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第一章
8話 ⑥友達
しおりを挟む「じょ、冗談だよな!? ウォーゼンがオロクをって!?」
甘やかしが激しい気がしたけどそう言う!?
「そんなに気にする必要が? 君だって色んな人に好かれているでしょう? あの子は昔から人気がある。幼い頃君も夢中になって大変だった」
「……え?」
「ぬいぐるみを貰ったとかどうとかで。私だって作れるのに。君にあげた後も君は私があげたぬいぐるみには見向きもしなかった」
「それって、もしかしてクマのぬいぐるみ?」
「そうだ、あの子に貰ったと手放さなかった」
…………。じゃ、じゃあシーシェンの奴は俺とオロクとぬいぐるみのこと覚えてたってことかよ!?
「ウォーゼンがオロクに何をすると思ってるんだよ?」
「君とキスしたことを知ったなら自分もと思ってるんじゃないですか?」
「あいつらがキスするなんて……考えられねぇ」
「あの子が君を好きだと言うことは知られてませんよね?」
「え? な、なんでだ? 俺なんかを好きになるからって言ってはいたが……」
「君への恨みは膨らんでいると思いますよ?」
な、何ぃッ!?
「前の俺へのだろ?」
「いいえ。君がアルマタクトである時点で恨んでいます」
「あ? なんで俺がアルマタクトだからって恨まれなきゃなんねぇんだよ」
今更だけどシーシェンに耳を近づける。しかしシーシェンは小声にせずに答える。
「アルマタクトは君が生まれた時から感情を持ち始めました、君とこの子が出会ってから、アルマタクトはこの子の感情を奪ったんです」
「か、感情を? どう言うことだ?」
「ウォーゼンさまはこの間の実験で俺の感情を取り戻してくれたんだよ」
困り顔をしたままオロクがそう言った。
感情って、なんだよそれ……。ずっとお前の考えてることが分からなかったのは、俺が奪ったからってことか?
「お、俺とお前が出会ったから?」
「うん。だから、ウォーゼンさまは俺と君を引き離したんだ。君のそばにいれば感情が戻るなんて知らなかったから」
そばにいれば感情が戻る? もしかして、好感度が0%になったり100%になったりしてたのはそのせいか!?
「で、でもお前俺から離れても——か、感情戻ったり……」
オロクは俺が好感度見れるなんて知らねぇ、なんて説明すれば……
「遅れて感情が戻ることもあったよ」
なんとなく言いたいことを察してくれたのか答えてくれる。やっぱり! 好感度は正しかったんだ、バグなんかじゃなかった……。じゃあ、あの好感度は本物……。
「そう言えば、寮で僕が話しかけてもヴォンヴァートくんの写真をずっと眺めてたことがあったね」
シロくんが思案しながら口を挟む。
「……俺がお前の感情を」
「君じゃなくてアルマタクトだよ」
「でも俺はアルマタクトから生まれたから……」
「シーシェン先生どうしてアルマタクトはオロクの感情を奪ったんですか?」
3人とも固唾を飲んでシーシェンの答えを待つ。
「一目惚れだそうですよ」
「……………」
「……………」
「……………」
当人のオロクも、俺もシロくんもジト目でシーシェンを見つめる。シーシェンはこほんと咳払いしてから続けた。
「人気があると言ったでしょう」
「待て、アルマタクトの意思をどう聞くんだ!」
「君も会ったことがあるでしょう?」
そう問いかけられたオロクの顔が、心配になるくらい真っ青になる。震えながら俺の腕に両手で縋ってくる。なんか可哀想だ。
「大丈夫か? オロク。誰に会ったんだよ?」
「気持ち悪い……吐きそう」
そんなに!?
「前のヴォンヴァートくんの融合した人格の一つで、アルマタクト実験の最初の成功体。ヴォンヴァートくんが君を嫌がらなかったのはアレの感情が入っていたからですよね。どんな気分なんですか? 自分を拒絶しない理由の正体が最も嫌っている相手からの好意だったと知った時は」
「おい、やめろ。それに、確かに俺達はこいつに恋愛感情はねえけど、前の俺は……その」
これをはっきりとオロクに知らせるのは、残酷か? でも、こんなに震えてるオロクが嫌いな相手からの好意だと勘違いするなんて許せねぇ。
「好きだったんだ、オロクのこと。人格が分離するまでは気づけなかったけど、前の俺はオロクが好きだった」
「ヴォンヴァートくん……」
「だから、嫌いな奴からの好意だと思わないでやってくれ」
オロクがぽろぽろと泣きながらこくこくと頷く。
「でも少なくとも彼の感情は前のヴォンヴァートくんに入っていたはずです」
「シーシェン、いい加減にしろ」
怒気を込めて言えば、シーシェンはわずかに口角を上げた。
「ウォーゼンも、よくあんなものの相手ができる……」
そうだウォーゼン!!
