉じた。
 私は目を開けたまま。
 外さないように、その口へと──。

「んぁっ……」

 口を合わせた途端、心音のエロい声が耳を刺激した。
 刹那、私の下半身が微かに震える。
 その震えの正体を理解できない。

 私は両頬を押さえたまま、少しだけ離れる。
 舌で、私の乾いた唇に水分を含ませて、また心音の唇に戻る。
 本能的にしたその行動で、心音の唇との密着度が上がった気がした。

 けど。何かが物足りない。何がだろう。
 キスをしているのに。もっともっとって。
 私の中の何かが、私を掻き立てるのだ。

 私は、心音をもっと引き寄せた。
 こんなことをしていいのかと悩んだ。
 けど、止まれずに。私は心音の口内に、舌を──。
 これは流石にまずいと思ったけど、心音は。私に、舌を絡めてきた。
 歯と歯も触れ合った。変な感触だ。

 心音の手が、私の両腕を掴む。

「んっ……。はっ……ぁ」

 苦しそうに声を漏らしている。
 やっばい。ちょーかわいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...