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第2部:壁 - 国会という名の怪物
第91話 地方議員との連携
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そのメールを開いたのは、夜の十一時を過ぎた頃だった。
国会会館の狭い事務所には、蛍光灯の白い光だけが淡く残っていた。
机の上には未処理の資料が山積みで、健人は資料の海に沈みながらため息をついた。
「……今日も、成果なし、か」
そんな時だった。パソコンの隅に、小さな新着メールの通知が灯った。
件名には、たった一行――
「あなたの活動に共感しています」
半信半疑で開くと、そこには地方の無所属市議からのメッセージが綴られていた。
> 『坂本先生の国会での発言、拝見しました。
> 私たち地方議員も、政党に頼らず市民の声を届けようとしています。
> 一度、意見交換をさせてもらえませんか?』
健人は目を見開いた。
「……地方の議員が、俺に?」
誰からも振り向かれない日々。
“0.5%”という数字に打ちのめされていた自分に、まさか外から声が届くとは思ってもみなかった。
胸の奥に、かすかだが確かな温かさが広がっていく。
真田に見せると、彼は眼鏡の奥で小さく微笑んだ。
「いいきっかけじゃないですか。せっかくなら、他の地方議員にも声を掛けてみましょう」
「他の地方議員?」
「はい。地方は国政よりずっと“現場の温度”が高いです。そこに風穴を開けられるかもしれません」
真田の言葉に、健人は思わず頷いた。
机に残っていた冷めたコーヒーを一口飲み干し、マウスを握り直した。
「……よし、やってみよう」
数日後の夜、オンライン会議アプリの画面に十数人の顔が並んだ。
全国の市議、町議、県議――それぞれの地域で孤軍奮闘している小さな議員たち。
その誰もが政党に属さず、個人の信念だけで活動していた。
「今日はお集まりいただきありがとうございます」
健人が挨拶すると、画面の向こうで拍手が起こった。
「国会の様子を知りたくて」「地方の現実を共有したくて」
皆が口々に話し始める。
ある町議は、疲れた表情で言った。
「地方はもう限界です。人も金も足りない。国会が何をしているのか、誰も知らない」
その言葉に、健人は強く頷いた。
「だからこそ、国会と地方をつなぐ仕組みが必要なんです。
現場の声を国に届ける――それが政治の原点じゃないですか」
画面越しに沈黙が落ちる。
やがて一人の若い市議が口を開いた。
「坂本さん、あなたの言葉を聞いて、初めて“国会にも味方がいる”と思えました」
その一言が、健人の胸を強く打った。
“味方”。
その言葉を、いつ以来聞いただろう。
翌週、真田の提案で「地方連携ネットワーク」構想が立ち上がった。
名称はシンプルに――「Local Connect」。
全国の地方議員がオンラインで意見交換を行い、課題を共有し合う仕組みだ。
「予算はどうする?」と田島が言う。
「最初は無料の会議システムで十分だ」と健人が笑う。
「俺たちは金より信頼を集めるんだ」
真田は会議資料を作り、参加者リストを整え、
田島は各地の議員事務所に連絡を取り続けた。
“手作りの政治連携”。
それは誰からも注目されない、しかし確かに新しい動きだった。
週末には十数人が常時つながるネット会議が定例化し、
次第に「地方議員同士の横のつながり」が全国に広がっていった。
やがて、地方新聞がその動きを嗅ぎつけた。
《国会議員と地方議員がオンラインで連携――現場発の政治改革》
地方面の片隅に小さく掲載された記事。
だが、その一枚の記事が、SNSで静かに火をつけた。
「これこそ政治の理想だ」「国会がやらないなら、地方がやる」
――そうしたコメントが次々と投稿されていった。
「風が変わり始めてますね」と真田が言う。
「小さな風でも、いつか嵐になるさ」と健人は微笑んだ。
だが、全員が好意的だったわけではない。
ある日、国民革新党の中堅議員が廊下ですれ違いざまに笑った。
