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別れ
別れ1
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素晴らしい調度品に圧倒されながら、ソフィアは自室用に充てがわれた部屋で宙を見つめついた。
『──シャーロット様、もちろん数日中にお伺いいたします。会いたいとおっしゃってくださるなんてとても光栄なことです』
手紙の続きを綴ると、また部屋の中が気になって見渡してしまう。第二の都市マスタスにあるヴィンセントの邸宅は想像以上に豪華だった。ドアノブ一つとっても、素晴らしい彫刻が施され合金で加工されている。シャーロットの家も素晴らしかったが、こちらは段違いだった。
シャーロットは日を空けず、毎日手紙を寄越した。ソフィアの声が未だ戻らないことを心配し、心のこもった小さなプレゼント付きの手紙はソフィアの楽しみでもあり悩みでもある。
同じ部屋で縫い物をしているキャサリンの方に体を向けると、キャサリンは直ぐに感じ取って動かしていた手を止めた。
「どうしたの? フィフィ」
愛称でソフィアへ呼びかけるキャサリンに、ソフィアは手紙とは違う紙を出して素早く文字を書いていく。
『毎回シャーロットがプレゼントをつけてくださるの。お返しをしたいのだけど……街に出かけて買い物をしていいものなのかわからないのよ』
紙を見せると、キャサリンが考え込んで「焼き菓子がお好きなのでしょう? クッキーを焼いて持っていくのはどうかしら。日持ちもするし」と、提案した。
実はキャサリンにだけはネックレスを取り上げられたことを話してあった。声を失った理由を話した時に、キャサリンの子どもを守れなかった事と共にネックレスの件も伝えておいた。子どものことが一番の理由であることは隠しようもないが、それはそれでキャサリンには重荷かもしれないと、もう一つ言い訳のようにネックレスの件をつけたのだ。
『もしかして、私を街に行かせないようにしている?』
ソフィアの書いたものを見たキャサリンが「まぁ、そうよ。そんな意地悪い人間がウロウロしている所には行かせたくないわ」と過保護な親のようなことを言った。
でもそれは首都シュリアでの出来事だ。今は第二の都市マスタスにいる。同じ人物がいる可能性はそれほど高くないはずだ。
そこまで話すと部屋のドアをノックする音がして、話が中断された。
「はい。どうぞ」
キャサリンが立って対応すると、ドアを開けてヴィンセントが入ってきた。
「二人とも、体調はどうだ?」
キャサリンは少しツンとして「相変わらずです、ご主人様」と、素っ気ない。そんなキャサリンをソフィアが目で諌めた。キャサリンはヴィンセントのことをまた許していないのだ。亡くなった子どもの件というより、結婚そのものに反対だし、あばら家にソフィア達を送ったことも手違いだとは思えないらしい。
ソフィアは紙に『キャサリン。ヴィンセント様と二人でお話しをしたい』と書いて二人に見せた。仲が良いとはいえキャサリンは侍女なので、渋々部屋を出ていった。
その間、ヴィンセントはソフィアの書いていたものを見下ろしていた。
「街に行かせてもらえないのか」
ネックレスをとられた話を未だに伏せていたので、ソフィアの心臓はドクンと跳ね上がった。
『キャサリンは心配性なのです。それに、彼女のことを考えたら行くべきではないですよね』
普段通りにしているキャサリンだが、体が完全に元通りなのかどうかソフィアにはわからなかった。
「私が連れて行くことも出来るが……侍女の気持ちもわかる。倒れたばかりだし、まだ言葉が発せられないのだから家に居てもらいたい」
体を気遣ってくれていることに嬉しくなって、思わず口角が上がっていく。
『では、キッチンで焼き菓子を作ってもよろしいですか? 一度作ったときにシャーロット様が喜んでくださったので、また作ってそれを贈ります』
書いている横でヴィンセントが手元を覗き込んでいる。距離が近くてソフィアはどうしてもドギマギしてしまう。踊り以外で男性がこのように近くにいることに慣れていなかった。
「ああ、それは構わない。その菓子は多めに作れるか? その、私も食べてみたいのだが」
顔を上げるとヴィンセントとばっちり目が合った。
「驚かれると恥ずかしいが、私も甘いものは好きなのだ。昔はシャーロットと取り合いをして怒られたりもしたのだ」
照れくさそうに笑うヴィンセントから目が離せない。その瞳をずっと見ていたかった。しかし、話せないのだから渋々紙を見下ろした。
『食べていただけるのならいくらでも焼きます。お口に合えばいいのですけど』
「シャーロットが絶賛していたから口に合わないなんてことはないはずだ。楽しみに待っているよ」
