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後悔
後悔4
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昨日会ったばかりだったのにレスリーがソフィアに会いに来た。
それは昼下がりのことだった。
「やあ、ソフィア。昨日の疲れはとれたかな?」
レスリーは昨日と何一つ変わらない笑顔で、テラスで縫い物をしていたソフィアのところにやってきた。例によってソフィアは子供用のドレスを縫っていた。
テーブルに持ってきた石板を置いて「いつでもソフィアと話せるように石板を持参する男と言われるようになるな」と、笑いかけた。
ソフィアが笑い返そうとすると、レスリーは「ん?」と、ソフィアの顔をうかがった。
「んー、昨日と雰囲気が違うね。なんだかとても艶っぽく見えるんだけど」
まさかそんな事を当てられるなどと誰が思うだろうか。ソフィアは驚きのあまり目を見開いてから、あっという間に赤面した。
「ああ……わかってしまったよ。ヴィンセントのヤツ」
レスリーが何があったのか本当に理解したのか聞きたいような気もするが、言い当てられたらもっと恥ずかしいので固まってしまった。
「ソフィアがいいなら私が口を出すことではないけどね。その時はいっとき幸せかもしれないけど、ヴィンセントはまた恋人の元に行ってしまうことを忘れてはいけないよ」
ソフィアはレスリーが何もかも悟っているのだとわかり、石板を引き寄せて文字を刻む。
『わかっているのです。その通りです。幸せだった記憶が、私をまたあやまった選択へと導いてしまいそうで怖いのです』
レスリーはソフィアが書き終わってもしばらく石板を見つめていた。何かを考えあぐねているようだ。
「うーん、そうだな。明後日あたりに旅に出よう。計画通り、君の故郷に向かうんだ。ソフィアのお父上に挨拶をしつつ、結婚することを宣言しよう。ソフィアのお父上だって今の結婚が契約婚であることは承知しているわけだから、文句もないだろう。もし反対されたら我が家から支払われた金を返金してもらうと言えばいいさ」
話は聞いていたが、明後日とは急展開だった。ソフィアの気持ちはまだ固まっていない。もちろん、それはレスリーもわかった上での発言だった。
「このまま、君をここに置いておけばヴィンセントへの想いでどうにもならなくなるだろ? 一刻も早く引き離さないと、ソフィアがどんどん不幸になってしまう。それは私としては見ていられないんだよ。こんな美しい花が萎れていくのは悲しすぎる」
最後に、本当は今すぐ出発したいなどというものだから、ソフィアは焦り、石板に文字を書き始めた。
『明後日。それでお願いします』
心の準備をさせて欲しかった。ヴィンセントへの気持ちもあるが、駆け落ちするようなことは結果的にヴィンセントに迷惑をかけるのではないかと思ったのだ。
『ヴィンセント様へは、私からお話させてください』
初めは上手く回らない契約結婚だったが、今は良くしてもらっている。だから、説明もなく、ヴィンセントの元を去るのは礼儀に反している。
「ソフィアが話せるのか? 言い出すのが辛くて結局話せなかったとならないか?」
ソフィアはじっと石板を見下ろしてから、布で文字を消して簡潔に書く。
『話さなければなりません』
ずっとお金のない生活だった。親しくしてくれた人にソフィアが出来る唯一のことは、相手に誠実であることだけだったのだ。取り柄はそれしかない。
ソフィアの決意を込めた大きな文字にレスリーが折れた。
「じゃあ、ソフィアから言ってもらうよ。そこは私が譲るから、ソフィアにも譲ってもらいたいことがある」
そう言ってレスリーが手にしたのはソフィアの首に掛けられたネックレスだった。
「昨日はこれをしていなかったね。ヴィンセントからの贈り物だろ。これは外してもらう。ソフィアだってネックレスの意味はわかるよな?」
愛する相手に贈るのがネックレスであり、愛する相手からのみ貰うのがネックレスだ。
「ヴィンセントのネックレスをつけた女性を妻にするつもりはないんだ。今はヴィンセントへの気持ちのほうが勝るだろうが、いずれは私だけのソフィアになってもらいたい。同意してくれるなら、ネックレスは外してくれ」
もっともな言い分だ。ソフィアはいつの間にか首元に舞い戻っていたネックレスを外した。手が震えないようにするのが精一杯で他のことまで気が回らずにいた。
「泣きそうな顔をしているね。私はこの先ソフィアを苦しめないと誓うよ」
レスリーは眉を寄せたまま笑顔を作って、ソフィアの額にキスをした。それからソフィアの手の中にあるネックレスを見下ろして言った。
「さて、そのネックレスをどうしようか。つけないと言うなら大事に持っていても文句は言わないよ。君の財産だ」
ソフィアも自分の手の中にあるネックレスを見下ろす。久しぶりに再会した素敵なネックレスだ。
『持っていたいです』
石板に書いたものをレスリーは読み終えると「わかった」と、承諾して笑顔を向けた。
「じゃあ、ここの執事に君を連れ出すことを伝えてくるよ」
