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第一章
9話③ 過ち
しおりを挟む「ま、待って、リリア!」
腕を引いて校庭へ向かっていたら、ぐっとアインに引っ張られる。
「どうしたんだよ、急がないとシロくんと姫野恋が危ねぇ!」
「お、大事にしたくないんだ、兄ちゃんは一人できてる、もし捕まったら——」
「アイン! アラカ兄さんは闇魔術組織なんだ、そんなこと心配してる場合じゃねえ! キリクゥもあの人も放って置けないだろ!」
「あの様子だと大丈夫だ! だから、もう一度戻って俺たちが説得する」
はあ? どう大丈夫だなんて判断してるんだ、アラカの恨み言を聞いてなかったのか? 絶対説得できねぇよ! 姫野恋がキレてた気持ちが分かる。
「アイン、俺はお前がいい奴だって思ってた。ウザイドくんもウザかったけど、悪い奴ではないってことは分かってたつもりだ。だけど! アラカの話をきちんと受け止めろ! お前たちが妹さんにしてきたことは最低なことだぞ!」
「…………っ、そうだ、俺たちは否定するんじゃなくて、アラカ兄さんにもアルアにも謝るべきだった」
「ザイド! お前の責任じゃない! 全部闇魔術組織が悪いんだ、お前は俺を守ってくれただろ!」
「アルアは守れなかった」
「——それに、闇魔術組織が悪いのはウザイドくんとアルアさんの右腕や手足を奪ったことで、お前たちのアルアさんへのその後の対応はお前たちが悪い!」
はっきりそう言ってやると、アインはぎゅっと目を瞑って言う。
「俺だってアルアを心配してたさ! 毎日アルアの部屋に行って、アルアがやりたいことに付き合ってあげた! あの子が望むことはしてあげた、あの子は俺の前ではいつも笑顔だった……! アルアが傷付いていたなら、俺のせいだ! ザイドは何も悪くない!」
「アイン……俺が悪いんだ。いつも会いにいくとアルアは俺と話してくれなかった」
「ザイドは悪くない! アルアはザイドに悩んで欲しくなかっただけだ!」
「前の俺だったらすっかり騙されてたぜアイン。何もかも結局全部ウザイドくんのためじゃねぇか。アルアさんがウザイドくんを責めないように彼女の世話を焼いてただけだろ? お前の頭の中はウザイドくんのことしか考えられねぇ」
「そんなことない! 勝手に俺を評価するな!」
「なら——ウザイドくんが悪かったと認めてみろよッ!! お前だけが悪い? お前たちが悪いんだろうが! ウザイドくんをこうしたのはお前だ!! 話さなくても大丈夫、アルアさんは怒ってない、悲しんでない、助けてくれたことに感謝してる、罪悪感を感じなくても大丈夫、謝らなくていい——そう言ってウザイドくんがアルアさんを想う機会や、謝罪する機会を奪ってきたんじゃねぇのか!」
アインがぐっと顔を歪める。俺を責めるような目付きから涙を浮かべてウザイドくんへ助けを求めて視線を向ける。
「アイン、もういいんだ。お前を助けたから俺の右腕を失った、だからお前が俺を責めたくないのは分かる。でも、俺がそもそもアルマタクトに近づかなければ、闇魔術組織に遭遇することもなかった。お前を助けられてもアルアを守れなかった、お前に大丈夫だって言われて、引いてしまうくらいには俺も弱虫だった。アルアに責められるのが怖かった、前のようには戻れないと思うと、アルアのことを考えることを放棄した。お前は俺がアルアと会うと、苦しんでると思って遠ざけたんだろ?」
「ウザイドくん……」
「リリア、俺はザイドが一番だ! アルアも兄ちゃんも大事だけど、ザイドが一番大事なんだ! それの何がいけないんだ……家族より友達を優先するのがそんなにいけないことなのか!? 俺は……アルアのことも兄ちゃんのことも本当に本当に大切なんだ……っ!」
「二人が追い詰められてたことには気付かなかったのか?」
「気付かなかった……だって二人ともいつも笑ってた。楽しそうに! 俺のこと抱きしめてくれたんだ! 大好きだって……! なのに、なのに……本当は俺を、殺したいほど恨んでたなんて……っ」
アインは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「ザイドも俺も悪い……! 俺たちがアルアと兄ちゃんを追い詰めたんだぁぁ……っ!!」
膝をついてわんわん泣き出したアインに手を差し伸べる。ウザイドくんもアインへ手を差し伸べた、心配してる顔だ、相変わらずアインに甘いな。
「アインとウザイドくんはアラカを説得してくれ。俺が応援を呼んできてやる!」
「で、でも……兄ちゃんが捕まったらいやだ!」
「大丈夫だ、俺もシーシェンも、他にも闇魔術組織にいた連中がこの学園にはいる。珍しいことじゃねぇって3年のゼンエって人が言ってた。だから、アラカが闇魔術組織にずっといるより、学園に捕まってた方が改心するかもしれねぇ! また、4人で笑い合える日が来る!」
「そうなのかな……俺、俺たち……許してもらえるかな」
