女神と共に、相談を!

沢谷 暖日

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心音と共に、

告白の言葉すら言えないで

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 昨日と同じ心音の部屋。
 そこに連れて行かれて、重い荷物を端に置く。
 心音ママから「いらっしゃーい」と軽い感じに言い放たれ、「ど、どうも」と昨日よりも挙動不審な感じに挨拶を返した。

 床に正座をして、緊張のためか背筋が張ってしまう。
 心音もそういう様子だった。
 顔には出さないけど、挙動にそれが現れていた。

「こ、心音。今から、何をしましょうか。という」

 私から少し距離をとったところに正座をしている心音を呼ぶ。
 夜に。好きな人の家にいるっていうこの状況。
 心音にとったら、好きな人が自分の家にいるっていう状況。
 それを、心音はどう捉えているのだろう。

 心音はハイハイで私の方に近付く。
 それこそ、そんなに綺麗な白の服が汚れそうなものだ。
 その服は、まさにお姫様みたいな服と言ってもいい。
 眩しいぐらいに白く、可愛いふりふりが付いている。
 そんな服持っていたんだって、先は驚いてしまった。
 やがて私の元に辿り着いた心音は、いつもの通り私を抱きしめ。
 そしていつもの通り、耳に囁く。

「私も何をしようかと思っていたところです。……とりあえずイチャイチャしましょう」
「そうしましょう……」

 心音から放たれる羞恥の塊みたいな発言。
 心音も恥ずかしさを抱いているのか、その声は細い。
 それにただ私は頷く。
 元よりイチャつきたかったし……。

「その前に、伊奈さんも私を抱いてください。……今までずっと毛布だったので……」
「う、うん」

 ストレートだ。
 嬉しい。けれど恥ずかしさは募っていく。
 私は心音の方に真っ直ぐと体を整え、そのまま手を回す。
 薄い服なのか、心音の感触がいつもよりも近い。
 少しつまむように握ってみたら、心音の肌も捕まえてしまう。

「んっ。……伊奈さん? 身体を触って、どうしましたか?」

 先よりも細くて高い声で囁かれる。

「心音の服、薄いなーって」
「伊奈さんとのお泊まりですから、気合いをいれました」

「え。嬉しい。……私も、もっといい服着てくれば良かったかな?」
「伊奈さんは、それで充分可愛いです」

「……ありがと」
「はい……」

 心音に褒められて、なんでこんなに嬉しく、そして赤面しちゃうの。ってそれはもう、心音の事が好きだからっていう理由で片付いてしまうのだけど。
 それを意識してしまうと、私が心音に抱く想いの大きさも意識してしまって、余計に恥ずかしい気持ち襲われる。

 沈黙の訪れ。
 気まずさとはまた違う、独特の空気が私たちの間を流れる。
 心臓が鼓動する音と、私の少し荒い息遣いの音だけが部屋に響き渡って……なんていうんだろう。分からないけど、独特の空気感のその中に、独特の安心感? みたいなものも存在していた。

「あのさ、心音」

 こう切り出し、沈黙を裂く。

「どうしましたか?」

 切り出したが、思考が纏まっていない。

 ふと、心のどこかで感じたこと。
 誤字確認もせずに、喉のそこまで出かかったそれを、私は吐露する。

「……出会えて良かったね」

 いきなりの発言で。
 これだけだけど。
 ふと、そう感じた。

 心音の喉元からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
 こう伝えたことを喜んでくれるといいな。

