侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾

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パーティー

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 シャーロットはレモンを彷彿とさせる鮮やかな黄色のドレスをソフィアのパーティー用に選んで正解だったと感じていた。あまり食べていないのか、ソフィアの肌は血色がよくない。そこは考えず目の色に合わせて選んだドレスだったが、血色を補って余りある素晴らしい出来栄えだった。

「アクセサリーまで貸していただいて……本当にありがとうございます。お返しするものがないのに」

 ソフィアはレモン色のドレスを身に纏った時、即座に頬を高揚させて喜んでいたが、次の瞬間シュンとうなだれてそんなことを言った。シャーロットは貴族とは思えぬその反応に改めて胸を突かれる思いだった。どれほど冷遇されるとこのような思考回路になるのか、想像つかぬことだった。シャーロットを含め周りの人々は礼こそ言うが、お返しするなどという慣習はゼロに等しかった。

「ヴィンセントの非礼を私が補ったに過ぎないのだから、本当に気にしないで欲しいのよ。あと、普段使いのドレスなんだけど、ちょっと窮屈になったものが何枚かあるの、もらってくれないかしら?」

 シャーロットの言葉にソフィアが何を思ったのか、だんだん容易に想像がつくようになっていた。

(また、お礼が出来ないと思っているわね。しかも、受け取っていいのか迷っているわ)

 そんなソフィアが不憫で、しかも謙虚で、シャーロットは抱きしめたくなっていた。短い時間でもソフィアの人柄の良さは伝わってきていた。侯爵令嬢とは思えぬ腰の低さ、やってもらったことに対する感謝の気持ち、どれをとってもこれまで見てきた人間の中でこれ以上の人物はいなかった。

「お口に合うかわかりませんが、焼き菓子をシャーロット様に作ってお渡ししたいのですが」

 ほらね、と心の中で呟いてシャーロットは手にしていたダイヤモンドのネックレスをソフィアの首にかけてやった。

「焼き菓子が嫌いな女性なんているかしら? もちろん大歓迎よ。あとね、様なんてつけないでほしいのよ。立場から言ったらソフィアの方が上なんですもの。シャーロットもしくはロッテと呼んでくれない?」

「あの、では、シャーロット」

 言ってから照れているソフィアがシャーロットは可愛くて仕方がない。弟がどう思っているかなんて知るよしもないが、シャーロットとしてはこんな義妹ができて嬉しくて踊り出したい気分だ。

「素敵よ、ソフィア。ねえ、一回転してみてくれない?」

 ハッとしてソフィアは戸惑った顔をしたが、おずおずとその場で一つゆっくりと回ってみせた。はっきり言えばヴィンセントの恋人、公爵令嬢クリスティンより美しさもその可憐さも上回っている。ただ、クリスティンは自信のある態度で常に堂々としており、それはそれで不思議なカリスマ性があるのも確かだった。

「あの……?」

「ああ、ごめんなさい。あんまり可愛らしいので見とれてしまったのよ」

「シャーロットの方が素敵だと思います。こんな方が義姉だなんて……夢が叶った気分です」

 シャーロットは目尻に皺を寄せてニッコリ微笑んだ。

「私も妹がずっと欲しかったのよ。兄と弟しかいないからよく両親におねだりして困らせたって母に言われたの」

 二人で和やかに話しているとドアをノックする音がする。

「ロッテ、準備はどうだい?」

 声を聞いて「夫のダンよ」と、シャーロットはソフィアにウィンクしてみせた。

「ええ、どうぞ入って」

 返事を聞くやいなやドアが開く。

「わぉ、なんて美しい花が二輪。水色のバラと黄色のバラだね」

 人好きのする優しい顔立ちの男性は部屋に入るなり二人を褒め讃え、シャーロットに歩み寄って頬にキスをした。

「夫のダニエル。こちらはヴィンセントの妻、ソフィア。私、念願の妹を手に入れたの!」

 そばかすを散らした柔らかな笑みでダニエルはうんうんとシャーロットの言葉にうなずいて、ソフィアに手を差し出した。ソフィアがそこに手を置くと、唇を乗せる。正式な挨拶だった。

「では今日からソフィアの兄だということになるね。私は愛する妻に出会ってから君に会えてよかったよ。どちらに恋していいかわからなくなるところだった」

 このダニエルの言葉にシャーロットは怒ることもなく、クスクス笑って同意した。

「わかるわ。私も男性ならそうなるもの。身内にこんなに愛らしい子がいるなんて、とっても自慢したい気持ちになるわね」

 そっとソフィアの手を離してから「そのドレスはシャーロットの物だね。シャーロットより似合う人はいないと思ったけど、これは甲乙つけがたい」と、ダニエルが褒めた。

「ソフィアのほうが似合うわ。あげてしまってもかまわないかしら?」

 このシャーロットの発言にソフィアが「いけません。そんな」と慌てた。

「いいんじゃない? ソフィア、貰ってやってくれ。ロッテはこれで新しいドレスをつくる口実を得たんだからね」

 もっと断らなければならないのに、ソフィアはあまりに理想的な夫婦に出会い何も言えないまま頭を一つ下げるのだった。
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