『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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忍び寄る影編

第44話「警戒区域」

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深夜。
カラン――と扉の鈴が揺れるよりも先に、外から重く連なる音が響いてきた。
ガシャリ、ガシャリと甲冑の擦れ合う音。馬の蹄が石畳を叩く乾いた響き。そして人々の小声が夜気に紛れて流れ込む。

レンとニナは同時に顔を上げ、窓の外を覗いた。
街灯に照らされた道を、王国軍の列が通り過ぎていく。槍を構えた兵士、背に荷を負った従卒、地図を広げて指示を飛ばす指揮官。松明の炎が鎧の表面に反射し、金属の波のように揺れ動いていた。
その規模は十や二十ではなく、小隊や中隊を越えた数。町全体がひとつの戦場に変わりつつあることを告げていた。

やがて、一人の兵士が店の扉を押し開ける。
カラン――鈴の音と共に入ってきた彼は、息を切らしながら棚に向かい、水と干し肉を手に取ってレジへと置いた。
ヘルムを外した額からは汗が滴り、顔には緊張と疲労が刻まれている。

「いらっしゃいませ」
レンはいつもの調子で声をかけ、手を動かす。

兵士は会計を待つ間、小さく吐息を漏らした。
「……この町も、ついに警戒区域に入った」

ニナが思わず袋を持つ手を強く握る。
「警戒区域……?」と小声で繰り返す。

兵士は短く頷き、目を伏せて続けた。
「国境の向こうだけじゃない。影はじわじわ広がっている。命令は明確だ――この町を通る全てを監視し、怪しい動きがあれば即座に報告すること」

言葉の端に、張り詰めた恐怖が滲んでいた。
それは敵を知っている者の声でもあり、まだ正体を掴みきれないものへの不安でもあった。

レンは平静を崩さず、「そうなんですか」と相槌を打ち、商品を袋に詰めた。
しかし心の奥では、これまで遠くの出来事だったものが、確実に町に迫っているのを感じていた。

兵士は代金を払い、商品を抱えると短く礼をして、足早に扉を押し開けた。
カラン――鈴の音が再び響き、松明の光と兵の列に彼の背が紛れていった。

残された静寂の中、ニナが小さく囁く。
「……レンさん、本当に……ここも巻き込まれるんですね」

レンは答えず、ただ窓の外を過ぎていく兵士の背中を見つめ続けた。
胸の奥でざわめくものは、もはや消せる不安ではなく、確かな現実となりつつあった。

「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その声だけはいつもの調子を保ちながら――。
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