「……私は、中学であなたを見た時からそう思っていますけど」
「うぅ。そう言われるとなんだか申し訳ない……」

「いいですよ。……私のこと、そう思ってくれてありがとう」
「どういたしまして? いや、こちらこそ、好きになってくれてありがとう。なのかな」

 ありがとう、それで正しいと思う。
 前もこれ言ったかな?
 けど。感謝くらい、何度だって思った時にしていいと思う。

「伊奈さん」
「どしたの?」

 私の名前を呼ぶ心音。
 普通に疑問を返す。

「再度確認ですが、伊奈さんは私のことが好きなんですよね?」

 その問いは突然だった。
 少し心臓が跳ねたけど、これもそのままを返す。

「……う、うん。空き教室でキスした時に伝えたよね?」
「はい。……ならいいんです」

 心音の調子は落ち着いていた。
 なぜそんなことを聞いたのかは分からない。
 私が心音のことを好きか心配になったのかな。
 と、そういう考えに落ち着いた。

 また。沈黙がやってくる。
 さっきの発言について思い返す。
 ひょっとするとこれはチャンスなんじゃ、と考えた。
 なんのチャンスかって、告白の。
 このまま「好きなので付き合おう」って。
 そういえば、全てうまくいくと思う。

 それなのに。
 なぜか言えない。
 言おうとしたら、唇が凄く震えてしまう。
 喉の奥で、出すべき言葉が行き止まる。
 振られるなんて、有り得ない考えが頭をよぎってしまうから。だと思う。
 ほんとに、そんな心配なんてする必要ないのに……。
 臆病者だ。こんな一言すらも発すことができなくて自己嫌悪に陥る。
 無意識に心音のことを強く抱きしめてしまう。
 心音がその抱きしめによって、口から声を漏らす。

「伊奈さん? どうかしました?」
「あ。いや。なんでも。……ごめん」

「疲れてますか? お家で風呂入ってきましたか?」
「あ、元々、風呂は心音の家のを借りるつもりだった。ダメだったかな」

「私もそのつもりでした。入ってきたらどうです? 今の伊奈さん、なんだか悩んでるような感じですよ。顔は見えないですけど……」

 心音のその提案は正直ありがたいかもしれない。
 悩んでいるのも事実だし、ちょっと一回さっぱりするのもいいかも。

「うん。じゃあそうしようかな。……あ。それって心音と一緒に入るってこと?」
「いや。それは流石に別々です」

「そっか」

 それもそうだ。ちょっと期待した私がバカだったかも。
 お風呂なんて、流石に私の家と同じくらいの広さだろうし。
 しょうがないかと思って、私は心音から距離を置く。
 と、途端に寂しさのようなものが私に押し寄せる。
 心音と離れてしまって、温かみが離れてしまって。
 なんでか悲しくなってしまったのだ。多分、心音のことを想い過ぎなだけ。

 次の瞬間に。思わず、私は心音の顎を片手で掴んでいた。
 キスをするために。
 空いたこの寂しさを埋めるために。
 何より、私がそれをしたいって思っているから。そのために。

「風呂入るから。その前に、一回。……いい?」

 顎に添えた片手に、下向きの力が働く。
 心音が恥ずかしさから、俯こうとしたのだろうか。
 私は、その力に逆らって心音の顔を私の正面に向ける。
 その片手が、凄く熱を帯びる。心音から伝わってくる熱のせいで。
 見れば心音の顔面は、赤い果実のように熟していた。
 私の確認に対する返事は受け取っていないけど。
 多分。していいよね。
 勝手にそう思って、自身の顔を、心音の唇に近付けた。
 五秒かな。それくらいの間、唇を合わせる。
 心音の唇の感触を、しっかりと私の唇に刻み付けた。

「終わり。ありがとう。風呂入ってくるね」

 私も勿論恥ずかしいので、そそくさと自分の持ってきた大きなカバンに近づいて、パジャマやらなんやらを取り出した。
 正座して固まっている心音の横を「じゃ、行くね」と言って通り過ぎる。
 ドアを開けて廊下に出て、一階へと階段を降りようとした時に。
 私はハッと気付いた。
 いそいそと、来た道を引き返す。
 閉めた心音の部屋のドアをゆっくりと開けて、

「こ、心音。そういえば風呂の場所、分かんないや……。えへへ」

 照れながらも、私は心音にそう言った。
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