女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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心音と共に、

準備。そして出発!

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 午後五時。
 心音への熱い想いは、爆発しそうなくらいに私に集中している。
 緊張と期待が入り混じった複雑な感情で心臓がドクドクと脈打つ。
 現在は電話は終了し、私は心音の家へと行く準備をしている。
 明日の準備。カバンとか。あと、パジャマも必要だよね。
 歯ブラシとか、タオルとか、枕とか。
 それに、キスとかの時に自分自身を保てる強い心臓も必要。
 待て待て。その前に。絶対忘れちゃいけないのが制服と靴だ。
 ……あ。靴は……まぁ、とりあえず美結ちゃんの家のスリッパでいいっか。
 困った時のために一応スニーカーで家には行くとしよう。
 にしてもあのスリッパいつ返すべきか……。
 完全にタイミングを見失ってしまった。

 心音の家に行く時間としては、晩御飯を食べてから。
 母さんに送って貰うこととなった。
 家に着く目安としては、七時半を予定している。
 今の気分は、完全に修学旅行前の準備の時間と同じだ。
 いや、寧ろそれ以上かもしれない。
 準備って、本来は面倒臭いことだけど。
 楽しく感じるのは、楽しいことがあるって分かっているから。だと思う。
 心音とは、何をしようか。
 ……一緒に寝るくらいしか、することなさそうだけど。
 いやいやいやいやいやいやいや。それで充分すぎるじゃないか!
 と言っても、一緒に寝るっていうのは。
 ……一緒の布団? それとも別々の布団?
 心音ママがそこをどうしてくれるかだけど。
 しかし心音ママは、私たちの関係について結構よく知っているみたいだし。
 空気を読んで、本来ある心音の布団しか用意をしないのではなかろうか。
 一緒に寝れたら。それだけで超超幸せな気分に満たされると思う。

 けれど。今回、私がしたいのは告白だ。
 一緒に寝て、幸福感と共に夜明けを迎えるのも悪くはないけど。
 だけど。やっぱり付き合いたいっていう気持ちは膨れ上がる。
 膨れ上がって膨れ上がって、けれど私はその場で足踏みを続ける。……というのはダメだと思うのだ。というかそれだと私の身がもたないと思う。
 心音的には、まだ今の関係でいいと思っているのかもしれないけどさ。
 キスとかハグとか。いっぱいできているわけだし。
 けどけど。証というか、私たちの関係を『恋人』という形で表したいのだ。
 逆説だらけの複雑な心境。けれど目指す点は一緒だった。

 大きなリュックに荷物を全部詰める。
 学生カバンに教材や課題を詰める。
 私の中に心音に対する諸々を詰める。
 準備はもう、完璧だった。


     ※


 今日の晩御飯はカレーライスだった。
 私の大好きな母さんの料理だ。あ、心音ほどじゃないけど!
 心拍数が上がっていくのを感じながら食べる、晩御飯の時間だった。

 その後。歯を念入りに磨いた。
 キスの時に、臭いって思われたらやだし。
 唾液の匂いって、あまりいい匂いではないので。

 そして遂に。時計が七時目前となる。
 先ほど準備したものを忘れずに、車の中へ。
 夜に行く旅行みたいだ。そわそわしちゃう。
 外は暗い。当たり前だ。もう陽の光は数十分前に沈んでいる。
 母さんも乗ってきて、発車した。

『今、家でたよー!』

 心音にラインを送る。

『家の前で待ってますね!』

 元気な文体。
 文体自体は一緒だけど、なんとなくそう見えた。

『うん! 楽しみ!』
『私もです!』

 心音のラインでのこの元気な感じを喋る時にも出して欲しいな。
 そしたら、もっと。なんか楽しくなりそうなのに。
 まぁ。仕方ないけどさ。心音の抱えている問題的に。

 「わくわく」と喋っている可愛い犬のスタンプを送る。
 既読は付きはするけれど、それ以降の返信は無かった。

 車に揺られる。
 夜になると見慣れたはずのここらの景色も別のものみたいだ。
 考えてみれば。事実別のもので、輝く街並みはとても美しい。
 窓の外を見てこんな風情あることを考えるのは、やっぱり浮かれてるから?
 答えはすぐに出る。……浮かれてるから、だろうな。
 今なら、どんなものを見ても美しいと言える自信がある。
 窓の外を見て、新しい何かを探そうとする。
 そうした時に。

「ねぇねぇ」

 前方にいる母さんから言葉を投げられる。

「どしたの」

 窓の外から目を外し。
 暗くて分かりづらい、母さんの方に目を向けた。

「その。誰だっけ。……心音ちゃん? だっけ?」
「うん。そうだけど」

「最近、凄くその子の話をするようになったけどさ。……あんたって友達いたんだって、正直驚いてるわよ」
「なんて失礼な。と言っても、知り合ったのは先週の木曜日からだけど……」

「ほら。……それで今日お泊まりなんでしょ? 仲の進展、早すぎじゃない?」
「あーー。何も聞こえなーーい! ……と、も、か、く! 仲良しなの! 娘に友達がいるということを、親は嬉しく思うべきなんです!」

 心音に対して抱く想いを察せられないように言ってみる。
 言ってから、ちょっと怪しい気もしたけど。
 まぁ。そんな関係だって疑うことはしないだろう。

「確かに。友達がいて嬉しいけどね。まぁ。それでいいか。……あ、その心音さんの母親にも、ちゃんと挨拶やら感謝やらしなさいね。いきなりすぎて、何も準備できていないからさ……」
「分かってるってば。……あ。もう直ぐ心音の家じゃない?」

 いつの間にか直ぐ傍まで来ていた心音ハウス。
 昨日、見たコンビニがその目印となって、それに気付く。
 母さんは「あ、そうね」と特に関心もない頷きで答えた。
 荷物があることを再度確認して「よし!」と、大きく頷いた。

 車は心音の家の前に丁度よく停車して。
 「ありがとう」と言って、重い荷物を両手にぶら下げ外へ出る。
 金属で作られた小さい門を抜け、敷地内へと足を踏み入れる。
 そして次に目に入ったのは、玄関の前で綺麗に佇む私の好きな人。
 服も昨日よりも、気合が入っている。白い、心音みたいな服。

「こ、ここね。よっす」

 照れ隠しのためか、荷物がぶら下がる片手を上げ、そんな挨拶をしてしまう。
 家の明かりに軽く照らされた心音は、こっちを見て軽く口角を上げた。
 ぺこりと私にお辞儀をして。と、思えば、途端にこっちに近付いてくる。
 荷物があることをお構い無しに。心音は私を抱きしめた。
 耳に息が吹きかかる。この感覚には、もう慣れた。

「会いたかったです。伊奈さん」
「わ、私も。です……。心音さん」
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