乙女ゲームの攻略キャラに転生したけど、他の攻略キャラ達の好感度が上がる一方で……!?

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第一章

7話 ④姫野くん

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 あー思ってたのと違え……。
 たくさん殴り合えて色々我慢してきた分が発散できると思ってたのに。
「師匠! 覚悟しろ! あれから俺も鍛えて——ぐぶええええええッ!?」
「弱すぎんだろ……」
 相手が魔法を発動しようとした瞬間俺が近づくと魔法陣が消えてしまう。そして拳と拳の戦いになると俺の独壇場だ。あっという間に決着がついてとてもとてもつまらない。俺を倒すと息巻いてたジュレアはもちろん、同じく息巻いてたザイドもあっという間に伸びてた。
「つまんねえ! もっと殴りがいがある奴はいないのかよ!」
「ごめんねリリアちゃん! 俺がルシフェルっちに負けたせいで……!」
「やめてくれないかその呼び方」
 ルシフェルに嫌そうな顔で睨まれるコゴは俺に熱烈な声援を飛ばす。
「俺ならリリアちゃんの拳を受け止められるのに……! みんなずるいずるい! 俺だって、一撃で仕留められたい……!」
「気色悪」
「なんか、最近殴ってくれないからそう言う言葉や視線だけでも嬉しいよ♡」
「それはキモすぎだろ!?」
 キュンですすんな。
 だが、拳があいつを求めてしまうくらいには何も発散できてないのも事実! 誰かやりがいがある奴いないのか!
「決勝戦はイルフォントくんとヴォンヴァートくんだよ」
 おっ! あの野郎鍛えてやがったんだよな! 少しはやりがいがあるんじゃ——



 ——「ぐあああああああ!」

 ——期待を返せ。
 俺を睨み眉間に皺が刻み込まれていたイルフォントは魔法を発動したがすべて無効化されていた、楽しみだった魔法なしの戦いも、他の生徒よりは長く持ったがあっという間に終わってしまった。
「ヴォンヴァートくんの優勝……! って言いたいところだけど、本番では魔法無効化はズルすぎるから理事長にヴォンヴァートくんは出場できないように言っておくね」
「おいどう言うことだ!? 俺は殴りてえ!」
「だって魔法学園で魔法を使わないで勝つなんて認められるわけないでしょ」
「うっ……! せ、せめて参加だけでもさせろ! 俺は順位にカウントしなくていいから喧嘩をさせてくれええ!!」
 せんやの両肩を掴んで力いっぱい揺する。せんやがぐるぐると目を回して、「わ、分かった! 分かったからやめてえええっ……!」と情けない声を出す。
 イルフォントがすぐ間に入って俺から離した。さっきまで伸びてやがったくせに無駄にかっこつけやがって。
「邪魔だどきやがれ」
「お前こそいい加減にしろ、どれだけ先生を困らせれば済むんだ」
「ああ!? こいつは俺に困らされて喜ぶだろ!」
「その思い込みをやめろ。困ることに喜ぶなんて者がいるはずがない」
 ド正論すぎるけどよ。
「相手が俺だからいいんだよ!」
「何を根拠に言っている! 先生がそう言ったとでも!?」
「せ、せんやは言ってねえけど態度とか——」
「態度? それこそ思い込みだろう、このぐるぐるした泣きそうな目が見えないのか!」
「……俺はこいつに困らされても嬉しいのにこいつが俺に困らされて喜ばねえわけねえだろッ!!」
「レ——ヴォンヴァートくん……っ」
 イルフォントの奥でぽっとした顔で見てくるせんやにハッとする。
「う、嬉しいと言うか、困らされても構わねえって言うか……!」
 せんやがイルフォントの腕をサッと屈んで避けて俺のそばにきて耳打ちする。
『俺も、姫野くんになら困らされても構わないよ』
 いかんいかん、親指と人差し指を交差させちまった。誰にも見られてねえよな?
『せ、せんや、後でさっきの続きを——ぐえ!』
「どうやらヴォンヴァートくんの相手は私しかいないみたいですね。つまらないなら鬱憤を晴らさせてあげるよ」
「は、離しやがれシーシェン!」
 首根っこを掴まれてせんやから離されてそのままぶら下げられる。シーシェンが俺を下ろしコソコソ話してくる。
『君まで秋月先生に夢中になるとはね……。魔法は無効化されてるはずでしょう?』
 な、何だと!? この野郎せんやの魔法に気付いてんのか!? って俺のどこが夢中だって!? せんや如きに!? あり得ねえんだよ!
「お前適当なこと言うんじゃ——」
『変な虫が付かないように痕をいっぱい付けたんですよ?』
 ひいいいいいいいッ!?
 殴りかかるとパッと手を離され距離を取られる。こ、こいつやっぱりやりやがる……!