こんなことで跳ね上がりたくなるほど嬉しいなんて、我ながらどうかしているとソフィアは感じていた。それでも、嬉しいものは嬉しくて抑えることができない。
『──シャーロット様、もちろん数日中にお伺いいたします。会いたいとおっしゃってくださるなんてとても光栄なことです』
手紙の続きを綴ると、また部屋の中が気になって見渡してしまう。第二の都市マスタスにあるヴィンセントの邸宅は想像以上に豪華だった。ドアノブ一つとっても、素晴らしい彫刻が施され合金で加工されている。シャーロットの家も素晴らしかったが、こちらは段違いだった。
シャーロットは日を空けず、毎日手紙を寄越した。ソフィアの声が未だ戻らないことを心配し、心のこもった小さなプレゼント付きの手紙はソフィアの楽しみでもあり悩みでもある。
同じ部屋で縫い物をしているキャサリンの方に体を向けると、キャサリンは直ぐに感じ取って動かしていた手を止めた。
「どうしたの? フィフィ」
愛称でソフィアへ呼びかけるキャサリンに、ソフィアは手紙とは違う紙を出して素早く文字を書いていく。
『毎回シャーロットがプレゼントをつけてくださるの。お返しをしたいのだけど……街に出かけて買い物をしていいものなのかわからないのよ』
紙を見せると、キャサリンが考え込んで「焼き菓子がお好きなのでしょう? クッキーを焼いて持っていくのはどうかしら。日持ちもするし」と、提案した。
実はキャサリンにだけはネックレスを取り上げられたことを話してあった。声を失った理由を話した時に、キャサリンの子どもを守れなかった事と共にネックレスの件も伝えておいた。子どものことが一番の理由であることは隠しようもないが、それはそれでキャサリンには重荷かもしれないと、もう一つ言い訳のようにネックレスの件をつけたのだ。
『もしかして、私を街に行かせないようにしている?』
ソフィアの書いたものを見たキャサリンが「まぁ、そうよ。そんな意地悪い人間がウロウロしている所には行かせたくないわ」と過保護な親のようなことを言った。
でもそれは首都シュリアでの出来事だ。今は第二の都市マスタスにいる。同じ人物がいる可能性はそれほど高くないはずだ。
そこまで話すと部屋のドアをノックする音がして、話が中断された。
「はい。どうぞ」
キャサリンが立って対応すると、ドアを開けてヴィンセントが入ってきた。
「二人とも、体調はどうだ?」
キャサリンは少しツンとして「相変わらずです、ご主人様」と、素っ気ない。そんなキャサリンをソフィアが目で諌めた。キャサリンはヴィンセントのことをまた許していないのだ。亡くなった子どもの件というより、結婚そのものに反対だし、あばら家にソフィア達を送ったことも手違いだとは思えないらしい。
ソフィアは紙に『キャサリン。ヴィンセント様と二人でお話しをしたい』と書いて二人に見せた。仲が良いとはいえキャサリンは侍女なので、渋々部屋を出ていった。
その間、ヴィンセントはソフィアの書いていたものを見下ろしていた。
「街に行かせてもらえないのか」
ネックレスをとられた話を未だに伏せていたので、ソフィアの心臓はドクンと跳ね上がった。
『キャサリンは心配性なのです。それに、彼女のことを考えたら行くべきではないですよね』
普段通りにしているキャサリンだが、体が完全に元通りなのかどうかソフィアにはわからなかった。
「私が連れて行くことも出来るが……侍女の気持ちもわかる。倒れたばかりだし、まだ言葉が発せられないのだから家に居てもらいたい」
体を気遣ってくれていることに嬉しくなって、思わず口角が上がっていく。
『では、キッチンで焼き菓子を作ってもよろしいですか? 一度作ったときにシャーロット様が喜んでくださったので、また作ってそれを贈ります』
書いている横でヴィンセントが手元を覗き込んでいる。距離が近くてソフィアはどうしてもドギマギしてしまう。踊り以外で男性がこのように近くにいることに慣れていなかった。
「ああ、それは構わない。その菓子は多めに作れるか? その、私も食べてみたいのだが」
顔を上げるとヴィンセントとばっちり目が合った。
「驚かれると恥ずかしいが、私も甘いものは好きなのだ。昔はシャーロットと取り合いをして怒られたりもしたのだ」
照れくさそうに笑うヴィンセントから目が離せない。その瞳をずっと見ていたかった。しかし、話せないのだから渋々紙を見下ろした。
『食べていただけるのならいくらでも焼きます。お口に合えばいいのですけど』
「シャーロットが絶賛していたから口に合わないなんてことはないはずだ。楽しみに待っているよ」
こんなことで跳ね上がりたくなるほど嬉しいなんて、我ながらどうかしているとソフィアは感じていた。それでも、嬉しいものは嬉しくて抑えることができない。
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