土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第8章 城東会戦と人吉攻防戦

第12話

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「滝川充太郎少佐の容体が急変しただと」
 土方歳三少佐は、5月31日に第2海兵大隊からの急報を受けた際に絶句した。
 まさか、古屋佐久左衛門少佐に続いて、戊辰戦争以来の海兵隊内の知己が、またも逝ってしまうのだろうか。
 土方少佐は、取るものも取りあえず、滝川少佐の枕頭に駆け付けることにした。

 滝川少佐は、土方少佐の記憶によれば、5月24日に、第2海兵大隊が海兵隊内の先鋒を務めることになった際、最前線で西郷軍の陣地の弱点を視察していて、西郷軍の流れ弾を、右大腿部に受けたことから歩行困難になった。
 そのために、兵が臨時に作ったもっこに載って、海兵隊の現場の総指揮をそれ以来は執っていた。
「大したことは無い。すぐに治るさ」
 と滝川少佐は笑って、土方少佐に気丈に言っていたのだが。

 人吉は、西郷軍の放火により、街のかなりの部分が焦土と化していた。
 何とか焼失を免れて、海兵隊に確保された寺の庫裏が、臨時の野戦病院となって、海兵隊の戦傷者の手当てを行っていた。
 土方少佐が、その野戦病院に駆け込んだ際、滝川少佐は庫裏の一番奥に、どこからか確保された布団の上で横たわってはいた。
 だが、明らかに異常な顔色をし、声を出すのも困難な様相を、滝川少佐は示していた。
 これは、どうしたことだ、以前どこかで聞いたことがある病状だが、と土方少佐が考えていると、同じように急報を受けた林忠崇大尉も、滝川少佐の枕頭に駆け付けてきた。

「軍医はどこだ」
 滝川少佐の様子を見た林大尉が大声で叫んだ。
「ここに控えています」
 土方少佐自身が駆け付けた際には気づかなかったのだが、滝川少佐の近くに軍医が付いていて答えた。
 だが、その軍医の顔色は明らかに悪い。

「どうだ、滝川少佐は助かるのか」
 林大尉がせっつくように軍医に尋ねた。
 軍医は黙ったまま、顔を横に振った。

「そんな馬鹿な」
 その衝撃から、それ以上の言葉を続けられず、林大尉は膝から崩れるように座り込んだ。
 軍医は、それを見ながら、感情をできる限り迎えた声で、淡々と滝川少佐の病状を語りだした。

「流れ弾を受けた傷口から、破傷風を滝川少佐は発症した模様です。
 できる限りのことはしていますが、この発症以来の急激な病状の悪化から、明らかに重篤な破傷風である、と私は診断します。
 私の見るところ、おそらく滝川少佐は、まず助からないものと」

 土方少佐は、軍医の言葉を聞き流しながら、想いを巡らせた。
 この戦争は間もなく終わろうとしている。
 人吉が政府軍の前に陥落し、鹿児島も政府軍が苦戦を強いられながらも何とか確保している以上、最早、西郷軍に勝算はない。
 後は、西郷軍がいかに美しく散って敗北するかだけだ。
 それを知って亡くなるというのは、ある意味、軍人としては幸せな死ではないのだろうか?

 ふと土方少佐が気が付くと、滝川少佐は何か書き残したいのか、身振り手振りも合わせて、書くものを寄越せ、と言っていた。
 破傷風のせいで筋肉がこわばり、うまく発声が出来ないのだった。
 土方少佐が、書くものを慌てて取り寄せ、滝川少佐に渡すと、滝川少佐は、乱れた筆跡で、辞世の歌を認めた後、余白に次のように書き上げた。
「武士として戦い、その末に死ぬ。
 武士としての本懐を、最期に果たせそうだ」

「滝川少佐」
 林大尉が絶句しながら、敬礼した。
 土方少佐も、無言で滝川少佐に敬礼した。
 滝川少佐は答礼しようとしたが、破傷風による痙攣のためにうまく答礼できない。

 土方少佐が気が付くと、林大尉は涙をこぼしながらも、滝川少佐に敬礼を続けていた。
 滝川少佐は、2人に下がるように、破傷風の痙攣に苦しみながら促し、2人は滝川少佐の下を辞去した。
 その翌朝、滝川少佐はこの世を去って逝った。 
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