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第一章
2話 ⑥兎シロくん
しおりを挟む「アイちゃん。ごめん、ちょっと目え瞑ってて」
「え?」
アインから離れ、せんやとルシフェルをべりっとはがし、間に入り込む。
「お前……何なんだよ! 邪魔すんじゃ……ねえ?」
変な間があったが、そんなことに気を止める暇もなく、無意識にルシフェルの顔面を殴っていた。鼻から血が噴き出し、地面に倒れる。
「せんや、無事か?」
「え?」
ぽかんと顔を上げるせんやを見て、血が上っていたらしい頭が徐々に冷えだす。
「え……お前嫌がってたんじゃなかったの?」
「確かにちょっと嫌だったけど。それでどうして君が俺を助けるの?」
「え……だって嫌そうにしてたし……」
「もしかして……」
ん?
せんやはにやりと笑って俺の胸に人指し指を立ててくる。
「俺のこと、好き?」
イラッ。
っとして、せんやの首を片腕で引っ掴んで、こめかみをぐりぐりしてやった。
「それよりはやく教室戻ろうぜ」
「ヴォ、ヴォンヴァートくん……」
アインは一部始終を見てしまっていたらしい、目え瞑っててって言ったのに。
アインに近づこうとすると、気まずそうにせんやが言った。
「いや、ルシフェル……くん放っておけないし、俺が保健室運んでいくよ」
「そうか。あーあ。来世ポイントまた減ったかも……ん? 待てよ」
「何ブツブツ呟いてるんだよ」
「お前こんなことがあったのにソイツと二人きりになるのか? 俺が運んでやるよ」
「え?」
よいこらせと肩に担いで、「んじゃそう言うことで。あ、アイちゃんに手ぇ出したら殴るから」と言ってから、マップを開き保健室へと向かった。
これで善行になるだろ。来世ポイント減っちまってるかもしれねえけど、これでチャラになる!
ふんふん~♪ と鼻歌を歌って保健室に運び届ける。しかし先生の姿がなく、きょろきょろとあたりを見渡していれば、机の上に体調不良の生徒がいるらしくそれに付き添っていると書かれていた。
机の上にはその他にチョコレートが置かれている。そう言えば寮にガトーショコラ忘れてきたな。昼休み取りに行くか。
ルシフェルをベッドに寝かせ、ティッシュを鼻に詰め込んでおいた。血だらけの口元を拭っていると、相手の目が覚める。
「……俺、なんで先生のこと」
「え?」
「悪かった。嫉妬してたんだ。先生も泣かしちまったし……俺何してんだろ。先生にキスなんて……俺、先生のこと好きって思ってたけど、今気が付いたらそうでもねえなって……」
こいつも魔法解けちゃったのかぁぁぁぁ。ごめんせんや。いや、襲われたんだし許してくれるよな?
「って言うかここどこ?」
「保健室」
「お前が運んでくれたのか?」
「だって俺が殴ったし……悪かったな。頭に血が上って」
「お前って先生のこと好きなの?」
だからどうしてそうなる。
「ちげえよ。昔からの知り合いで……気になってるだけだ」
「へえ」
………………………………………………。
………………………………。
…………沈黙が痛い。
「あ、そうだ。回復したら昼休み一緒に食堂行こうぜ。みんなにガトーショコラ配るから手伝え」
「え、なんで俺が……」
「不良は蹴散らしたし、今回は俺が殴ったし、だいたい俺が悪いみたいになってるから今回のことは気にするなよ」
「でもそれじゃあお前が悪役みたいになるだろ」
「いいんだよ、慣れてっから」
そう言うと、ルシフェルは複雑そうな表情を浮かべながらも呟いた。
「…………ありがとな」
保健室の先生が戻って来て、俺は教室へ帰る。慌てていたので保健室の先生の顔は見なかった。
そう言えばチョコレートが机に置いてあったんだよな、世話になったし後で俺も余った分持ってこよ。
教室に帰る途中、プロフィールを確認していると、アインの好感度が8%に上がっていた。……何で上がったんだ?
でもこれ以上恋愛は増えなくていい。親密度だけ上げていくにはどうしたらいいんだろうか。
あれ?
ルシフェル・ギーヴェン
誕生日5/12 年齢16歳 趣味ギター 魔法氷魔法 寮???
親密度 12%
好感度 5%
こいつ親密度も好感度もゼロじゃなかったか? 好感度上がってる! 親密度上がる分には嬉しいけど、好感度上がるのはやめて欲しいな。
教室に着くと、せんやもアインもちゃんと教室にいて、俺はアインの隣の席に座った。
座った瞬間、前の席のコゴが光の速度で振り返ってくる。
「保健室に男と二人きりって頭浮いてんの?」
「はあ? て言うか今授業中だろ。前見ろ」
「叩いてくれたら前見るよ」
「……………………」
ぺしっと優しく叩くと「それじゃない~」と文句を言われる。いいから前を向け、と足を蹴ると諦めてくれた。
◇◇◇
ガトーショコラはせんや大好き勢には踏み潰されてしまったが、好感度15%以上勢に踏み潰したそれを食わせられると言う報復を受けていた。せんやも受け取ってくれたが、「ガトーショコラって……わざわざ被らせてくる?」と不機嫌そうであった。
チョコを配っていて気づいたことがあるのだが、Aクラスの生徒は12人だ。ルシフェル、コゴ、ジュレア、サイフェン、ザイド、俺、アインで7人となると残りは5人。せんやの魔法にかかっている人数は7人。名前を上げた奴らはせんやの魔法に掛かってないみたいだし、あと2人は別のクラスのやつなんだろうか?