「無所属がいくら連携しても、何も変わらんよ」
健人は立ち止まり、静かに振り返る。
「小さな声が集まれば、風になります。
その風が、いつか議場を動かすと信じてます」
男は鼻で笑い、背を向けて去っていった。
しかし健人の胸の中には、確かな炎が灯っていた。
数日後、地方の町で行われる勉強会に招かれた。
テーマは「地方自治と国政の距離」。
健人は迷わず出席を決めた。
出発の朝、空港のロビーで田島が荷物を持ちながら笑った。
「支持率0.5%でも、今度は地方議員15人が味方だ。数字以上の味方だな」
「そうだな」と健人は微笑み返す。
飛行機に乗り込むと、窓の外に広がる街の灯りが見えた。
上空へ上がるにつれて、その光が小さく、しかし確かに続いているのが見える。
――誰かが、どこかで、同じ志を持っている。
それだけで十分だ。
会場は町の公民館だった。
参加者は地方議員のほか、地域のNPO代表、商店街の店主、学生まで。
壇上に立った健人は、最初にこう切り出した。
「国を動かすのは、議事堂の声じゃありません。
現場で生きる、皆さんの声です」
その瞬間、空気が変わった。
目の前の人々が、静かに、しかし真剣に頷く。
「国会議員が“現場の声”を聞くなんて初めてです」と誰かが言った。
健人は思わず笑みをこぼす。
「僕だって、国会の中では誰も話を聞いてくれません。
でも、皆さんの声なら、僕が必ず届けます」
拍手が起きた。
それは派手な歓声ではなく、温かく、真っ直ぐな拍手だった。
――ああ、ここに政治の原点がある。
健人は心の中でそう呟きながら、胸の奥に確かな灯を感じた。
帰りの飛行機の窓から、夜の街を見下ろす。
ひとつひとつの灯りが、まるで“声”のように見えた。
小さくても、消えずに続いていく光。
それが、国を支える力なのだと、健人は初めて実感した。
「国を変える風は、いつだって地方から吹く」
自分の呟きが、機内の静寂に溶けていった。
胸ポケットの中では、地方議員たちの名刺が温かく重なり合っていた。
“国を動かすのは、議事堂の声じゃない。
現場で汗を流す人たちの声だ。
その声とつながる限り、政治は生きている。”
国会会館の狭い事務所には、蛍光灯の白い光だけが淡く残っていた。
机の上には未処理の資料が山積みで、健人は資料の海に沈みながらため息をついた。
「……今日も、成果なし、か」
そんな時だった。パソコンの隅に、小さな新着メールの通知が灯った。
件名には、たった一行――
「あなたの活動に共感しています」
半信半疑で開くと、そこには地方の無所属市議からのメッセージが綴られていた。
> 『坂本先生の国会での発言、拝見しました。
> 私たち地方議員も、政党に頼らず市民の声を届けようとしています。
> 一度、意見交換をさせてもらえませんか?』
健人は目を見開いた。
「……地方の議員が、俺に?」
誰からも振り向かれない日々。
“0.5%”という数字に打ちのめされていた自分に、まさか外から声が届くとは思ってもみなかった。
胸の奥に、かすかだが確かな温かさが広がっていく。
真田に見せると、彼は眼鏡の奥で小さく微笑んだ。
「いいきっかけじゃないですか。せっかくなら、他の地方議員にも声を掛けてみましょう」
「他の地方議員?」
「はい。地方は国政よりずっと“現場の温度”が高いです。そこに風穴を開けられるかもしれません」
真田の言葉に、健人は思わず頷いた。
机に残っていた冷めたコーヒーを一口飲み干し、マウスを握り直した。
「……よし、やってみよう」
数日後の夜、オンライン会議アプリの画面に十数人の顔が並んだ。
全国の市議、町議、県議――それぞれの地域で孤軍奮闘している小さな議員たち。
その誰もが政党に属さず、個人の信念だけで活動していた。
「今日はお集まりいただきありがとうございます」
健人が挨拶すると、画面の向こうで拍手が起こった。
「国会の様子を知りたくて」「地方の現実を共有したくて」
皆が口々に話し始める。
ある町議は、疲れた表情で言った。
「地方はもう限界です。人も金も足りない。国会が何をしているのか、誰も知らない」
