土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
15 / 120
第1章 土方歳三、北の大地へ

第15話

しおりを挟む
 土方琴の回想録を、更に引用する。

 初めての屯田兵村の設置です。
 本当に色々と試行錯誤の連続でした。
 初めて見る農作物を栽培するように、と開拓使から指示を受けることも度々でした。
 土方の家は、屯田兵村の村長でした。
 従って、開拓使から指示があれば、私達はその農作物の栽培を真っ先に実行せねばなりません。

 例えば、西洋カブです。
 これについては、今となっては笑い話ですが。
 歳三さんは、馬の飼料の1種として、この栽培を開拓使から指示されていたのですが。
 行き違いがあって、私と甥は、普通にこれを食料と想って栽培しました。
 そして、収穫が無事にできて、私は、喜んでこれを煮物にし、おかずの一品として、歳三さんに出しました。
 更に二人で食べたら。

 カブにしては、どうにも変な味がして、本当に不味いのです。
 歳三さんが、これは本当にカブか、と尋ねるので、私が現物を示したら、これは馬の飼料用だ、と笑われました。
 もう穴があったら入りたい気分に、私はなりました。
 わしに、馬の飼料を食べさせるとは、と歳三さんが笑っていわれたので、少し私は救われましたが。
 本当に、そんな感じで見たことも無い農作物を育てるのは、大変なことでした。

 歳三さんは、屯田兵のことに関しては本当にいつも気を配っていました。
 屯田兵の装備については、全員の装備を、できる限り揃えることを常に考えていました。
 屯田兵村は1つの中隊だ、そこで装備が揃っていないと戦うことなんて夢物語だ、と私にまで話していました。
 多分、戊辰戦争の実戦経験からだったと思います。

 例えば、銃に関してはシャスポー銃に統一させていました。
 命の恩人のブリュネ大尉の母国の銃なんだ、それに幕府歩兵隊でも装備していた銃でもある、俺はこの銃以外は使う気になれないんだ、とまで酔った勢いもあったのでしょう、酔いにまかせて私に口走ったこともあります。
 軍服も、冬の北海道で戦う際の防寒まで考えたものを準備させようと心掛けていました。

 そういったことから、歳三さんは、開拓使からかなり煙たがられてはいましたが、それだけ屯田兵のことを心配していたということです。
 だから、当の屯田兵やその家族からの歳三さんの人気は絶大なものがあり、土方村長のためなら死んでもいい、とまで口走る屯田兵が数多くいました。

 私から言えば、本当に歳三さんは、私には過ぎたる、いい夫でした。
 そもそも、私は三味線屋の生まれでしたので、これだけ大きな農作業を北海道でやるなんてことは、歳三さんと結婚するまでは、夢にも思ったことはありませんでした。
 だから、牛馬の使い方とか、いろんな農作物、馬鈴薯や蕎麦の栽培方法とか、私が始めてやることばかりで悪戦苦闘の日々でしたし、食事にしても私の力不足から、一時は三食とも馬鈴薯ばかり、歳三さんに出す始末でした。

 でも、歳三さんは不平をこぼすことは全くなく、逆に私をいつも心配してくれて、ある時には、私につらかったら実家に帰ってもいい、とまで言ってくれました。
 それこそ、馬の飼料を知らなかったとはいえ、私は、夫の食膳に出すような悪妻なのに、と歳三さんのその言葉を聞いた時には、私は大泣きしてしまいました。

 だからこそ、私にも意地がありましたし、こんないい夫のためなら、と田畑の開拓や家事等に、私はひたすら頑張ることができました。
 本当に、私には過分の夫としか言いようがありませんでした。
 結果的に、歳三さんとの間には、4人の子宝にも恵まれました。
 歳三さんは、私が産んだ子どもを本当にかわいがっていて、長男の勇志に、もう少し大きくなったら自分の剣術を伝えないと、と時折言っていたのを想い出します。
 私にとって、本当に理想の夫でした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...