婚約破棄は誰が為の

瀬織董李

文字の大きさ
6 / 11

6

しおりを挟む
「バカな!!何故貴様から魔力を感じる!?」

 そう。先程まで……婚約破棄の宣言があるまではセレネから魔力を感じることなど無かった。何故なら彼女は『能無し』だからだ。それが今会場全ての人間に感じられる。セレネから放たれる魔力のうねりを。

「や、やめろ、黙れ!!話してはならん!!」

 何故、と問われたセレネはちらり、と国王を見た。セレネが何をしようとしているのか気付いた国王が慌てて止めようと声を張り上げたが、これで全てを終わりにするつもりのセレネは、国王の命にも構わず口を開いた。これまでつぐまねばならなかった分まで。

 国王の咎める声に騎士がセレネを拘束するために動こうとするが、セレネの魔力の威圧を受けて近づく事すら出来ないでいた。

「今から十六年前の事です。皆様御存知の通り我が国では魔力の高い者が優遇され、魔力が小さい者、無い者は蔑まれ、時には平民以下……奴隷扱いされることすらありました。そんな中、生まれた王家の第一子は……ほぼ魔力を持っておりませんでした」

「ばっ、ばかなっ!?」

 それでは昨日まで、いや……ついさっきまでこの学園で一番の魔力を誇っていたのはなんだったのか。それではまるで王太子の方が『能無し』ではないか。

「初めは妃殿下の不貞が疑われましたが、生まれた子は紫紺の髪にトパーズの瞳。王家特有の容姿をもっていらっしゃった」

 王族は皆生まれた時は紫紺の髪とトパーズ色の瞳を持って生まれる。長じて臣に下る王子は、色封じの魔法を施される為に、その者と契ったとしても生まれてくる子は紫紺と黄の色彩を持つことは絶対に無い。故に生まれた子供が紫紺の髪とトパーズの瞳であれば、王家直系である事は間違いない。

「王子の魔力を子細に調べた結果、魔力は全く無い訳ではなく、魔力を溜める器官に欠陥があることがわかりました。器官にまるで穴が空いているかのように、魔力が溜まらなかったのです。身体が作っただけ魔力は外に流れ出てしまう、ようは垂れ流しですわね。御殿医殿と魔導師団長が手を尽くしたものの、治療法も対処法も見つからなかった」

 指先に小さな炎を灯す程度ならともかく、魔法として魔力を行使するには、ある程度溜めてからでなくてはならない。このままでは、王子は魔法を使いこなす事が不可能といえた。

「そんな中、たったひとつ、もしかしたら上手くいくかもしれない方法を魔導師団長が見つけました。ただ、それは禁呪といってもいい方法でした。何故なら他人の魔力器官を結びつける事によって魔力を奪い続ける事だったからです」

 呻き声をあげ、国王が座り込む。自分が何をしたのか知られてしまったからだ。

「国王陛下にとって都合の良いことに、王太子殿下が生まれる一月ほど前に生まれたとある侯爵家の娘が、非常に豊富な魔力を有している様だと報告がありました。陛下は侯爵に契約をもちかけました。娘を確実に王太子妃、いずれは王妃になれるよう王太子の婚約者にしてやるから、娘の魔力を捧げよ、……と」

 シン、とホールが静まる。セレネの語る内容が衝撃過ぎて皆声がでないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

処理中です...