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第十八話 覚書
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俺は脇腹の痛みに耐えながら、文字通り必死で『概念辞書』のページをめくっていた。
法則、仮説、実験記録。だが、この絶望的な状況を覆せるような記述はどこにもない。
もう。ダメか。
諦めかけた俺の指が、ふ、最初の実験を記録した見慣れたページで止まった。
銅貨に【重さ】を付与したあの日の記録。そのページの片隅に、アリアが書き殴った小さな文字があった。
──覚書:概念は、他の特性に影響を与えない。銅貨に【重さ】を付与しても、その【硬さ】は変化しなかった。特性はそれぞれが独立している。
「…………なんだ、これ」
最初は、意味が分からなかった。
こんな状況では何の役にも立たない、ただの実験メモだ。
だがその一文が、まるで頭の中で稲妻のように俺の思考を貫いた。
――特性はそれぞれが独立している。
「……そうか」
俺は乾いた唇で呟いた。
「そうか……! そういうことか、アリア……!」
俺はずっと間違っていたんだ。
俺はこのゴーレムの【硬さ】をどうにかしようとしていた。
だが、それはこいつが持つ、最も強力な特性だ。だから俺の力は弾かれた。
アリアのメモが教えてくれた。特性は独立していると。
【硬さ】と【重さ】は、別の概念だ。
なら俺が書き換えるべきは【硬さ】じゃない。
俺は最後の力を振り絞り立ち上がった。
そして石ころの一つを手に取り、それをゴーレムから最も離れた壁の隅に向かって投げつけた。
「――【閃光】!」
石は壁に当たった瞬間、太陽のような眩い光を放つ。
視覚を持たないはずのゴーレムも、その強烈な魔力の放出に一瞬だけ動きを止めた。
その隙に俺は走った。
再びゴーレムの懐へ。今度はもう迷わない。
俺はその巨大な岩の足に、再び手のひらを叩きつけた。
頭の中で明確な、そしてあまりにも馬鹿げた定義を構築する。
――この岩の塊は、岩じゃない。ただの、風に舞う『羽根』よりも軽いものだ。
「――【軽量化】ッ!」
概念を付与した瞬間、俺の体から全ての重力が消え失せたかのような強烈な浮遊感が襲う。
だがそれと引き換えに、目の前で信じられない光景が広がっていた。
ゴーレムがその巨体を揺らした。
次の一歩を踏み出そうとして、その足は地面をほとんど踏みしめない。
振り下ろそうとした腕は、まるで風船のように頼りなく宙を掻くだけ。
その「硬さ」と「形」はそのままに、「重さ」という概念だけが完全に奪い去られていたのだ。
戸惑うゴーレムに向かって、俺は最後の武器を投げつけた。
あの麻縄だ。
「――【自動結束】!」
縄は、もはや抵抗する重さを持たないゴーレムの巨体にやすやすと絡みつき、その動きを完全に封じ込めた。
そして、数秒後。俺が付与した【超軽量化】の概念が、限界を迎え消え失せた。
「ギ……ギギギギギッ……!?」
自らの巨体を支えきれない、不自然な体勢のままゴーレムに、本来の「重さ」が一気に戻る。
ミシミシと岩が軋む音。
やがてゴーレムは自らの巨体を支えきれなくなったようだ。
関節部分から砕け散り、ただの巨大な瓦礫の山となってその場に崩れ落ちる。
「……はぁ……はぁっ……」
俺はその場にへたり込んだ。
勝った。勝てたんだ。
俺は『概念辞書』をそっと撫でる。
「……ありがとう、アリア」
俺を救ってくれたのは、強力な魔法じゃない。
屋根裏部屋のランタンの光の下で、彼女が書き記したたった一行の覚書だった。
俺はふらつく足で立ち上がると、祭壇の麓で倒れているクローナの元へと今度こそ駆け寄った。
法則、仮説、実験記録。だが、この絶望的な状況を覆せるような記述はどこにもない。
もう。ダメか。
諦めかけた俺の指が、ふ、最初の実験を記録した見慣れたページで止まった。
銅貨に【重さ】を付与したあの日の記録。そのページの片隅に、アリアが書き殴った小さな文字があった。
──覚書:概念は、他の特性に影響を与えない。銅貨に【重さ】を付与しても、その【硬さ】は変化しなかった。特性はそれぞれが独立している。
「…………なんだ、これ」
最初は、意味が分からなかった。
こんな状況では何の役にも立たない、ただの実験メモだ。
だがその一文が、まるで頭の中で稲妻のように俺の思考を貫いた。
――特性はそれぞれが独立している。
「……そうか」
俺は乾いた唇で呟いた。
「そうか……! そういうことか、アリア……!」
俺はずっと間違っていたんだ。
俺はこのゴーレムの【硬さ】をどうにかしようとしていた。
だが、それはこいつが持つ、最も強力な特性だ。だから俺の力は弾かれた。
アリアのメモが教えてくれた。特性は独立していると。
【硬さ】と【重さ】は、別の概念だ。
なら俺が書き換えるべきは【硬さ】じゃない。
俺は最後の力を振り絞り立ち上がった。
そして石ころの一つを手に取り、それをゴーレムから最も離れた壁の隅に向かって投げつけた。
「――【閃光】!」
石は壁に当たった瞬間、太陽のような眩い光を放つ。
視覚を持たないはずのゴーレムも、その強烈な魔力の放出に一瞬だけ動きを止めた。
その隙に俺は走った。
再びゴーレムの懐へ。今度はもう迷わない。
俺はその巨大な岩の足に、再び手のひらを叩きつけた。
頭の中で明確な、そしてあまりにも馬鹿げた定義を構築する。
――この岩の塊は、岩じゃない。ただの、風に舞う『羽根』よりも軽いものだ。
「――【軽量化】ッ!」
概念を付与した瞬間、俺の体から全ての重力が消え失せたかのような強烈な浮遊感が襲う。
だがそれと引き換えに、目の前で信じられない光景が広がっていた。
ゴーレムがその巨体を揺らした。
次の一歩を踏み出そうとして、その足は地面をほとんど踏みしめない。
振り下ろそうとした腕は、まるで風船のように頼りなく宙を掻くだけ。
その「硬さ」と「形」はそのままに、「重さ」という概念だけが完全に奪い去られていたのだ。
戸惑うゴーレムに向かって、俺は最後の武器を投げつけた。
あの麻縄だ。
「――【自動結束】!」
縄は、もはや抵抗する重さを持たないゴーレムの巨体にやすやすと絡みつき、その動きを完全に封じ込めた。
そして、数秒後。俺が付与した【超軽量化】の概念が、限界を迎え消え失せた。
「ギ……ギギギギギッ……!?」
自らの巨体を支えきれない、不自然な体勢のままゴーレムに、本来の「重さ」が一気に戻る。
ミシミシと岩が軋む音。
やがてゴーレムは自らの巨体を支えきれなくなったようだ。
関節部分から砕け散り、ただの巨大な瓦礫の山となってその場に崩れ落ちる。
「……はぁ……はぁっ……」
俺はその場にへたり込んだ。
勝った。勝てたんだ。
俺は『概念辞書』をそっと撫でる。
「……ありがとう、アリア」
俺を救ってくれたのは、強力な魔法じゃない。
屋根裏部屋のランタンの光の下で、彼女が書き記したたった一行の覚書だった。
俺はふらつく足で立ち上がると、祭壇の麓で倒れているクローナの元へと今度こそ駆け寄った。
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