婚約破棄された悪役令嬢、追放先の辺境で前世の農業知識を解放!美味しいごはんで胃袋を掴んでいたら国ができた

緋村ルナ

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第5章:商人が運んできた風

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 陽だまり亭が軌道に乗り、辺境の村が活気を取り戻し始めた頃、一人の男がヴァイス辺境領を訪れた。派手な色の服に身を包み、抜け目のない瞳をした、見るからにただ者ではない雰囲気の男。彼こそ、その後の私たちの運命を大きく左右することになる、やり手商人マルコだった。
 彼は、隊商の護衛から「魔物の森の近くに、信じられないほど美味い飯を食わせる村がある」という噂を聞きつけ、半信半疑でやって来たのだという。

「やあやあ! ここが噂の陽だまり亭かい! 話は聞いているよ、とんでもない料理人がいるんだってね!」
 マルコは、開口一番そう言って、人懐っこい笑顔を私に向けた。私は彼を席に案内し、本日の定食である「鶏肉と野菜のトマト煮込み」と、自家製のパンを出す。
 マルコは一口食べるなり、目をカッと見開いた。
「こ、これは……! なんだこのトマトの濃厚な旨味と酸味は! 鶏肉は驚くほど柔らかく、野菜の甘みが完璧に調和している! 信じられん! こんな辺境で、王都の一流レストランにも匹敵する料理が食べられるとは!」
 彼はあっという間に皿を空にすると、興奮した様子で私に詰め寄った。
「お嬢さん! あんた、何者だい!? いや、そんなことはどうでもいい! この料理、そしてこの野菜! これは金になる!」
 マルコの瞳は、きらきらと金貨のように輝いていた。
 その日から、マルコは村に滞在し、私の畑や、私が試作していた野菜の加工品を熱心に見て回った。特に彼が目をつけたのは、私が作り置きしていたトマトソースと、色とりどりの野菜で作ったピクルスだった。
「すごい! こいつはすごい発明だ! 新鮮な野菜が手に入らない冬でも、この瓶詰めがあれば、あんたの店の味が再現できるじゃないか! それにこのピクルス! 酸味と甘みのバランスが絶妙で、保存も効く! これは売れる! 絶対に売れるぞ!」

 マルコは私に、一つの提案を持ちかけてきた。
「アリーシャさん、俺と組まないかい? あんたが作る作物と加工品を、俺が持つ販売網で王国中に売りさばく。利益は折半だ。いや、あんたには6割進ぜよう! どうだい、悪い話じゃないだろう?」
 それは、願ってもない申し出だった。辺境の村を、もっと豊かにできるかもしれない。私は、用心棒のカインや村長に相談した。カインは「あんたが決めればいい」とぶっきらぼうに言ったが、その目には私への信頼が宿っていた。村長は「アリーシャ様のお考えなら」と全面的に賛成してくれた。
 こうして、私とマルコのタッグが結成された。

 マルコの商才は本物だった。彼の手にかかると、「ヴァイス辺境領の奇跡の作物」と名付けられた私の野菜や加工品は、瞬く間に王国の裕福な街へと流通していった。
 特に、濃厚な味わいのトマトソースは貴族の間で大評判となり、注文が殺到した。ピクルスは、長期航海に出る船乗りたちの貴重なビタミン源として重宝された。
 莫大な利益が、ヴァイス辺境領に流れ込み始めた。貧しかった村は、急速に豊かになっていく。人々は新しい服を着て、家を修繕し、子供たちは本を読んで勉強する機会を得た。
 マルコが運んできたのは、ただの金ではなかった。それは、辺境の未来を変える、新しい希望の風だったのだ。
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