レスリーはもう一度ネックレスをチラリと見たが、背を向けてテラスから家の中へと入って行った。
それは昼下がりのことだった。
「やあ、ソフィア。昨日の疲れはとれたかな?」
レスリーは昨日と何一つ変わらない笑顔で、テラスで縫い物をしていたソフィアのところにやってきた。例によってソフィアは子供用のドレスを縫っていた。
テーブルに持ってきた石板を置いて「いつでもソフィアと話せるように石板を持参する男と言われるようになるな」と、笑いかけた。
ソフィアが笑い返そうとすると、レスリーは「ん?」と、ソフィアの顔をうかがった。
「んー、昨日と雰囲気が違うね。なんだかとても艶っぽく見えるんだけど」
まさかそんな事を当てられるなどと誰が思うだろうか。ソフィアは驚きのあまり目を見開いてから、あっという間に赤面した。
「ああ……わかってしまったよ。ヴィンセントのヤツ」
レスリーが何があったのか本当に理解したのか聞きたいような気もするが、言い当てられたらもっと恥ずかしいので固まってしまった。
「ソフィアがいいなら私が口を出すことではないけどね。その時はいっとき幸せかもしれないけど、ヴィンセントはまた恋人の元に行ってしまうことを忘れてはいけないよ」
ソフィアはレスリーが何もかも悟っているのだとわかり、石板を引き寄せて文字を刻む。
『わかっているのです。その通りです。幸せだった記憶が、私をまたあやまった選択へと導いてしまいそうで怖いのです』
レスリーはソフィアが書き終わってもしばらく石板を見つめていた。何かを考えあぐねているようだ。
「うーん、そうだな。明後日あたりに旅に出よう。計画通り、君の故郷に向かうんだ。ソフィアのお父上に挨拶をしつつ、結婚することを宣言しよう。ソフィアのお父上だって今の結婚が契約婚であることは承知しているわけだから、文句もないだろう。もし反対されたら我が家から支払われた金を返金してもらうと言えばいいさ」
話は聞いていたが、明後日とは急展開だった。ソフィアの気持ちはまだ固まっていない。もちろん、それはレスリーもわかった上での発言だった。
「このまま、君をここに置いておけばヴィンセントへの想いでどうにもならなくなるだろ? 一刻も早く引き離さないと、ソフィアがどんどん不幸になってしまう。それは私としては見ていられないんだよ。こんな美しい花が萎れていくのは悲しすぎる」
最後に、本当は今すぐ出発したいなどというものだから、ソフィアは焦り、石板に文字を書き始めた。
『明後日。それでお願いします』
心の準備をさせて欲しかった。ヴィンセントへの気持ちもあるが、駆け落ちするようなことは結果的にヴィンセントに迷惑をかけるのではないかと思ったのだ。
『ヴィンセント様へは、私からお話させてください』
初めは上手く回らない契約結婚だったが、今は良くしてもらっている。だから、説明もなく、ヴィンセントの元を去るのは礼儀に反している。
「ソフィアが話せるのか? 言い出すのが辛くて結局話せなかったとならないか?」
ソフィアはじっと石板を見下ろしてから、布で文字を消して簡潔に書く。
『話さなければなりません』
ずっとお金のない生活だった。親しくしてくれた人にソフィアが出来る唯一のことは、相手に誠実であることだけだったのだ。取り柄はそれしかない。
ソフィアの決意を込めた大きな文字にレスリーが折れた。
「じゃあ、ソフィアから言ってもらうよ。そこは私が譲るから、ソフィアにも譲ってもらいたいことがある」
そう言ってレスリーが手にしたのはソフィアの首に掛けられたネックレスだった。
「昨日はこれをしていなかったね。ヴィンセントからの贈り物だろ。これは外してもらう。ソフィアだってネックレスの意味はわかるよな?」
愛する相手に贈るのがネックレスであり、愛する相手からのみ貰うのがネックレスだ。
「ヴィンセントのネックレスをつけた女性を妻にするつもりはないんだ。今はヴィンセントへの気持ちのほうが勝るだろうが、いずれは私だけのソフィアになってもらいたい。同意してくれるなら、ネックレスは外してくれ」
もっともな言い分だ。ソフィアはいつの間にか首元に舞い戻っていたネックレスを外した。手が震えないようにするのが精一杯で他のことまで気が回らずにいた。
「泣きそうな顔をしているね。私はこの先ソフィアを苦しめないと誓うよ」
レスリーは眉を寄せたまま笑顔を作って、ソフィアの額にキスをした。それからソフィアの手の中にあるネックレスを見下ろして言った。
「さて、そのネックレスをどうしようか。つけないと言うなら大事に持っていても文句は言わないよ。君の財産だ」
ソフィアも自分の手の中にあるネックレスを見下ろす。久しぶりに再会した素敵なネックレスだ。
『持っていたいです』
石板に書いたものをレスリーは読み終えると「わかった」と、承諾して笑顔を向けた。
「じゃあ、ここの執事に君を連れ出すことを伝えてくるよ」
レスリーはもう一度ネックレスをチラリと見たが、背を向けてテラスから家の中へと入って行った。
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