「ウォーゼンに何されてんだ! オロク!」
オロクは俺が顔を近づけたからか顔を赤く染める。オロクに表情があるせいで、やりづらい。嬉しいことだけど……。
「ウォーゼンさまは、俺と一緒に寝るのと、キスを……その」
もじもじしていたオロクがパッと口を押さえたのを見てガンッと頭を殴られたようなショックを受ける。
恋愛的なショックではねえ。でも前の俺と両想いだったことやこいつの涙を知ってる身としては複雑だ。
本当にキスされてんのかよ。お前。
「て、抵抗は?」
「ヴォンヴァートくんを忘れさせてくれるって言うから……苦しくて辛いからつい縋っちゃうんだ」
「うっ……そ、そうか、そうなのか」
オロクが俺と目を合わせるたびに泣きそうな顔をするせいで、強く責められない。そもそも責める資格もねぇんだよ俺には……。
「今のヴォンヴァートくんに縋っちゃうかも」
オロクがぎゅっと両手で俺の手を握ってくる。こう言ってるけど、結局目的は俺じゃなくて前の俺なんだよな~……。
「却下で。そのままウォーゼンに慰めてもらえ」
「でもしつこくて」
「お前しつこいの好きだっただろ」
「ヴォンヴァートくんだからだよ」
「頑張って忘れろ」
つんと額をつつくとオロクはしぶしぶ俺の手を離す。
「そろそろ戻りましょう。君の出番が近いので」
シーシェンが俺の手を取ってさっさと歩いていく。分かりやすくシロくんとオロクから離そうとしてるな。
「シーシェン、アルマタクト実験の成功体ってどんな奴?」
「……あまり話したくはないけど、私が君を連れて逃げた理由ですよ」
シーシェンが俺の手をぎゅっと強く握りしめる。あのシーシェンが逃げ出したくなる相手ってことか? シーシェンから緊張感が伝わってきてごくりと喉を鳴らす。
「あの子に関わらなければ大丈夫です」
「でも……」
「ウォーゼンを応援しましょう。それとも、あの子がまだ好きなんですか?」
「そう言うわけじゃねぇけど……」
「君が分離していなかったら失恋していたと思うとゾッとします」
「……お前案外俺のこと好きなんだな」
「はい?」
シーシェンは少し不機嫌だ。俺がオロクを好きだったって知って怒ってるのかもしれねぇ。
オロクのためにも俺と姫野恋とは距離を置くしかねぇな。
って思ってたのに、試合に圧勝してから、誰もいないだろう保健室で眠っちまおうと思って来てみれば——……
「ヴォンヴァートくん」
俺と同じ考えだったらしい姫野恋が眠っているベッドにオロクは乗り上げて姫野恋にキスをしようとしている。
——うあああああああっ!! オロクのアホおおおおおッ!!
オロクの首根っこを掴んでそのまま保健室から出てトイレへ連れ込む。
「お、お前! ヴォンヴァートのことを忘れる努力をしろよ!」
「ヴォンヴァートくん……」
うるっと涙目になるオロクにうっと声が漏れる。
「せ、せめて俺にしとけ、あいつは絶対チヨ先生しか見えてねえ!」
「そんなことない、優しくしてくれた」
「どう優しくされたんだよ」
「頭撫でてくれた、俺が泣いてたら、隣にいてくれた。ヴォンヴァートくんと一緒にいた時みたいだった」
「あいつをヴォンヴァートの代わりにするんじゃねぇよ!」
しゅん、とオロクが縮こまる。うっ……泣かないでくれ頼むから。
「あ、あのな、別に他の恋をするなって言ってるわけじゃねぇんだ、ただ、ヴォンヴァートを探しながら誰かを好きになるのはどうかと……」
「…………」
オロクがきゅっと唇を締める。
「じゃあ、ウォーゼン様にお願いすればいい?」
「…………そ、それは、すごくいやだけど」
「どうして?」
「お、お前とウォーゼンがそんなことしてただけでも驚きなのにその先を想像しろってのか!」
「勝手に変な想像しないでくれない?」
「お前ええ!」
「ヴォンヴァートくんだって誰かと恋人になったとしても想像されるのはいやだろ?」
「いやまあ、それはそうなんだが……」
あいつと恋人になる気はあるのかお前! これはつっこんでいいのか? やりにきぃ!
「ウォーゼンさま、優しいよ? ヴォンヴァートくんと重ねてないし」
「分かってるけど……」
「もしかして、俺のこと好きなの?」
「へ」
なんでそうなるんだよ! ちげぇ!
「ち、ちが——」
「ごめんね、俺が好きなのは前のヴォンヴァートくんだから」
「——…………」
散々俺たちに重ねといてそう言うこと言うのかッ!! こいつほんとムカつく、前の時と変わらねぇ腹立たしさ!
「も、もういい! 勝手にしろ!」
前の俺が惨めだからって、こいつのことを俺が世話する必要はねぇ!
「ありがとう、ヴォンヴァートくん」
「…………」
そ、そう言うところだぞ。
前のお前だったら無表情か、感情のない笑みを向けて来たシーンだな。なのに今のお前は、俺に本当に感謝してるって分かるし、まだ悲しんでるってことも分かる。
ドキッとするくらいには、かわいいかもしれねぇ。
「またなオロク」
オロクが嬉しそうに笑うと俺も口角が上がる。
少しくらいは構ってやってもいいかもしれねぇ。友達としてくらいなら、いいよな?
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