『総理になった男』

KAORUwithAI

文字の大きさ
75 / 179
第2部:壁 - 国会という名の怪物

第75話 荒れる地元演説会

しおりを挟む
国会での慌ただしい日々を終え、健人は久しぶりに故郷の駅に降り立った。
 改札を抜けると、背筋を伸ばしながらも、胸の奥はどこかざわついていた。
 ――この帰郷が歓迎されるものなのか、それとも責められるものなのか。
 その答えは、この日の演説会でわかるだろう。

 市民ホールの前にはすでに多くの人が集まっていた。
 後援会の顔なじみの年配女性や、商店街の店主たちの姿が見える一方で、腕を組んで無言で立つ中年男性や、鋭い視線を向ける若者のグループもいた。
 記者らしき人物がメモ帳を手に最前列に座り込み、空気はどこか張り詰めている。

 入口近くで、すでに不穏なささやきが聞こえてきた。
「結局あの人もパーティーに出たらしいな」
「SNSで裏切り者って言われてたぞ」
 健人の胸が少し痛んだ。
 だが、横にいた真田が静かに言った。
「今日は向き合う日です。逃げずに、話してください」
 田島は苦笑して肩を叩く。
「殴られる覚悟で行こうぜ。健人らしくな」

 開会の挨拶に立った後援会長は、いつもの穏やかな笑みを消していた。
「今日は皆さんの疑問や不安に、坂本議員本人の口から答えてもらいます」
 そう告げると、会場には低いざわめきが広がる。
 健人は一歩前に進み、マイクを握った。

 「国会での活動を報告させていただきます――」
 最初の一言を発した瞬間、後方から大きな声が飛んだ。
「報告より先に説明しろ!」
 ホールの空気が一気にざわつく。
 健人はその場に立ち尽くしたまま、すぐに言葉を切り替えた。
「ごもっともです。まず皆さんに説明をしなければなりません」

 ざわめきはまだ収まらない。
 健人は少し呼吸を整え、はっきりとした口調で語り始めた。
「政治資金パーティーに参加した件について、国会で活動を続けるための資金を集める必要がありました。私自身も迷いました。けれど、市民の声を国会に届けるための力を持つには、この仕組みを避けることはできませんでした」

 すぐに会場の後方から、鋭い声が飛ぶ。
「結局、金に頼ったってことじゃないか!」
「理想を語っていたくせに、やっぱり同じか!」
 その言葉に胸が痛む。しかし、健人は視線を逸らさなかった。
「必要なのは、皆さんの声を政治の場に届けるための手段です。権力に媚びるためではありません」

 別の男性が立ち上がり、苛立った声を上げた。
「SNSで“裏切り者”って言われてたぞ。あれはどうなんだ!」
 健人は小さくうなずき、静かに答えた。
「批判を恐れて黙ることこそ、本当の裏切りだと思います。誤解されても、批判されても、市民のために言うべきことを言い続ける。それが私の仕事です」

 場内はまだざわついていたが、健人は目を閉じて深呼吸し、マイクを握る手をさらに強くした。
「私が政治を志したのは、誰もが安心して暮らせる社会を作りたいと願ったからです。
 理想は現実に押し潰されることもあります。でも、理想を諦めたら政治は変わらない。私は、たとえ少数でも市民の声を何度でも国会に届け続けます」

 その言葉に、前列に座っていた年配の女性が小さく頷いた。
 健人はその表情に励まされ、さらに声を張る。
「批判を受けても、揺るがずに立ち続けます。皆さんの生活を守るために。権力に迎合せず、この国の政治を少しずつでも変えるために」

 次第に、最初に騒いでいた後方の一部も黙り始めた。
 会場には緊張が戻り、健人の言葉を聞こうとする静けさが広がっていく。

 「理想を掲げ続けることは、簡単ではありません。ですが、理想を諦めた瞬間、政治はただの権力争いに堕ちてしまう」
 健人は最後に、はっきりとこう言った。
「私は諦めません。市民を信じて、この道を進み続けます」

 演説が終盤に差しかかると、誰かが小さく拍手を始めた。
 その音が、ゆっくりとホール全体に広がっていく。
 最後には会場を満たすような拍手の波が起こり、健人は深々と頭を下げた。
「皆さんの声が、私の道しるべです。これからもまっすぐに耳を傾けます」

 控室に戻ると、田島が大きく肩を叩いて笑った。
「最初は荒れるかと思ったが、最後はちゃんと届いたな」
 真田もほっとしたように微笑む。
「真正面から向き合えば、きっと伝わるんです」
 健人は少しだけ疲れた笑みを浮かべ、心の中で次の決意を固めた。



“批判の声に背を向けず、まっすぐに
向き合った時、
信頼への扉は初めて開く。”
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...