辺境の付与術師のスローライフはままならない? ~Sランクパーティーを追い出された無能な俺、実は世界で唯一の概念付与の使い手でした~

沢谷 暖日

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第二十三話 世話焼きな友達

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 アリアの呪いについて、俺たちが保留という名の重い選択をしてから数週間が過ぎた。
 俺と彼女の間にはあの日以来、奇妙なしかし確かな信頼関係が生まれていた。
 昼間は相変わらず言葉少ないが、時折交わす視線には以前のような警戒心はなく、秘密を共有する共犯者同士のような穏やかな色が宿っている。

 俺たちの穏やかな日常に、一つだけ変化があったとすればそれはクローナの存在だった。
 すっかり回復した彼女は、冒険者としての依頼がない日はほとんど一日中図書館に入り浸っていた。
 本を読むためではない。アリアの世話を焼くためだ。

「アリアは体が弱いんだから、無理しちゃダメ!」
「アリアは本に夢中になると食事を忘れるんだから、私が見張ってないと!」

 その過保護ぶりは、見ていて微笑ましいやら呆れるやら。
 そして俺の穏やかだったはずのスローライフは、彼女の存在によって少しだけ騒がしいものに変わっていた。

 その日の昼休み。
 俺は屋根裏部屋で、市場で買った野菜を煮込んだ簡単なスープを作っていた。
 自分のためだけに作る食事はすっかり俺のささやかな楽しみになっていた。
 アリアも最近は研究で根を詰めすぎている。少しだけ、おすそ分けしてやろう。
 俺は盆に二つのスープ皿を乗せ、彼女がいるであろう書庫の私的閲覧室へと向かった。
 ドアの前に着くと、中からアリアとクローナの話し声が聞こえてくる。

「だーめ! アリアは私がいないとダメなんだから! こんなに可愛い顔が研究で疲れちゃってるじゃない!」
「ク、クローナ! やめてください、自分で食べられます! それに近いです……! 猫舌なんです……!」

 何やら楽しそうな雰囲気に、俺は邪魔しない方がいいかと少しだけ迷った。
 だがスープが冷めてしまう。俺は意を決して、控えめにドアをノックした。

「アリア、いるか? スープを作ったんだが……」

 返事がない。
 不思議に思い俺はそっとドアを開けた。
 そして俺は、見てはいけないものを見てしまった、と固まった。

「────」

 椅子に座るアリアの頬を真っ赤にさせながら、クローナがスプーンで彼女にスープを飲ませようとしている。
 あーんだった。あーんというやつだった。
 クローナは、アリアの乱れた髪を優しく耳にかけてやるとその額に自分の額をこつんと合わせている。

「あ……」

 俺の存在に気づいた二人が、ピタリ、と動きを止める。

「す、スープ、を……」

 気まずい。これは気まずいぞ。
 アリアは顔から火が出そうなほど真っ赤になると、持っていた分厚い本で顔を隠してしまった。
 そしてクローナは、ゆっくりと、まるで錆びついた機械人形のようにギギギとこちらを振り返った。
 その笑顔は太陽のようだったが、瞳は全く笑っていない。

「な、何よ! アリアとの大事な時間なんだから邪魔しないでよね!」
「い、いや、スープを……おすそ分け、しようかと……」
「いらないわよ! アリアの食事は私が管理するんだから! あんたはあっち行ってて!」
「あ、ああ……。すまない……」

 俺は盆に乗ったスープ皿が虚しく揺れるのを感じながら、そっと、そして静かにドアを閉めた。
 まぁ確かに俺がいても邪魔になるだけだろう。
 百合の間に挟まる男は死ね。有名な言葉だ。
 しかしなんだ今のは。嵐のような出来事だったな。

「……はぁ」

 俺は溜息を吐き。一人中庭のベンチで生ぬるいスープをすする。
 追放されてからずっと張り詰めていた心がなんだかどうでもよくなるくらい、拍子抜けする光景だった。
 しかしまぁ、アリアは友達の前だとあんな年相応な表情になるらしい。
 その事実が、なぜだか自分のことのように嬉しかった。
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