土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
101 / 120
第9章 鹿児島上陸作戦と鹿児島占領

第3話

しおりを挟む
「青服がいるな」
 5月5日、桂久武は、舌打ちしながら呟いていた。
「これは苦労しそうだ」
 桂の眼前では、第4海兵大隊が胸壁等を築き上げ、西郷軍の鹿児島奪還作戦を阻止しようとしていた。

 鹿児島に政府軍が上陸してきたのを、西郷軍が把握したのは、4月27日当日のことだった。
 桂らは西郷軍の兵を募ることと、鹿児島県庁に対して、西郷軍に協力するように要請(恫喝)することのために、鹿児島に滞在していたのだが、鹿児島港の沖合に政府軍の船団が現れたのに自分達から気づき、速やかに鹿児島を脱出し、人吉の西郷軍司令部に、政府軍が鹿児島に上陸したことを急報するために向かったのだった。
 何故かというと。

 島津久光の横槍等のために、桂らの手元には、兵はいないといっても過言では無い有様で、命からがら桂らは鹿児島から逃げ出すしかなかったのである。
 人吉の西郷軍司令部は、政府軍が鹿児島に上陸したとの桂らからの急報を受け、鹿児島奪還のために、別府晋介を総司令官とする振武隊、行進隊等の部隊を急きょ派遣した。
 桂らはそれに同行して、鹿児島奪還作戦に従事することになった。
 また、政府軍が鹿児島に上陸したと聞きつけ、郷土防衛のために、新たに西郷軍に志願する者もおり、彼らをかき集めた部隊も、西郷軍において急きょ編制された。

 こういった動きに対処することや、鹿児島の街では上陸してきた政府軍に対する反発が強く、西郷軍に陰に陽に協力しようとする者が多数いると見られたことから、鹿児島に上陸した政府軍を指揮する川村純義参軍も至急、増援を山県有朋参軍に求めることになった。
 山県参軍は、これに対して第4旅団を中核とする増援部隊を鹿児島に急派した。
 結果的に5月4日に、第4旅団等は海路から鹿児島に到着し、5月5日から始まった西郷軍の鹿児島奪還作戦に、この増援部隊は辛うじて間に合った。
 そして、5月5日から。

 桂の率いる部隊は、甲突川で第4海兵大隊と対峙して交戦することになったが、桂の敵は、前面の第4海兵大隊だけではなかった。
 海からは、政府軍の軍艦による艦砲射撃が、支援砲撃として行われたのだった。
 海岸に西郷軍の堡塁は無く、桂の部隊には、数少ない西郷軍の砲兵が、別府から回されなかったので、その点でも桂は苦戦を強いられることになった。

 最も仮に桂らに砲兵を回されていても、数十門単位で回されなかったら、艦砲射撃には対抗できないし、鹿児島奪還作戦に投入された西郷軍全軍を集めても、そんな大砲はどこにもなかったから、総司令官の別府の判断は、やむを得ないものと言える。

「開陽と甲鉄、いや東だったな、による艦砲射撃か。
 旧幕府海軍の軍艦から、我々に対する艦砲射撃を浴びせるとは。
 我々に対する嫌がらせだな」
 桂は呟かざるを得なかった。

 更に、単なる嫌がらせならまだしも、一方的に艦砲に撃たれるというのは、西郷軍の兵にとっては、たまったものではない。
 前面の陣地からの防御射撃もあり、桂の指揮下にある西郷軍の兵には、死傷者が続出してしまう。
 これでは、第4海兵大隊の陣地を攻撃するのは、無理筋である、と桂は判断せざるを得ない事態となった。

「やむを得ん、甲突川河口方面からの鹿児島奪還は断念する。
 艦砲の届かない内陸に迂回して、鹿児島奪還を目指す」
 桂は2日余り、甲突川河口方面からの甲突川渡河を策したが、続出する損害に耐えかねて、別府に対して、そのように意見を上申し、別府もそれを認めざるを得なかった。

 これ以降、甲突川河口方面の戦線は、平静を保つことになり、第4海兵大隊長の本多幸七郎は、1個中隊を監視に残し、残りの部隊を他方面に転出させて、他の陸軍等の支援に当たることが可能になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...