女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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心音と共に、

どうしようもないくらいに

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 唇を離す。私から。
 互いを繋ぐ、唾液の糸。
 ヤバいことしたんだなって思った。

 次の瞬間。謎の罪悪感のようなものが、私に押し寄せる。
 苦しそうに呼吸を整える心音を見ながら、私は窺う。

「こ、心音さん?」

 心音はその言葉にスマホを取り出して、苦しそうにしながらも文字を打つ。
 それに合わせて、私もスマホ取り出した。
 ブーッとスマホが震える。
 それを見る。

『すごーく強引でしたね! 呼吸の隙を私に下さい。苦しかったです』
『ごめんなさい! 本当に!』

『それであのキス、なんですか?』
『あ、あのキスとはなんでしょうか!』

 分かっているけど、そう答えた。
 自分でそれを文字に起こすのは、いささか恥ずかしい気がしたから。

『自分からしといて、それを私から言わせるんですか?』
『な、なんのことやら』

『深いやつですよ。ディープなやつ。……いつかする日はくると思っていたのですが、それがまさか今日だなんて』
『えっと。嫌だった?』

 そっちの方が気になって、私はそう返す。
 うん。でぃーぷなやつね。深いやつ。
 大人がするやつね。

「…………」

 その、でぃーぷなやつをしてしまったのだと、心音に実感させられてしまう。
 あのキスはあまりにも唐突だったと思う。
 私が悪いんだけど。

『嫌じゃないです。けど、ちゃんとするって言ってください!』
『ごめん』

『また今度やり直すからいいです』
『今度って? 今からでもいいんじゃない?』

 送って、数秒の後に。
 この発言は迂闊だったと気付く。
 送信を取り消したくても、心音は勿論そのメッセージを見逃さない。
 というより、バッチリ凝視されていた。

『へー。たしかにそれも言えてますが、月曜日でいいと思いますよー。疲れちゃいましたし……』

 困惑した私を弄ぶかのような文章。
 ……っていうのは多分気にしすぎだ。

『そ、そうだね』

 ラインなのに、なぜか言葉が詰まる。
 私は今から、もう一度キスすることを要求した。
 その事実を実感して、顔が赤面する。

『……あの。急にすみません。忘れていたんですが、今日は耳鼻科に行く日でした。ので帰ります!』

 ……。
 心音は帰ってしまうらしい。
 さっきキスしたばかりなのに。
 心音は何も思っていないみたいだ。
 けど、これもきっと気にしすぎで。
 でも。そんな確証も無くて。
 そんな交錯した思いで、私は思いのままに指を動かす。

『なんで。行かないで』

 送ってしまったその文章を見て。
 文章は考えてから打つべきだと思った。
 じゃないと、こんな文章を打ってしまう。
 私の本能が心音を優先している。
 これは、まずいなって思った。
 私は顔を伏せた。
 赤面した顔を隠すために。
 けど、耳は熱い。これはダメだ。

『また月曜日に会えますよ。それに、ラインができるじゃないですか』
『うん。そうだね』

 下を向いたまま私は送った。
 なんで心音はこんなに冷静なんだ。
 折角キスができたのに、心音はすぐに私を離れる。
 嫌だ。嫌だ嫌だ。

『耳鼻科、休んでよ』

 考えずにまた送る。
 けど、その文章に後悔は無かった。

『そうしたいのですが。第三金曜日は決まって耳鼻科に行っているので……』
『そう。分かった。ごめんね。』

 知っていた。
 そうだ。心音は耳が良くないんだ。
 そりゃ、行かないといけない。
 当たり前のことだった。
 そんな当たり前を私は見落としていた。
 心音ばっかりしか見ていなかった。

『そんなに私と一緒にいたいんですか?』
『うん。』

『明日、土曜日ですし、遊びますか?』

 その提案は気を遣ってくれているのかな。
 分からないけど、分からないままに私は返信をする。

『絶対遊ぶ』
『はい。あ、でも。今週、結構宿題多いから、遊んでる暇ありますかね? そういえば私も反省文を書かないといけないですし』

『なら、心音の家で遊びたい。いい? 一緒に宿題もする』
『それならいいと思います。……えと、私、もう時間なので帰りますね!』

「うん」

 声にして呟く。
 私は顔を上げた。
 涼しい空気が、温度を上げた私の頬を撫でた。

「…………」

 小走りで教室を出ていく心音を見送りながら、私は心の中でガッツポーズをする。

 けど、同時に現実に直面をした。
 少し前は心音が私のことを好きで、その想いを、私はただ受け止めていた。
 けれど今は、私から心音を求めている。
 心音が離れることを深く悲しみもしたし。
 私の心は、心音を優先している。
 それ以外が見えていないようであった。
 これを依存と言うのだろうか。
 別にいいっか。

 なんだろう。なんだろうな。
 心音は。私にとって、大きな存在に変わっている。
 私はどうしようもないくらいに、心音のことが。
 好き。なのかもしれない。

 少し悩む。
 「かもしれない」はやっぱ抜き。
 こんなことを考えるのは恥ずかしい。
 顔は熱いし、心臓の動きも早いし。
 けど、誰にも見られてないから別にいい。
 心音の事は考えるだけでも、私の心がどこか満たされる。
 これはきっとそういうことだ。

 心音が好き。付き合いたい。
 改めて、そう思う。
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