女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

文字の大きさ
70 / 82
心音と共に、

明日泊まっていいですか?

しおりを挟む
 キスした後というのは決まって気まずさがある。
 気まずさというか……なんだろうか。
 雰囲気が少し前とは全くもって異なる。
 独特な、何かが私たちの間を漂っているのだ。
 キスをしている最中はそんなことを全くと言っていいほどないのに。
 付き合っていたらこういうこともなくなるのだろうか。疑問だ。

 キスの匂いが残る部屋の中、さっさとお昼ご飯を食べる。
 けど。さっきのキスで既にお腹はパンパンだった。
 心音も同様に残りのサンドウィッチを食べている。
 食べる顔は言わずもがな真顔で、何を考えているのかなーって思ってしまう。
 けど、心音って表に出さないだけで、心の内はきっと普通の人よりも表情豊かなんじゃないかな。だってあんなキスを強行してくるくらいだしねー。
 ……待って。心の内だから内情豊か?
 なんだか人の名前みたい。
 ……まぁいいか。いつものように、まぁいいか。
 ……。おぉ。意図していないのに川柳を作ってしまった。

 ……なんだか。頭の悪い思考をしている。
 これもさっきのキスの恥ずかしさを紛らわすためなのかな。
 ずっと頭の中がワイワイとうるさく騒いでる。
 で、こういう風にキスのことを思い出すと顔が再燃する。
 うーん。どうすればいいんだろう。
 昨日、私が支配権を握っていたキスでは、のちの恥ずかしさは薄かった気がするんだけど。じゃあ、自分からキスをしてみようか。
 ……んー。けど、心音は今日、自分の家だからか、かなり積極的だからな。
 自分からしたってカウンターを食らう気がした。


      ※


 時刻はもう午後二時。
 課題はあまり進んでいない。
 けど、数学の課題はもうじき終わりそう。
 心音はキスのことを忘れたかのように、大真面目に課題に取り組んでいる。
 私も真面目にしないといけないとは思っているけれど。
 別のことが私の脳内に入り込んで、私の手の動きをストップさせてしまう。
 別のことって、キスのこともあるけど告白のこと。
 さっきからずーーーーっと考えているのに良い結論には全然たどり着けない。

 午後三時。
 課題は進んでいない。やばそうだ。
 心音ママが部屋に三時のお菓子を運んできてくれた。
 それだけだ。私はムシャムシャと、それを頬張っていた。
 心音も私の横に並んだけど、さっきみたいな口移し展開にはならなかった。
 ハグして会話もした。ドキドキはすれど、告白の勇気なんて全く出ない。
 震えた口から飛び出すのは、いつもかすれた吐息ばかり。
 言葉すらも、あまり出てくれなかった。

 午後四時。
 刻々と、時間は経過していく。
 母さんから、『五時半頃に迎え行くからー』と連絡があった。
 帰りも心音ママに迎えを頼むのは失礼な気がして、母に心音の家までの地図を添付して依頼したのだ。
 そしたら五時半らしい。思ったよりも早い。
 うーん。告白。……告白。
 勇気が出ないなぁ。全く。

 午後五時。
 心音は課題と反省文を終わらせたらしい。
 私は、数学の課題を終わらせました。それだけです。
 今は心音と会話するためにハグしているわけだけど。
 なんか、あのキスからは特に何も起こらなかったなぁ。
 私が。行動を起こさないっていう明確な理由があるんだけど。
 告白なんて、考えてみればたった数文字を相手に伝えるだけ。
 しかも心音が抱く私への好感度は大きいものだし、告白にはちゃんと応えてくれると思うから、より難易度というものは低くなりそうであるし。
 けどさ。無理だってば。無理無理。
 抱き合って、心音の背中をなんとなく撫でながら。そう思った。

「伊奈さん。課題の進捗はどうですか?」

 背中側から、嫌な言葉が飛んでくる。

「見てたら分かるでしょー。全然だよ」
「じゃあ、明日は家にこもって課題三昧ですか?」

 さらに嫌な言葉が飛んできた。

「うっ。……折角だし、また心音の家に来てやろーかなーなんて」
「私はそれで嬉しいですけど、課題進みますか? 今日も、私のことばっかり見て、手が動いてなかったですよ」

 さらにさらに嫌な言葉が飛んできた。完全に図星だ。
 私が明日、心音の家に行ったって、きっと今日みたいに課題は捗らない。
 でも……心音に会いたい。早く、付き合いたい。
 ……って考え、すごい恥ずかしいな。
 でも、課題はやらないといけないし。
 でもでも。心音には会いたいし。
 そういうジレンマがある。

 心音にも会えて。けど課題はちゃんと終わらせれて。
 そういう方法が無いか無いかと。あるわけ無いのに頭をフル回転させる。
 あるわけ無いのに……。
 …………いや、あるかも?
 いや。あるあるあるある!

「心音さん!」
「なんでしょーか」

 私の唐突な大声に、心音が肩を揺らす。

「明日、朝とお昼で課題を頑張るので! 夜に心音さんの家に行っていいですか!」
「……それは。私の家に泊まりたいということですか?」

 そういうことなので、私は恥ずかしくなりつつ大きく頷いた。

「多分。親もいいって言うと思いますから。大丈夫ですよ」
「ほんとっ⁉︎ ですかっ⁉︎」

「それくらいなら。親も許しますよ」
「やった! じゃあ、制服とか、カバンとか! 諸々、明日持っていく! 次の日そのまま学校に行く!」

 あまりにもあっさりと決まったそのお泊まり計画に、私は嬉しさを抑えきれずに大声で発言してしまう。
 心音もどこか嬉しそうな調子で「じゃあ、そうしましょう」と言ってくれた。
 私たちが男と女だったら、こうもあっさりといかないと思う。
 いやー。女同士って最高。ビバ女同士。

 まだ明日がある。
 明日こそ、告白をしよう。
 私ならできるはず。
 心音を強く抱きしめて、強く決意する。
 ……課題を、明日でちゃんと終わらせんと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...