『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第101話 SNSフォロワー10万人突破

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国会の拍手が響いたあの日から、数週間が過ぎた。
 法案は委員会審議を終え、まだ本格的な可決には至っていない。
 それでも、あの日を境に確かに何かが動き始めていた。

 議員会館の一室。
 真田がパソコンの前で眉を上げた。
 「健人さん……フォロワー、十万人を超えました」

 「十……万人?」
 健人は思わず聞き返した。
 机の上には、前日の国会資料と未処理のメールの山。
 それらよりも今、画面に映る数字の方が現実感を失っていた。

 真田がスクロールしながら言う。
 「あの日の本会議の演説動画が、切り抜かれて拡散されてます。
 “この人の声、まっすぐ”“政治家らしくないけど信じられる”ってコメントが多いです」

 その言葉に、田島がスマホを掲げて笑う。
 「見ろよ、“#坂本健人”がトレンド入りしてる!」
 健人は画面を覗き込み、目を瞬かせた。
 確かにそこには、自分の名前があった。
 しかも、隣には“希望”や“誠実”といった言葉が並んでいる。

 「……嘘みたいだな」
 健人の声は、少し震えていた。

 かつては誰も聞いてくれなかった声が、
 今はスマホの向こうで、十万人の心に届いている。


 だが、真田の表情は少しだけ険しい。
 「注目が集まるのはいいことですが、誤解や誹謗中傷も出始めています」
 健人は画面を見つめる。
 確かに「人気取りだ」「理想論ばかり」といった書き込みも少なくなかった。

 田島が鼻を鳴らした。
 「ま、アンチが出るってのは注目されてる証拠だろ。
 昔なんか、誰も文句すら言わなかったからな」

 健人は苦笑して言った。
 「“政治家らしくない”って言われるけど……それ、褒め言葉に聞こえるよ」
 真田が静かに頷いた。
 「ええ。あなたの真っ直ぐさは、既存の政治家像と違う。
 それが、市民に届いたんです」


 事務所の電話が鳴り続けていた。
 市民からの問い合わせ、支援、相談――そしてDM。
 「話を聞いてほしい」「助けてほしい」という声が次々に届く。

 真田はそれらを丁寧に仕分け、田島が一つひとつ返信する。
 「すげえな……政治事務所っていうより、相談所みたいだ」
 「それでいいんだよ」健人は言った。
 「政治が遠いって思われてるなら、こっちから近づけばいい」

 そう言う健人の目は、以前よりも確かに強かった。
 国会という壁に何度も打ち砕かれながらも、彼の心は折れていない。


 その日の夕方。
 「十万人記念に、ライブ配信してみませんか?」と真田が提案した。
 健人は即座に頷いた。
 「いいな。国会じゃなく、ネットで話そう。直接な」

 夜八時。
 スマホのカメラがオンになると、コメント欄には瞬く間に名前が流れた。
 「始まった!」「本物だ!」
 視聴者数は数千人を超え、コメント欄は嵐のように動く。

 健人は、少し緊張した面持ちで口を開いた。
 「こんばんは。坂本健人です。
 今日は、皆さんと政治の話をしたくて、生配信をしています」

 声は柔らかく、どこか素朴だった。
 「政治って、難しいとか、遠いとか言われるけど――
  本当は、みんなの生活のすぐ隣にあるものなんです」

 コメントが止まり、画面に「聞いてます」「その通り」と文字が流れた。


 「質問、いいですか?」というコメントが読み上げられる。
 健人は頷いて答える。
 「もちろん。どんな質問でも」

 「無所属でどうやってやっていけるんですか?」
 健人は少し笑って、「正直、厳しいです」と答えた。
 「でも、しがらみがない分、自由に発言できる。
  誰の顔色も見ずに、市民の声だけを見て動けるんです」

 次の質問が来る。
 「孤独じゃないんですか?」
 健人は一瞬黙り、画面の向こうを見つめた。
 「孤独ですよ。でも、今日こうして話せてる。
  皆さんが聞いてくれるなら、俺は一人じゃない」

 その言葉に、ハートマークの絵文字が溢れた。
 コメント欄には「泣いた」「応援します」「信じたい」と次々に流れる。


 配信の終盤、ひとつの質問が表示された。
 「これからの政治をどうしたいですか?」

 健人は少し考え、穏やかに言葉を選んだ。
 「うまく言えないけど……政治をもう一度“信頼できるもの”にしたいです。
  難しいことよりも、まずは人を信じる政治に戻したい」

 それは、国会での拍手よりも静かで、しかし確かに響く言葉だった。

 「政治家らしくない」――その言葉がまたコメント欄に並ぶ。
 だが、今回は違う意味で使われていた。
 「政治家らしくない政治家、最高だ」
 「普通の言葉で話す人を、待ってた」

 その瞬間、健人の胸に熱いものが込み上げた。


 配信が終わると、真田がモニターを見つめながら言った。
 「コメント、十万件を超えました」
 田島は笑って椅子にもたれかかる。
 「国会の拍手よりデカいな。こっちの方がよっぽどリアルだ」

 健人は深く頷いた。
 「声が届く場所なら、どこでも俺の議場だな」

 窓の外には東京の夜景が広がり、国会議事堂のライトが遠くに見える。
 国会という巨大な建物が、いまやほんの少し近く感じられた。


 夜更け。
 会館の部屋で、健人はスマホを手に取り、再び画面を見た。
 フォロワー数は“100,002”。
 数字の下に並ぶのは、見知らぬ誰かのアイコン。

 けれど、健人にはそれがただの数字には見えなかった。
 一つひとつに、顔や声、生活や想いがある。
 そう思うと、不思議なほど胸が温かくなった。

 彼は静かに呟く。
 「これが、俺の“国民との議会”なんだな」

 その言葉は、夜の静けさに溶けていった。



“数字じゃない。
フォロワーの一人ひとりに、思いや願いがある。それを聞ける限り、俺はまだ
政治家でいられる”
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