 ——『緊急事態発生、緊急事態発生、生徒は速やかに地下シェルターへ避難してください。緊急事態発生、緊急事態発生、生徒は速やかに——』

 なんだ!? これってつい最近にもあった……
「みんな、放送に従って避難して! イルフォントくん、シェルターではみんなをよろしくね。シーシェン先生、ゼンエくん、まずは事態の把握を!」
「秋月先生、シーシェン先生、俺は担任のエダン先生と3年生の統率に回ります」
「分かった、シーシェン先生、ゼンエくんを一人行動はさせられません、クラスまで送ってください」
「分かりました。行こうゼンエくん」
「俺はみんながシェルターに避難したのを確認してきます。行こうイルフォントくん、みんなも急いで!」
 せんやとイルフォントに先導されてシェルターへ避難したが、シェルターの扉が閉まる前にせんやの背中が見えて思わず飛び出してしまう。俺の名を呼ぶ三人衆の声とアインとザイドの声も聞こえたけど、せんやの背中しか見えなかった。
 あれ、俺って……こんなに周りが見えなくなるほどせんやのこと心配してたっけ?
 よく思い出してみたら、あいつを助けに走ったり、あいつ関連で殺されたり、転生前からそうだった気も……
 ——「どうして来たんだ姫野くん!」
 お前があの場にいたらこんな風に俺を心配したのか?
 いつの間にかあの日みたいに雨が降っていた。
 そう言えば、お前が連れて行かれたって知って俺が走った日も雨が降ってたな。お前と話したこともなかったのに、俺はどうしてお前のために走ったんだっけ。
 そうだ、こいつが教室に入ってくるたびに教室中が楽しそうで明るくて、俺はお前をいつの間にか目で追ってた。
 今でも。
「姫野くん、どうして……」
 助けに行った時も、こんな顔をしてた。
 近くにある涙目の顔を見て、つい、ぎゅっと抱きしめると、せんやは驚いたのか固まってしまった。
「…………君を狙ってるかもしれないんだよ? みんなとシェルターにいて。ヴォンヴァートくん」
 ヴォンヴァートくんと強調して呼ばれたことに腹が立つ。
「……お前は? お前のことは誰が守る?」
「俺はこう見えて先生なんだよ? 他の先生とも連携するし——」
「でもお前にまた何かあったら——!」
 せんやがハッと息を呑んで顔を上げる。困ったような、悲しそうな、下がった眉の下で目にはうっすら涙が浮かんでいる。しかしその瞳に小さな期待が見えた気がした。
 俺は何にも周りなんて見えていなかった。今はなぜかお前しか見えない。
 せんやの唇にかぶりつくと、ビクッと腕の中でせんやが震えた。突き放しはせず、縋り付くように胸のシャツを握ってくる。目を少し開けると、まつ毛がひん曲がるくらいぎゅっと目を瞑って顔を真っ赤にしているせんやが見える。
 柔らかい……。せんや、いい匂い……。かわいい。かわいい……っ。
「ひ、姫野く——」
「せんや……秋月。秋月——」
 開いた口の中へ舌を入れようとした時だった。
「——ヴォンヴァートくん?」
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