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第一章
7話 ③特別?
しおりを挟む口を開けていようがいまいがもういい、とにかく一回口にキスして……とせんやの顎を掴んでキスしようとすると、パッとせんやの手で俺の口を塞がれた。
「んぐ——おい!」
「ま、待って……お願い」
「はやくしないと誰か来ちまうぞ」
「俺……レンとポイントのためにキスするの?」
「あ?」
何言ってんだ? と口にする前に、せんやの目に涙が溜まっていることに気がつく。ルシフェルにキスをされてた時のせんやを思い出して、恐る恐るせんやを抱いていた手を緩める。い、いやだったのか? もしそうなら善行にはならないのか?
「俺……レンとのキスは特別なのがいい」
「…………は?」
「へ、変なこと言ってるのは分かってる……! ルシフェルとキスしたし……俺は初めてじゃないけど……。で、でも俺、本当は……姫野くんと初めて……ご、ごめん。ちがくて……だから——……」
ぽろぽろとせんやの頰に涙が流れる。
「俺、姫野くんと……」
「……と、特別だったら文句はねえんだな!?」
せんやは初めてじゃないけど、その次にするキスも特別だって言いてえのか。俺だってファーストキスじゃなくてもオロクやシーシェンとするのはいやだったんだ。
「…………」
「それとも……俺にキスされるのは、いやなのか?」
あれだけ喜ぶそぶりを見せてたから思いつかなかったが、もしそうなら前提が崩れる。善行にならねえ。
せんやは何も言わずに首をふるふると横に揺らす。
「俺はしたいよ姫野くんと……ずっと、したいと思ってたから」
「…………」
こ。
こ、こいつ今なんて言った?
「でも、姫野くんは……俺としたいなんて思わないでしょ? やっぱり、お互いにキスしたいって思わないと特別じゃないよ」
「——…………っ」
ガンッと頭を横から殴られたような衝撃が走る。はらはらと涙を流すせんやは苦しげに眉を寄せている。それを見てカッと頭に血がのぼる。
ふ、ふざけんなよ俺は——!
「してえから言ってんだろうが!!」
——だって、せんや相手がいやならオロクとかシーシェンにすりゃあいいんだ! あいつらは絶対喜ぶんだから、善行ポイントが貯まるんだからッ!!
「——でも俺はオロクとシーシェンがいやだからお前と——!!」
せんやの見開かれた目と、目の焦点が合ったとたん、かああああっと自分の顔に熱が溜まるのが分かった。
な、何だよこれじゃ俺がこいつのこと好きみてえじゃねえか……!?
「お、お前のことをす、すす、好きとか言ってるわけじゃなくて——嫌じゃねえと思っただけと言うか——そ、それに善行ポイントにキスは影響ないかもしれねえんだあいつらにキスされたけどその時はポイント確認する暇がなかったから……! だから善行だけのためじゃなくて——ん? じゃあ俺は何のために——待て。い、いやいやいや!! お前とえっちなことがしたいからとかじゃなくて!!」
な、何言ってんだ俺ええええ!!
頭を抱えていると、頰を温かい感触に包まれる。顔を上げるとせんやが俺の顔に手を添えている姿が見える。前世の時よりだいぶ顔の距離が近くなったな……なんて頭の片隅で考えていたら、真っ赤な顔をしたせんやがそっと目を閉じた。きゅっと引き締められた桃色の唇が目に入る。
「…………っ」
何度か見たはずなのに、変に緊張する。いつもみたいにぶりっこして堂々と口を尖らせてくる様子もなく、目を閉じるだけで顔を赤くして小さく震えている姿を見て、かわいい……っなんて考えてしまう。ぶんぶんと頭を振る。せんやがかわいいなんてありえねえ!! 俺はこいつのメロメロに掛かってんじゃねえのか! そうだそうに違えねえ!
ふーと息を整えて慌ただしく暴れていた気持ちを落ち着かせてから、目の前の知った顔を見てごくりと唾を飲む。
目を細めてせんやの顔に自分の顔を近づけていく……。ガチガチに固まった体を無理やり動かして、せんやの吐息を唇に感じる。
あと……あともう少し。あとちょっとで……!!
「——何してるの?」
「うぎゃああああああああ!?」
「わあああああああああ!?」
突然声を掛けられてせんやと共に叫んでお互いに離れる。俺とせんやをジトッとした目で見てくるキリクゥと、何を考えているか分からない顔で微笑んでいるオロクがいる。その後ろからはSSクラスの生徒が歩いてきているのが見える。そ、そうか……SSクラスも個人戦に向けてグラウンドで実践授業をしてたのか……。授業が長引いてたのか知らねえけど最悪のタイミングだ……。
オロクにちらりと視線を向けるが、オロクはキリクゥを見つめていて目が合わない。キリクゥをちらりと見ると、ばっちりと目が合ってにっこりと微笑まれる。
「おかしいと思ってたんだ。オロクがヴォンヴァートくんにキスし始めて、そんなに好きになってたなんてって。でもそうか、ヴォンヴァートくんが迫ったんだね、今みたいに」
「はあ!? ち、違えぞオロクとは事故で——」
「そうだよ、キリクゥ。最初は事故だったけど、その後は俺がヴォンヴァートくんにキスしたんだ」
さらっと答えるオロクを睨むが、微笑んでいるだけで何を考えているか全く分からない。笑顔で圧を掛けてくるシロくんは怒ってるって分かるのに。
「え、えっと、俺たちはそろそろ行かなくちゃ。レ——ヴォンヴァートくん、行こう」
「お、おお! そうだな!」
「ヴォンヴァートくん」
せんやに腕を引っ張られるが、その低い声にピタッと足を止めて振り返る。振り返った瞬間、キリクゥがぐんと顔を近づけてきて、耳元でつぶやいた。
「次僕と会った時は覚悟してね」
ぞわっと背筋に悪寒が走る。こ、こえええええ!! よく分かんねえけど超怒ってやがる。俺何されんだ……!?
