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第一章
4話 ②チョコレート
しおりを挟む「ど、どう言うことだ! お前魔法学園の敵だろ……!?」
「うん、君が中等部に通っていることには独房に入っていましたよ。だけど出所してからは研究室の手が足りないからって研究室で働いているうちに信頼してもらえたみたい。一年前くらいに高等部の保健室の先生が急にやめちゃいましてね。もともと私は免許も持っていたから保健室の先生にもなってくれって頼まれて、今こうなっているわけです」
「な、なるほど……」
中等部の頃は独房と研究室と高等部の保健室にいたから会えなかったんだな。どんだけ移動してんの!?
「って言うか近い。はやく退いてくれ」
「昔のようにお兄ちゃんと呼んでくれたら退きますよ」
間近にある紫色の美しい瞳に目を奪われる。
オロクの時は怖かったけど、こっちはずっと見ていたいと思うほど魅了される。
って言うかあれ? ゲームでは、確かに保健室の先生が元闇魔術組織の先生だったし、シーシェン・シェンランで間違いなかったけど、ヴォンヴァートと接点なんてあったか……? そう言えば話してるとこ見てないな。吸血鬼設定付け足したから接点ができたとか?
「改変に頭が追い付かん」
「何の話?」
「いいからさっさと退け」
「うわあ。怖い」
シーシェンが上から退いて、本題に入る。
「最近日差しがきつくて、なんか薬ない?」
「薬なら研究室から出ているはずでは?」
「……めんどくさくて取りに行ってない」
「めんどくさいって。昔はそんなこと言う子じゃなかったのに。仕方がないね……取り寄せるので、放課後来てください」
「ありがとな、後喉乾いてるんだけど……」
「…………」
黙って手首を差し出される。
肌白……。
「なに?」
「ここから飲んでください。首は嫌だから」
「そっか。首じゃなくてもいいのか」
シロくんに悪いことしたな。今度から手首からもらうことにしよう。
飲みづらいから跪いて、手首に口を付けて噛もうとした時だった。上から感じる視線に、妙な緊張感を覚える。なんか……吸ってるところ見られてるの嫌だな。
「あっち向いてろ」
「どうして? 恥ずかしいんですか? 気にしないで」
気になるからあっち向けって言ってんだよ!
緊張しながら手首に歯を立てて血を飲む。飲みながらシーシェンの顔を見れば、にこりと微笑まれた。
口を離すと、シーフェンは血がにじむ自分の手首を眺める。
「………………」
「…………」
「……ありがとうございますは?」
「あ、ありがとうございます……」
「よろしい」
見られるのは思ったより緊張して飲むのに集中できなかった。やっぱりシロくんには首から貰おう。
「吸血衝動を抑える薬も送るよう頼んでおきます」
「あの……」
「何ですか?」
「ご飯が食べられるようになる薬とかないの?」
「ご飯ね……どうだろう……」
ご飯と言うか、そろそろ好物のももまんじゅうが食べってえんだよな。桃の形をしたごまあんこの……この世界にあるんだろうか。サイフェンかせんやに作ってもらおうかなぁ……うん、せんやはやめとこう、変な薬とか入れてきそうだしな。いや待てよ、サイフェンも入れない保証がねえな。
「ももまんじゅう……」
「…………。ありますよ。食べる方法なら」
「本当か⁉︎」
「うん、たぶん。何か食べ物ありません?」
「チョコならある。お前に渡そうと思って」
「私に? バレンタインにチョコをくれるなんて、私が好きなんですか?」
「いや……お礼のつもりで」
「そうか……」
コートのポケットからチョコレートを取り出し、シーシェンに渡す。するとシーシェンは包装を剥がしてからパキッと一かけらだけ割って口に含んだ。お前が食べるんかい。
そう思ったのもつかの間、口を開けてチョコを取り出す。指でつまんだ銀の糸を引くそれを俺の口元へ近づけてきた。
「はい。どうぞ」
「え」
「どうぞ」
「いやいやいや」
それをどうしろと!? 考えただけでめっちゃ悪寒がしたんですけど。
「君は私をベースに作った人造人間ですから、私の魔力が含まれたものを食べれば味を感じられるはずです」
「別の方法で魔力を注ぐとか……」
「そんな方法ありません」
「……………………本当に食べて味するの?」
「分かりません。実験だから」
「んなもん食えるか!!」
「仕方ないですね」
口にチョコと人指し指を含んでから、かきまぜ。それを口から離し、ずぼっと俺の口の中に突っ込んできた。
ひっ。
「おえええええええええええええええ」
「どう? 味した?」
確かに甘かった。甘かったけども別の味までした……!
「その反応だと味がしたようですね。これからは君の食事に私の唾液を混ぜますか」
「ぜったいやだ……!」
「なぜ?」
なぜってお前!
「お前は他人の唾液を含んだ食事をとれるのか!」
「君と私は他人じゃないし……」
「じゃあ俺の唾液を含んだ食事をとれるってのか! ああ!?」
「取れますけど……?」
「はひ……?」
「取れるよ?」
さっきまで俺の口の中に入っていた指をぱくっと口に含みしゃぶりだす。
「ぎゃああああああああああああやめろおおおおおおおおおおおおおおお!!」
寒気が全身を何度も何度も駆け抜けていった。
指を離させようと飛びつくと、シーシェンはそれを避けてチョコレートを一かけら自らの口の中に放り込む。そして……なおも飛びつこうとしていた俺の腰に手を回し……。
「な……!」
顔を近づけてきて、唇を短く吸われる。
「ん、ん♡ ……って何すんだあああ」
そう言うために口を開けた瞬間だった。
相手の唇が押し付けられて、口の中にコロ……と解けて小さくなったチョコレートの欠片が入ってくる。それを追うように、ぬるりとしたものが口の中に入って来て。
もう体が凍り付いて動けない。
ただ口の中が熱くて、その熱で溶けるチョコレートが甘くて。
「……………………」
優しく撫でつけてくるようなそれが。
なぜか、気持ちよくなって来て。
「ん……んぅ♡ ――ってああああああああああああああああッ!!」
正気に戻りやっと動いた手で突き放し、距離を取る。その時に自分の口から出ていった赤いものと涎が視界に入っていたたまれなくなった。
「へ、変態、変態教師!」
「実験ですけど」
「これを実験で片づけるなぁあ……!」
涙目になって叫べば、相手はそれを眺めながら至福と言った顔で微笑む。うっ……そう言えばこいつ、俺の嫌がる顔を見るのが好きな、意地の悪いやつだった。
「まあ、また味が欲しくなったら来てください。私以外では味がしないから注意だよ」
「もう二度と味なんていらねえ!」
そう言って保健室を飛び出していく。
ああああああああああああ。また、またキスされてしまった。しかも初のべろちゅー……チョコレート味。ああああああああああああああああああああああああああああ。
熱を払うようにかぶりを振って、校舎を出て校庭へ向かう。確か次は実技の授業。また暇になるのか。あ、喧嘩してもらうの忘れてた。いや、そんな状況じゃなかったし、あの人にはしばらく会いたくねえ。薬はサイフェンに取りに行って貰うか……。いや、吸血鬼だってバレるわけにはいかねえし、俺が取りに行くしかねえのか……。
教師が生徒に手を出していいのかよ、これは報告してクビに……でもやっと会えたのにまた会えなくなるのは……。って何惜しんでんだ。
「はぁ……厄介なのが増えたな」
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