初めて来た校舎の食堂でクラスの奴らにだけ配っていると、好感度15%以上勢が自慢したからか、他のクラスにも渡ったらしい。余りも完売しつつある。自分も昼ご飯を食べ終えて、好感度15%以上勢の自慢会を邪魔しないであげつつ、後2つ余ったチョコをどうしようかと考えていたら、外のベンチに一人寂しく座っている生徒を発見した。
その姿に目を見張る。
長くフワフワの白い髪、赤い瞳……。……まるで。
小さい頃飼ってた兎にそっくり!
「何してんだ、そんなとこで一人で」
一人寂しそうにしているその姿に、兎シロくんを重ねて思わず声を掛けてしまった。
「人を待ってるんだよ」
「そっか」
隣に腰かけると、ぴくりと相手の片眉が動く。
「はい。これ」
「チョコ?」
こてんと首を傾げる様もそっくりだ! って言うか美形だな~シロくんを擬人化したらこんな感じになるのかな……。
黒と赤の制服……ってことはSSクラスの生徒か。
「僕にチョコレートを渡すなんて……君は……」
「俺はヴォンヴァート・インシュベルンだ。お前は?」
「君がザイド・スタークを押さえつけたって言う……」
もう噂になってるのか。有名な不良は大変だな。
「チョコレートはいらないよ」
「余り物だから貰っとけって。友達も来るって言ってたな。もう一個やる」
「……あまりもの」
「それより名前は?」
「今は名乗る気になれなくてね」
「じゃあシロくんで」
「え」
「またなシロくん!」
ベンチを立ち、頭を撫でてから、手を振って去っていく。なぜそんなにもそそくさと去ろうとしているのかと言うと……自分を探す好感度15%以上勢の声が近づいてきたからである。面倒ごとが起こる前に帰ろう。
◇◇◇
「待った?」
「いいや。暇つぶしの相手をしてくれた子がいてね。はい」
「これは? ガトーショコラ?」
「その子がくれたんだ」
「貴方が受け取るなんて珍しい……」
「余り物らしいよ」
「貴方に余り物を渡した? なかなか図太い神経してるね」
僕はこの魔法学園に満点合格した一人だ。試験を満点合格した生徒は三人。僕と、目の前にいる僕の親友 《オロク・セン・デン・ポル》。そして面接官に殴り掛かってAクラスに落ちた理事長の息子 《ザイド・スターク》。
この三人が現在学園で一二を争う実力者達だ。中でも僕はみんなに距離を保たれてる自覚があった。
チョコレートも受け取らないと知っているのか中等部の頃から渡されたことはない。直接渡してくる相手がいないと言うだけで、こっそり机の上やロッカーに置いて行かれたこともあるが、すべてオロクにあげている。
本命なら渡されたことはあったけど……。そう思いながら、余り物だと言うガトーショコラを口に含んでみる。
オロクが珍しくぎょっとした顔を見せる。
「おいしい……」
こんなおいしい菓子は初めて食べたかもしれない。甘いものは苦手だったけどこれなら……毎日食べてもいい。
オロクの手元にあるガトーショコラを眺めていたら、オロクは口を大きく開けて……
「確かにおいしいね」
オロクはぺろりとたいらげる。
意地悪な奴だ。
「Aクラスの担任の名前……なんて言ったっけ」
「チヨ・アキヅキ先生のこと?」
オロクの表情が珍しく柔らかくなる。
「……君も魅了の魔法に掛かっているみたいだね」
手をかざし、魔法陣を出現させる。魅了解除の魔法を発動させれば、相手は目をぱちくりとさせる。
「僕はチヨ先生のガトーショコラを君に渡したから、分かんないや。どっちがおいしかった?」
「さっきのガトーショコラかな。…………あーあ。あれが恋と言うものなんだね。せっかくの気持ちが台無しだよ」
「あのままで良かったならもう一度キスされてきたら?」
「君にもキスしたのかい? そっちの方が図太いかな?」
「いいや……あの子は僕のことをシロくんと呼んで頭まで撫でていったよ」
「……へえ」
あの急に距離を縮めてきた……ヴォンヴァートくんだったかな。あの子に「またな」と言われてしまったし、次に会える日を楽しみに待っておこう。
「そろそろ行こう、キリクゥ」
「そうだねオロク」
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