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第一章
3話 ③おこだよ
しおりを挟む「ヴォンヴァートくん、君は魅力的な子だね」
「あ、あの、あの、それ以上近づかないでくんない?」
ベンチの端まで追い詰められ、どんどん距離が縮まっていく。背中に手が回され、徐々に目の前の赤い瞳が白い睫毛に隠されていく。
ひいいいいいいいいい。
鼻先が触れ合い、吐息が唇に掛けられた時だった。
「遅れてごめんね。邪魔しちゃった?」
ベンチの前から声が聞こえてきて、目の前の瞳が開かれる。あと数センチに迫っていた口が顔とともに遠ざかっていく。
「…………オロク」
不機嫌そうな目がオロクと呼ばれた男子生徒に向けられた。
こいつがオロク・セン・デン・ポル……。
「邪魔すぎるよ……」
「――邪魔してくれてありがとうございました」
「あはは、ヴォンヴァートくんってからかいがいがある子だよね」
からかわれてただけかよ! 本気でキスされるかと思った。ああ、思い出しただけでぞわぞわする。
「そろそろHRも終わって一時間目の授業が始まるかもね」
「HRが終わってから来たんだよ」
オロクはにこやかに言うが、本気で笑ってる気もしないし、かと言って怒っているわけでもない気がして、なんか不思議な感覚だ。
「ヴォンヴァートくん、この子はオロク。僕の親友、中等部の頃からの付き合いだ」
「はあ」
「オロク、この子がこの間話したヴォンヴァートくんだ」
「よろしく、ヴォンヴァートくん」
「お、おお、よろしく!」
手を差し出され、握り返す。
「体調はどう?」
キリクゥが目をまっすぐ見つめてきてそう尋ねてくる。
「大丈夫」
そう答えたら、キリクゥの顔が近づいてきて、耳元に唇が寄せられた。
「君が吸血鬼ってことは秘密、約束だよ。血が必要になったら僕を頼って」
「……ありがとな」
すぐそばにあった耳にそう告げれば、ちゅっと耳元で音が鳴った。バッと距離を取り、濡れた感触のする耳を押さえる。
キリクゥはにこにこしてご機嫌そうだ。
「キリクゥはヴォンヴァートくんのことが好きなの?」
「うん」
「ひっ」
「可愛いよね」
「そうだね」
そこで「そうだね」とにこやかに返すのもどうかと思う。はっきり変だと言ってやれ。
「じゃあね、ヴォンヴァートくん、また会おう」
「いや、もう勘弁」
「約束、忘れないでね」
「マタナ……」
笑顔の圧に負けてしまった。
去り際にオロクと目が合い、にこりと笑いかけられる。軽く頭を下げて返した。
なんか、底が知れないやつだな、オロクってやつ。どんなやつか今度せんやに聞いてみようかな。
◇◇◇
「レンの瞳は綺麗な色だよね」
「あの~……なんでまた俺は呼び出されているんでしょうか」
昼休み。授業はだるくて眠っていたが、今後あるだろう筆記試験に関してはトップな筈。なんて言ったってクイズや試験で答えがわかる設定があるからな!
「レンの髪も綺麗だよね」
「トイレハイターの容器の色が?」
「やめろ乙女ゲームのキャラなんだぞ!!」
「でも見た目変わってるんだろ?」
「髪色と髪型は変わってないよ」
「ふうん」
「それよりレン、頼みがあるんだけど」
「頼み? もう変なことはやらないぞ」
もう絶対服従もしない。そう告げれば、「えー」と目の笑っていない笑顔で言われた。不良グループ大勢に囲まれても怯まなかったんだ、負けないぞそんな圧には。
「攻略キャラ達の魔法解いてくれないかな? 君に近づきた……もう相手したくないのに、正直邪魔――絡んでくるから」
「まあいいけど」
「よろしくね」
せんやの顔が近づいてきて、頬にむちゅっとキスをされる。その柔らかさがリアルでぞっとした。
バッとせんやから距離を取り、さっさと生徒指導室を出て逃げ帰った。
「また呼び出し喰らってたのか?」
「ルッシー!」
「うお」
教室に帰ってくると、派手なオレンジの髪が目に入る。今のところ好意を持たれていない友達である。安心する~。
抱き着いて癒されていると、不穏な空気が背後から溢れ出した。
「ちょっとちょっと。ルシフェルくん、あんまりリリアちゃんとべたべたしないでよね」
「いや、今のはこいつから……」
サイフェンがルッシーの肩を掴む。
「――いいから離れろよ、な?」
「はひ……」
ああ、俺の癒しの時間が。こうなったら。
「アイちゃあ~ん」
「コラクソ師匠! 甘えるなら俺にしろ!」
アインの席へ向かおうとしたらジュレアが立ちはだかってきた。頭を鷲掴みにし、ポイッと投げる。
しかしアインの元へ辿り着く前に、黒髪、褐色の肌の男子生徒が立ちはだかる。ザイド・スタークである。
アインはそれを見て目を輝かせている。
「邪魔」
「アインに絡むな」
「仲良くなりたいのにお前に許可が必要なのかよ」
「ああそうだよ」
苛立っているのか、声を荒げて言う。なんだなんだとクラスメイトにも見られているし。
もうこいつ殴っていい?
右拳を胸の前に出すと、相手が構えた。
それを見て、久しぶりにやりがいのある喧嘩が来たと、高揚しながら殴り掛かろうとした時だった。
「――ま、待って!!」
「――!?」
ザイドの顔に向けてはなっていた拳は、その間にアインが現れて、動きを止める。高揚感が急激に下がっていく。
「……………………」
「喧嘩なんかしないでよ、ヴォンヴァートくん」
「…………」
ザイドの前に立つアインの目は燃えている。
「アイン、余計なことすんじゃねえ」
「でも、喧嘩なん――」
「喧嘩の何がいけねえんだ?」
「――え」
止めていた右拳を、もう一度振りかざす――ザイドがハッとして、アインの腕を引っ張って後ろに隠す。
右拳はザイドの左頬に入った。
「ザイド……!!」
気を失ったらしいザイドを見てか、周りからごくりとつばを飲む音が聞こえてくる。
「ヴォ、ヴォンヴァートくん、どうして……!」
キッと睨み付けてくるアインを一瞥し、踵を返す。
「リリアくん、アインくんのこと殴ろうとした? 好きだったんじゃなかったの?」
サイフェンが駆け寄って来てそう言う。
「誰がいつ好きだって言った?」
「でも、アインくんに自分が好きかどうか聞いてたし……」
「だからって、俺は好きとは言ってねえ」
サイフェンがアインを見るので、ちらりと顔を見てみれば、ショックを受けたような顔をしていた。
「どこ行くの!? これから授業だよ!?」
「サボんだよ」
通路に出て、行ったことのなかった校舎の向こう側へ向かうと、校庭が見えてきた。校庭ではSSクラスが実技の試験をしているようだった。そこから目を逸らし、さらに奥へと進もうとしていると……。
「あ、危ない――っ!!」
そんな声が聞こえて、もう一度校庭の方を見れば、ゴウゴウと音を立てて、猛スピードで巨大な火の玉がこちらに向かってきている。俺に魔法は聞かないからと無視して前を向く。
巨大な炎は一瞬にして消し飛び、俺はその奥の職員棟へ入っていった。
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