「アイン、ウザイドくん、アラカは二人の命を狙ってる。説得するにしても隙を見せたらダメだ」
アインとウザイドくんはこくりと頷く。二人に「すぐ呼ぶから無理はしないでくれ」と伝えながら別れて、俺は校庭に向かって走り出す。目指すは医療テントだ。
「——シーシェン! シーシェン……!」
医療テントにいた生徒が心配顔で見てきたけど、白いパーテーションの奥からシーシェンが現れる。
「ヴォンヴァートくん? どうかしたんですか?」
「頼む、来てくれっ! 向かいながら説明する!」
手を取って走り出すと、後方から先生たちの心配声が投げ掛けられる。シーシェンは「私一人で大丈夫です」と彼らに声をかけて俺の手に引かれるまま走ってくれた。
「シーシェン、闇魔術組織は魔法の義手や義足を作ってるって知ってたか?」
「ええ、もちろん。戦闘員が怪我した際の魔法具や、戦闘用の魔法具を作る部署があった」
「シーシェンはそれ作れねぇか!? それか、闇魔術組織の魔法で奪われた手足を治すとかできねぇか? お前、一応保健医だろ!?」
俺がシーシェンの顔を見上げると、シーシェンはにこっと微笑んだ。シーシェンの笑みを見ると焦っている気持ちが落ち着いてくる、シーシェンの手を握ってると思うと安心する。
「義手や義足を作ることもできるし、治すこともできます」
「……っ! 本当か!?」
「うん。学園の研究室では人を救うための医療魔法も研究されているから、実績もたくさんある。必要なら資料を揃えますが……」
「今はいい! アラカを止めてくれ!」
「アラカ? 彼が戻ってきたんですか?」
走りながら起きたことを説明していたら、中庭にたどり着く。シロくんと姫野恋、ウザイドくんもアインも、アラカと交戦中だった。アラカが火の魔法で四人を圧倒している。シーシェン曰く手に持った短剣のような形の魔法具で魔力を増強させているらしい。
「あれは魔法陣の代わりを務めている魔法具が放つ魔法です——アラカ自身の作った魔法ではないから君の魔法無力化は効かない、私の後ろに」
シーシェンに腕を引かれて後ろに立たされる。
「掴まっていなさい」
シーシェンが前方に掌を突き出すと強風が吹き荒れる——魔法陣が壁のように敷き詰められて発動される。みんなシーシェンの魔力で起こった風に吹っ飛ばされて、木や壁に手をついている。シーシェンは強風を物ともしないで、アラカへ魔法を発動した。魔法陣が眩い光を放ち、草の蔓や氷の鎖、闇の縄や光の槍がアラカを拘束する。水の塊がアラカの周りに現れて、動きも抑えたように見えた——しかしアラカの指輪は七色の輝きを放ち、全ての魔法を消し去る。弾け飛ぶ魔法の散りは幻想的な景色を作っていた。アラカの怒りに満ちた顔が恐ろしくて、シーシェンの背中にしがみつく。
シーシェンの手が空へ伸ばされる。巨大な金色の魔法陣が空に展開されて、四方から鎖が放たれアラカをぐるぐる巻きに拘束する。まるで天から罰が下されてるみてぇだ……。アラカの遥か頭上に厳かな両扉が現れ重たい音を立てながらゆっくりと開く。中から大きな柱が現れて地面に到達すると、アラカは磔にされた。気を失うように眠るアラカを見て、シーシェンは魔力を弱める。風が止み、シーシェンの背中にひっついていた俺に彼が振り向く。
「終わりましたよ。まだこうしていたいけど」
「うっ……」
キモイこと言うな! パッと離れると名残惜しそうな視線を背中に感じた。
「みんな、大丈夫か!?」
「おう、シーシェン呼んだのか。ふ~ん?」
ニヤニヤすんな姫野恋! 他意はねぇ!
「僕は大丈夫だよ、ヴォンヴァートくん」
「俺も大丈夫だリリア。でも、兄ちゃんの説得はできなかった」
「シーシェン先生、アラカ兄さんが捕まっても会えますか?」
「面会はできるはずです。私も捕まっていたことがありましたから」
ウザイドくんは複雑そうに眉間に皺を寄せる。アインは困り果てた顔をしている。シロくんが俺の隣に並んでくっついてくる。なんで?
「シーシェン先生、あの魔法は一体?」
「あれは光魔法だ。魔力量が違う君にはできないですよ」
にこっとシーシェンがシロくんへ爽やかに微笑む。シロくんはふい、と顔を背けて、無視することでシーシェンへ意趣返しする。シーシェンの表情に変化はない。シロくんは、さらに、ぎゅうっと俺を後ろから抱きしめて頬擦りしてくる。シーシェンの微笑みに青筋がプラスされた。
「アラカを更生施設に連れて行ってきます。また後でヴォンヴァートくん」
シーシェンがアラカを拘束していた魔法を解くと、アラカは地面に倒れ込む。シーシェンは俺のそばにやってきて、ゆっくり顔を近づけてきたと思ったらちゅっと額にキスをする。はあっ!? バッと両手で押さえたら、至近距離で囁かれる。
「ご褒美待ってますから」
ご褒美なんて用意しねぇ……って言いたいとこだけど助けられたから、何かはしてあげた方がいいよな? 肩揉みとか?
一応頷くと、シーシェンは心底嬉しそうに微笑んだ。
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