追放悪役令嬢は、絶品農業料理で辺境開拓!気づけば隣国を動かす「食の女王」になってました

緋村ルナ

文字の大きさ
9 / 18

第7章:国境を越える美食の香、賢者との出会い

しおりを挟む
「ローゼンベルク亭」の評判は、もはや辺境の一地方に留まらない、確かなものとなっていた。特に、季節を問わず高品質な野菜が手に入るという噂は、食材にこだわる他国の貴族や商人たちの間でも広く知られるようになった。その評判はついに国境を越え、隣国レガリア帝国にまで届く。

 レガリア帝国は、アストライア王国とは歴史的に複雑な関係を持つ大国だった。彼らはアストライア王国を格下と見ており、時に緊張関係が生まれることもあった。そのレガリア帝国に、弱冠30歳にして宰相を務める、ルードヴィヒ・フォン・レガリアという傑物がいた。彼は並外れた知性と冷徹な判断力を持つ切れ者として知られ、帝国の富国強兵に貢献していた。

 ある日、ルードヴィヒ宰相は、部下から上がってきた報告書に目を通していた。それは、アストライア王国の辺境にある「ローゼンベルク亭」に関するものだった。
「ほう……追放された公爵令嬢が、荒れた地でこれほどの美食を作り出している、と?そして、その土地の経済をも動かしていると?」

 ルードヴィヒは好奇心を覚えた。食は国家の根幹をなす。民を飢えさせないことこそが、国の安定と繁栄に繋がることを、彼は誰よりも理解していた。単なるグルメではない。そこには、国の未来を左右する可能性が秘められている、そう直感した。

「面白い。私が、直接視察に行くとしよう」

 彼は身分を隠し、少数の護衛と共にヴェルムント領を密かに訪れた。ローゼンベルク亭の質素ながらも清潔な佇まい、そこで働くベアトリスや村人たちの活き活きとした姿に、ルードヴィヒはまず感銘を受けた。そして、彼が注文した料理を一口食べた瞬間、その表情は一変した。

「……これは、素晴らしい」

 素材の持つ味が最大限に引き出され、それでいてこれまでの常識を覆すような斬新な組み合わせ。洗練された味付けは、帝都の最高級レストランと比べても遜色ない。いや、それ以上の感動がそこにはあった。ルードヴィヒはベアトリスの料理だけでなく、彼女の経営手腕、そして未来を見据える視野に感銘を受けた。彼女が単なる料理人や農家ではないことを、彼は見抜いたのだ。

 食事が終わると、ルードヴィヒはベアトリスに名乗らず、一介の旅人を装って声をかけた。
「失礼、そちらの料理の数々は、一体どのようにして生み出されたのですか?そして、これほどの素晴らしい食材が、なぜこの辺境で……」

 ベアトリスは、訝しげな表情を見せながらも、彼女の料理に対する情熱と、ヴェルムント領への思いを訥々と語った。前世の知識、土壌改良、品種改良、水利の整備、そして村人たちとの協力。その言葉一つ一つから、彼女の真摯な姿勢が伝わってきた。ルードヴィヒは、この女性がただ者ではないことを確信した。

 数日後、ルードヴィヒ宰相は正体を明かし、ベアトリスを正式な客人として招いた。そして、驚くべき提案をした。

「ベアトリス・フォン・ローゼンベルク殿。我々レガリア帝国は、貴女の才能と、この地の『食』の可能性に、大きな希望を見出しました。つきましては、レガリア帝国とヴェルムント領の間で、正式な貿易協定を結びたい」

 ルードヴィヒの言葉に、ベアトリスと、同席していたディートリヒ、マリエルは驚きを隠せなかった。隣国との貿易協定は、国家レベルで行われるものであり、一介の辺境の領地、ましてや追放された元貴族が関わることなど、前代未聞だったからだ。

「帝国の首都にも、ヴェルムント領の豊かな農産物や加工品を供給していただきたい。その代わり、帝国からは、貴方方が求める物資や、技術を提供いたしましょう。もちろん、王国を介さず、直接的な貿易です」

 この協定は、ヴェルムント領に計り知れない利益をもたらすだけでなく、ベアトリスの影響力を飛躍的に拡大させるものだった。王国による妨害を受けていた食材の販路も、これによって大きく広がる。

 ベアトリスは熟考の末、この提案を受け入れた。
「宰相閣下。わたくしは、このヴェルムントの地を、そしてこの地の豊かな食を守り、育てたいと願っております。その思いにご理解いただけるのであれば、喜んでお引き受けいたします」

 これにより、ヴェルムント領の農産物や加工品は、レガリア帝国市場に流通するようになり、ベアトリスの名は、一地方のレストラン経営者から、国際的な貿易に影響力を持つ存在へと昇華していった。ヴェルムントは、この協定によって、国境を越えた「美食外交」の拠点として、新たな一歩を踏み出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

【読切短編】婚約破棄された令嬢ですが、帳簿があれば辺境でも無双できます ~追い出した公爵家は、私がいないと破産するらしい~

Lihito
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、身に覚えのない罪で婚約破棄され、辺境へ追放された。 だが彼女には秘密がある。 前世は経理OL。そして今世では、物や土地の「価値」が数字で見える能力を持っていた。 公爵家の帳簿を一手に管理していたのは、実は彼女。 追い出した側は、それを知らない。 「三ヶ月で破産すると思うけど……まあ、私には関係ないわね」 荒れ果てた辺境領。誰も気づかなかった資源。無口な護衛騎士。 アイリスは数字を武器に、この土地を立て直すことを決意する。 これは、一人の令嬢が「価値」を証明する物語。 ——追い出したこと、後悔させてあげる。

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...