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第十九話 目覚め
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「クローナさん! しっかりして!」
彼女の体からは幻覚を見せていたあの黒いモヤは消えている。
だがその顔は蒼白で呼吸も浅い。
幻覚の中でよほど精神を消耗させられたのだろう。
俺が彼女の肩を揺すると、うっすらと、翠色の瞳が開かれた。
「あれ……? ここは? アリアは……? アリアは、無事……?」
意識が朦朧としながらも、彼女が最初に口にしたのは親友の名前だった。
「ああ。アリアは街で待ってる。だから、帰ろう」
俺がそう言うと、彼女は安心したように再び静かに目を閉じた。
ほっと息をついた、その時だった。
ピシッと祭壇の上で、何かが軋む音がした。
見ると、俺がヒビを入れたあの黒い宝玉が最後の悪あがきのように禍々しい魔力を放ち始めていた。
このままでは、またいつか災厄の元凶になりかねない。
俺は、疲れ切った体に鞭打ち最後の力を振り絞った。
宝玉に触れ、頭の中で定義する。
恐怖や悪意を煽る、この邪悪な概念。
その全ての活動を止める。
「――【沈黙】」
概念を付与した瞬間、宝玉の脈動がぴたりと止まった。
禍々しい気配は消え、それはただの黒い石ころへと変わる。
だがその代償として、俺の頭の中にあった思考の全てがまるで止まるように静かになる。
次に、強烈な眠気が俺を襲った。
まずい、ここで気を失ったら……。
俺は最後の気力で、クローナの体を背負った。
思ったよりずっと軽い。俺はふらつく足で、洞窟の出口へと向かって、一歩また一歩と歩き始めた。
◆◆◆
次に俺が目を覚ますと、そこは見慣れた屋根裏部屋の天井だった。
体を起こそうとすると全身が鉛のように重い。
「……気が、つきましたか」
声がした方を見ると、ベッドの脇の椅子にアリアが座っていた。
彼女の目は少し赤く腫れている。ずっと俺のそばにいてくれたのだろうか。
「……クローナさんは」
「無事です。今は、館長の部屋で休んでいます。あなたのおかげです」
俺は街の人々の助けを借りて、クローナが俺をここまで運んでくれたことを知った。
俺が眠っている間、彼女がずっと看病してくれていたことも。
「……そうか。よかった」
心の底から安堵のため息が漏れた。
約束を果たせたんだ。
「…………」
沈黙が部屋を支配する。
やがてアリアが、おそるおそるといった様子で口を開いた。
「……ごめんなさい」
「え?」
「私が、もっと早く勇気を出していれば……! あなたを、こんな危険な目に遭わせずに済んだのに……!」
彼女の瞳から、堪えていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「違う」
俺は重い体をなんとか起こすと、きっぱりと言った。
「君がいたから俺は勝てたんだ。君が書き記してくれた『概念辞書』がなければ、俺はとっくにあのゴーレムにやられていた」
俺の言葉にアリアは驚いたように顔を上げる。
「それに俺は、君に約束した。だから、行ったんだ。それだけだよ」
俺は不器用な言葉で必死に伝えた。君のせいじゃない、と。
俺の言葉を聞き終えると、アリアは俯いたまましばらく黙っていた。
やがて彼女はゆっくりと顔を上げると、潤んだ瞳で俺を見て。
そして本当に、本当に嬉しそうに、花が綻ぶように微笑んだ。
「ありがとう、ございました……!」
俺が、彼女の本当の笑顔を、初めて見た瞬間だった。
彼女の体からは幻覚を見せていたあの黒いモヤは消えている。
だがその顔は蒼白で呼吸も浅い。
幻覚の中でよほど精神を消耗させられたのだろう。
俺が彼女の肩を揺すると、うっすらと、翠色の瞳が開かれた。
「あれ……? ここは? アリアは……? アリアは、無事……?」
意識が朦朧としながらも、彼女が最初に口にしたのは親友の名前だった。
「ああ。アリアは街で待ってる。だから、帰ろう」
俺がそう言うと、彼女は安心したように再び静かに目を閉じた。
ほっと息をついた、その時だった。
ピシッと祭壇の上で、何かが軋む音がした。
見ると、俺がヒビを入れたあの黒い宝玉が最後の悪あがきのように禍々しい魔力を放ち始めていた。
このままでは、またいつか災厄の元凶になりかねない。
俺は、疲れ切った体に鞭打ち最後の力を振り絞った。
宝玉に触れ、頭の中で定義する。
恐怖や悪意を煽る、この邪悪な概念。
その全ての活動を止める。
「――【沈黙】」
概念を付与した瞬間、宝玉の脈動がぴたりと止まった。
禍々しい気配は消え、それはただの黒い石ころへと変わる。
だがその代償として、俺の頭の中にあった思考の全てがまるで止まるように静かになる。
次に、強烈な眠気が俺を襲った。
まずい、ここで気を失ったら……。
俺は最後の気力で、クローナの体を背負った。
思ったよりずっと軽い。俺はふらつく足で、洞窟の出口へと向かって、一歩また一歩と歩き始めた。
◆◆◆
次に俺が目を覚ますと、そこは見慣れた屋根裏部屋の天井だった。
体を起こそうとすると全身が鉛のように重い。
「……気が、つきましたか」
声がした方を見ると、ベッドの脇の椅子にアリアが座っていた。
彼女の目は少し赤く腫れている。ずっと俺のそばにいてくれたのだろうか。
「……クローナさんは」
「無事です。今は、館長の部屋で休んでいます。あなたのおかげです」
俺は街の人々の助けを借りて、クローナが俺をここまで運んでくれたことを知った。
俺が眠っている間、彼女がずっと看病してくれていたことも。
「……そうか。よかった」
心の底から安堵のため息が漏れた。
約束を果たせたんだ。
「…………」
沈黙が部屋を支配する。
やがてアリアが、おそるおそるといった様子で口を開いた。
「……ごめんなさい」
「え?」
「私が、もっと早く勇気を出していれば……! あなたを、こんな危険な目に遭わせずに済んだのに……!」
彼女の瞳から、堪えていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「違う」
俺は重い体をなんとか起こすと、きっぱりと言った。
「君がいたから俺は勝てたんだ。君が書き記してくれた『概念辞書』がなければ、俺はとっくにあのゴーレムにやられていた」
俺の言葉にアリアは驚いたように顔を上げる。
「それに俺は、君に約束した。だから、行ったんだ。それだけだよ」
俺は不器用な言葉で必死に伝えた。君のせいじゃない、と。
俺の言葉を聞き終えると、アリアは俯いたまましばらく黙っていた。
やがて彼女はゆっくりと顔を上げると、潤んだ瞳で俺を見て。
そして本当に、本当に嬉しそうに、花が綻ぶように微笑んだ。
「ありがとう、ございました……!」
俺が、彼女の本当の笑顔を、初めて見た瞬間だった。
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