その言葉に、健人は強く頷いた。
「だからこそ、国会と地方をつなぐ仕組みが必要なんです。
現場の声を国に届ける――それが政治の原点じゃないですか」
画面越しに沈黙が落ちる。
やがて一人の若い市議が口を開いた。
「坂本さん、あなたの言葉を聞いて、初めて“国会にも味方がいる”と思えました」
その一言が、健人の胸を強く打った。
“味方”。
その言葉を、いつ以来聞いただろう。
翌週、真田の提案で「地方連携ネットワーク」構想が立ち上がった。
名称はシンプルに――「Local Connect」。
全国の地方議員がオンラインで意見交換を行い、課題を共有し合う仕組みだ。
「予算はどうする?」と田島が言う。
「最初は無料の会議システムで十分だ」と健人が笑う。
「俺たちは金より信頼を集めるんだ」
真田は会議資料を作り、参加者リストを整え、
田島は各地の議員事務所に連絡を取り続けた。
“手作りの政治連携”。
それは誰からも注目されない、しかし確かに新しい動きだった。
週末には十数人が常時つながるネット会議が定例化し、
次第に「地方議員同士の横のつながり」が全国に広がっていった。
やがて、地方新聞がその動きを嗅ぎつけた。
《国会議員と地方議員がオンラインで連携――現場発の政治改革》
地方面の片隅に小さく掲載された記事。
だが、その一枚の記事が、SNSで静かに火をつけた。
「これこそ政治の理想だ」「国会がやらないなら、地方がやる」
――そうしたコメントが次々と投稿されていった。
「風が変わり始めてますね」と真田が言う。
「小さな風でも、いつか嵐になるさ」と健人は微笑んだ。
だが、全員が好意的だったわけではない。
ある日、国民革新党の中堅議員が廊下ですれ違いざまに笑った。
「無所属がいくら連携しても、何も変わらんよ」
健人は立ち止まり、静かに振り返る。
「小さな声が集まれば、風になります。
その風が、いつか議場を動かすと信じてます」
男は鼻で笑い、背を向けて去っていった。
しかし健人の胸の中には、確かな炎が灯っていた。
数日後、地方の町で行われる勉強会に招かれた。
テーマは「地方自治と国政の距離」。
健人は迷わず出席を決めた。
出発の朝、空港のロビーで田島が荷物を持ちながら笑った。
「支持率0.5%でも、今度は地方議員15人が味方だ。数字以上の味方だな」
「そうだな」と健人は微笑み返す。
飛行機に乗り込むと、窓の外に広がる街の灯りが見えた。
上空へ上がるにつれて、その光が小さく、しかし確かに続いているのが見える。
――誰かが、どこかで、同じ志を持っている。
それだけで十分だ。
会場は町の公民館だった。
参加者は地方議員のほか、地域のNPO代表、商店街の店主、学生まで。
壇上に立った健人は、最初にこう切り出した。
「国を動かすのは、議事堂の声じゃありません。
現場で生きる、皆さんの声です」
その瞬間、空気が変わった。
目の前の人々が、静かに、しかし真剣に頷く。
「国会議員が“現場の声”を聞くなんて初めてです」と誰かが言った。
健人は思わず笑みをこぼす。
「僕だって、国会の中では誰も話を聞いてくれません。
でも、皆さんの声なら、僕が必ず届けます」
拍手が起きた。
それは派手な歓声ではなく、温かく、真っ直ぐな拍手だった。
――ああ、ここに政治の原点がある。
健人は心の中でそう呟きながら、胸の奥に確かな灯を感じた。
帰りの飛行機の窓から、夜の街を見下ろす。
ひとつひとつの灯りが、まるで“声”のように見えた。
小さくても、消えずに続いていく光。
それが、国を支える力なのだと、健人は初めて実感した。
「国を変える風は、いつだって地方から吹く」
自分の呟きが、機内の静寂に溶けていった。
胸ポケットの中では、地方議員たちの名刺が温かく重なり合っていた。
“国を動かすのは、議事堂の声じゃない。
現場で汗を流す人たちの声だ。
その声とつながる限り、政治は生きている。”
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