せんやに引っ張られるままそそくさとその場を後にした。
グラウンドについてから、せんやとは会話もなく、視線も合わせられず、お互い背を向けて気まずい空気のままクラスメイトを待っていた。しばらくして、三人衆が手を振って俺のところに走ってきているのが見えた。
あともう少しで……せんやとキスできたのに——そ、そうだあともう少しでポイントの確認ができたんだ——次は……次こそはキスだけじゃなくてキス以上のこともしてポイントがどれくらい貯まるか実験していくんだ。
画面を開いて来世ポイントを確認する。-1390ptから、中途半端に変化した-1385pt。その数値をじっと見つめていると、妙に顔が火照ってくる。
『俺が喜んだからポイントが上がってる』……か。せんやのくせに。
「かわいすぎなくもねえ……」
「え、ええ!? リリアくん……今アインくんはいないよ! ま、まさか僕をかわいいなんて言うはずないし……」
「はあ?」
いつの間にかサイフェンが目の前に立ってた。俺の両サイドを囲むようにジュレアとコゴがいる。3人衆の後ろからザイドとアインが歩いてくるのが見えて、ジュレアとサイフェンを両手で押しのけアインに両手を伸ばす。
「アイちゃんおいで!」
アインは顔を赤くしてザイドの後ろに隠れた。おい、俺を癒せ。仕方がない。
「サイフェン、菓子持ってねえか?」
「え、今はないよ。教室においてきちゃった」
アップルに餌付けして癒されようと思ったんだけどな……。
「みんな集まったね」
背後からせんやの声が聞こえてびくりと肩が跳ねる。恐る恐る振り返ると、せんやのそばには委員長が立っている。シェルターでせんやに好意を持つ勢は殴ったからあいつの魔法も解けてるはずだ。なのに委員長はどうしてせんやの横顔を見つめてるんだ? まさかな……
2人の様子を眺めていたらせんやとばちっと目が合った。ぽう……とした顔で見つめてくるから頭を叩く。
「なんで……!? さっきは……さっきはぁぁ!!」
「調子に乗ってただろ」
「だってだって……みんながレ――ヴォンヴァートくんばっかり構うから!」
秋月……
「魔法の無力化は次からしないで……! ヒロインは俺なの! 俺がちやほやされたいの!」
イラッ。
ぽかぽか叩いてくるせんやの額を手のひらでぐいっと押しのける。すると委員長が俺とせんやの間に割り込んできて、睨み付けてきた。魔法がなくてもちゃんとお前を見てるやつがいるじゃねえか……とガンを飛ばしてくる委員長に答えて拳を握ってファイティングポーズを取る。
「先生に暴力を振るうのはやめろ」
「お前鍛えてたんだろ? ちゃんと強くなったか確かめてやるよ」
「だ、だめだイルフォントくん、ヴォンヴァートくん。実践授業をするために準備してきたからまずはこれを見て」
せんやがグラウンドの外に出て、トイレの横にある倉庫からホワイトボードを持ってくる。ホントに黒板やらホワイトボードやら魔法学園とは思えねえもん使うよな。
せんやがホワイトボードに黒いペンでトーナメント表を書く。書き終えるとせんやはまた倉庫へ向かい、手に箱を持って小走りで帰ってきた。
「これ、くじ引き。みんながくじを引いてる間に俺がトーナメント表に適当に数字を書いていくから、くじに書いてある数字の通りに自分の名前を書いていって」
わざわざ用意してたのか。先生って大変なのかもな。
「学年別個人戦と同じように作ってくれたんですね。大変だったでしょう。今度は俺を呼んでください。手伝いますから」
イルフォントがせんやの肩を抱いて微笑んだ。せんやは顔を赤く染めて頬を掻く。
「審判役は俺と、シーシェン先生と……今回だけ3年首席のゼンエくんがやってくれます」
せんやがちらっと視線を送った先には外廊下があり、シーシェンとゼンエがこちらへ歩いてきている。
せんやが数字を書いている間に席順にくじを引き、ホワイトボードの下に名前を書く。実践授業はいつもシーシェンが相手だったから、クラスメイトと戦えると思うとわくわくするな! 授業で殴れって言われてるなら来世ポイントに影響しねえだろ。
「クソッ!! 師匠と別れちまった……! でも師匠! 絶対に勝ち進んでやるから待ってろ!!」
「おお、お前とのちゃんとした喧嘩は初めてだな! 楽しみにしてるぜ」
レアりんを始めて殴ったのは確か……止まってた蚊を叩こうとした時だからな。本気とは言えねえ。
「り、リリアくん! ぼ、僕も全力で頑張るね……!」
「おう、お前とはそもそも喧嘩したことなかったな」
「リリアちゃ~ん! 俺もすごく楽しみだよ絶対本気で殴りに来てよね!!」
「…………せめて一発で仕留めてやる」
「そ、それって物凄く痛そうだね……じゅるり」
今すっげえ寒気がした。
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