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第二十四話 祭りの気配
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あれから俺たちの間には奇妙で、それでいて心地よい日常が流れるようになった。
屋根裏部屋での秘密の研究はあの日以来一度も中断していない。
アリアは自らの呪いを解くというあまりに危険な選択肢を封印した。
その代わりに全ての情熱を、俺の力の法則を解き明かすという純粋な探求に注いでくれているようだった。
そのおかげで俺たちの『概念辞書』のページは着実に厚みを増していた。
その日の午前中、俺はいつものように図書館の雑用をこなしていた。
図書館を一歩出ると、街の空気がここ数日でがらりと変わっていることに気づく。
家々の軒先には黄金色の麦の穂で編んだリースが飾られ、子供たちが色とりどりのリボンを持って駆け回っている。通りの向こうからは、楽器の陽気な音色と何かを準備する威勢のいい声が聞こえてきた。
「おお、ノア君。精が出るのう」
声をかけてきたのは、顔なじみになったパン屋の主人だった。
「街もいよいよ『金麦祭』一色じゃな。一週間後が待ち遠しいわい」
「金麦祭……?」
「おや、知らんかったかね? このミストラルで一年に一度開かれる、最大の収穫祭だよ。武術大会もあるし、美味いもんもたくさん並ぶ。君も楽しむといい」
「はぁ。お祭り、ですか」
パーティーにいた頃は、祭りの日といえば警備の強化依頼でいつも駆り出されていた。
ただただ、騒がしくて面倒なだけの日。そう思っていたけれど。
だが今の俺の心は、不思議と少しだけ浮き立つのを感じていた。
◆◆◆
図書館に戻ると、閲覧室の隅でアリアとクローナがひそひそと何かを話していた。
俺の姿に気づいたクローナが、大げさに腕を組んで「ふん」とそっぽを向く。
先日の「あーん事件」以来、彼女の俺に対する警戒心はなぜか前よりも強くなっていた。
「……クローナが、祭りの武術大会に出る、と聞かなくて」
アリアが困ったような、それでいてどこか嬉しそうな顔で俺に説明してくれた。
「当たり前でしょ! 優勝して『金麦の勇者』になってアリアに捧げるんだから!」
「私は称号より、あなたが怪我をしない方が嬉しいです」
そんな二人のやり取りを眺めていると、追放されてからずっと張り詰めていた心がゆっくりと解けていくようだった。
俺は彼女たちの邪魔をしないように自分の仕事に戻る。
◆◆◆
その夜。屋根裏部屋の研究室でアリアが興奮した様子で一冊の古文書を広げた。
「ノアさん大変です! 金麦祭のクライマックスで行われる『天への種蒔き』……あの儀式で使われる『豊穣の種火』について興味深い記述を見つけました!」
「豊穣の種火?」
「はい。ただの魔力を秘めた鉱石ではないようです。この本によれば『古代の民が、豊穣への祈りを込めて【成長】と【結実】の概念を結晶化させたもの』だと……」
概念の、結晶?
それは、もしかしたら俺の力と同じルーツを持つもなのか?
俺とアリアは、顔を見合わせた。
「……祭り、楽しみだな」
俺がぽつりと呟くと、アリアは一瞬きょとんとした顔をした。
そして嬉しそうに、花が綻ぶように微笑んだ。
屋根裏部屋での秘密の研究はあの日以来一度も中断していない。
アリアは自らの呪いを解くというあまりに危険な選択肢を封印した。
その代わりに全ての情熱を、俺の力の法則を解き明かすという純粋な探求に注いでくれているようだった。
そのおかげで俺たちの『概念辞書』のページは着実に厚みを増していた。
その日の午前中、俺はいつものように図書館の雑用をこなしていた。
図書館を一歩出ると、街の空気がここ数日でがらりと変わっていることに気づく。
家々の軒先には黄金色の麦の穂で編んだリースが飾られ、子供たちが色とりどりのリボンを持って駆け回っている。通りの向こうからは、楽器の陽気な音色と何かを準備する威勢のいい声が聞こえてきた。
「おお、ノア君。精が出るのう」
声をかけてきたのは、顔なじみになったパン屋の主人だった。
「街もいよいよ『金麦祭』一色じゃな。一週間後が待ち遠しいわい」
「金麦祭……?」
「おや、知らんかったかね? このミストラルで一年に一度開かれる、最大の収穫祭だよ。武術大会もあるし、美味いもんもたくさん並ぶ。君も楽しむといい」
「はぁ。お祭り、ですか」
パーティーにいた頃は、祭りの日といえば警備の強化依頼でいつも駆り出されていた。
ただただ、騒がしくて面倒なだけの日。そう思っていたけれど。
だが今の俺の心は、不思議と少しだけ浮き立つのを感じていた。
◆◆◆
図書館に戻ると、閲覧室の隅でアリアとクローナがひそひそと何かを話していた。
俺の姿に気づいたクローナが、大げさに腕を組んで「ふん」とそっぽを向く。
先日の「あーん事件」以来、彼女の俺に対する警戒心はなぜか前よりも強くなっていた。
「……クローナが、祭りの武術大会に出る、と聞かなくて」
アリアが困ったような、それでいてどこか嬉しそうな顔で俺に説明してくれた。
「当たり前でしょ! 優勝して『金麦の勇者』になってアリアに捧げるんだから!」
「私は称号より、あなたが怪我をしない方が嬉しいです」
そんな二人のやり取りを眺めていると、追放されてからずっと張り詰めていた心がゆっくりと解けていくようだった。
俺は彼女たちの邪魔をしないように自分の仕事に戻る。
◆◆◆
その夜。屋根裏部屋の研究室でアリアが興奮した様子で一冊の古文書を広げた。
「ノアさん大変です! 金麦祭のクライマックスで行われる『天への種蒔き』……あの儀式で使われる『豊穣の種火』について興味深い記述を見つけました!」
「豊穣の種火?」
「はい。ただの魔力を秘めた鉱石ではないようです。この本によれば『古代の民が、豊穣への祈りを込めて【成長】と【結実】の概念を結晶化させたもの』だと……」
概念の、結晶?
それは、もしかしたら俺の力と同じルーツを持つもなのか?
俺とアリアは、顔を見合わせた。
「……祭り、楽しみだな」
俺がぽつりと呟くと、アリアは一瞬きょとんとした顔をした。
そして嬉しそうに、花が綻ぶように微笑んだ。
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