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後悔
後悔6
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夜の帳が下りる頃、ヴィンセントはやっと家へと戻ってこられた。玄関まで迎えに出てきていた執事のトンプソンは相変わらず無表情であったが、幾分疲れが見て取れた。
「なにかあったか?」
歩きながら問うがトンプソンは部屋で話すと答えただけだった。トンプソンの表情も気になったが、ヴィンセントの目下の関心事はソフィアだ。
「ソフィアはもう食事をとってしまったのか」
「はい」
仕方がないことだと思いつつ、もう少し早く戻って来たら良かったと無念さが滲む。これまでほとんど共に食事をとってないのだから、待っていてくれるとも思ってはいなかったが、昨日の今日であわよくばと期待する心もあった。ヴィンセントは一緒に楽しい時を過ごして少しでもソフィアに近づきたいと思っていた。
「ヴィンセント様、お仕事の方はいかがでございましたか?」
「ああ、天候が安定している時期を選んで出発することになった。明日から荷物を船に乗せる。ダニエルにも話をしてきた」
船に荷を乗せる時は必ず監督者が見張ることになっている。そうしないと、荷物をごまかされたり、積み間違えることもある。ヴィンセントの義兄であるダニエルに毎回それを任せていた。今回もダニエルに詳細を話さなければならず、帰り際姉の家に顔を出してきたので遅くなったのだった。
「シャーロットもダニエルも次にソフィアが来るのは何時になるのだとそればかり聞いてきたよ」
何か気の利いた返事が来ないか少し間を空けたが何もなかった。トンプソンは聞き手としてはやや物足りない部類に入る。過不足なく返事はするが会話が弾むようなことはない。そんな訳で勝手に話を進めていく。
「ああ。向こうでシャーロットの手作りのクッキーを食べさせられた。少し不格好だったが、味は良かった。ソフィア直伝のレシピだから美味しいのは間違いないから良かったよ」
不器用な姉にしてはまあまあ見た目も良い方だったが、改めてソフィアのクッキーを再び食べたくなった。
二人は廊下を曲がるとヴィンセントの自室へと入っていった。既に明かりがともされていて、カーテンも下ろされている。
「で、疲れが顔に出た理由は?」
特に雑談となると当たり障りのない返事しかしないトンプソンなので面白みがない。ヴィンセントは部屋に到着しやっと本題に入る。
トンプソンは二つあるのだと指を二本立ててみせた。ヴィンセントはうなずきながらジャケットを脱いだ。
「一つ目はソフィア様達をルードリアのレストハウスへ行かせた人物がわかってまいりました」
ソフィア達に要らぬ苦労をさせ、ソフィアの侍女の子を死産に追い込んだ犯人がわかったということだ。ヴィンセントはポケットから懐中時計を出そうとしていた手を止めた。
「誰だったのだ」
トンプソンは「わかってきたと申したのは完全なる証拠が掴めてないからでございます。今は名前を出すわけにはまいりません」と真顔で返す。
「違っていても責めないぞ」
ヴィンセントとしては早く知りたかった。しかし、トンプソンが「キャサリンに探らせておりますので暫くお待ちを」と、意味深に答えて一本目の指を倒した。
「キャサリンか。絶対的なソフィアの味方だからな。良い人選だ」
トンプソンはうなずいてから続ける。
「そして二個目でございます。今日、またレスリー様がいらっしゃいましてソフィア様とお会いになりました」
トンプソンも疲れた顔つきだったが、ヴィンセントもまた一気に疲れたような心持ちだった。仕事で家を空けていた間にレスリーが来たなどということは聞きたくはなかった。腹立たしいがソフィアに会うなとは言えない。実の兄だし、ソフィアにも会う権利はあるのだ。
「マメなことだな」
皮肉を込めたが「まだ先がございます」とトンプソンに言われた時、もっと酷い言い方をしてやればよかったと思った。
「明後日から旅に出るそうです」
「なるほど。レスリーはふらふらするのが好きだからな」
「レスリー様だけではなく、ソフィア様もご一緒です」
動きを止めたヴィンセントに「それでソフィア様からもヴィンセント様にお話があるとかでお帰りをお待ちでございます」とトンプソンは畳みかける。
ここでヴィンセントがトンプソンの目を見る。嫌な予感がした。トンプソンは目をそらすことはなかったが、心を見透かすことのできない感情のない目だった。
「……わかった。どこにいる?」
「お部屋にいらっしゃいます。こちらにお呼びいたしますか?」
昨晩、ソフィアと過ごしたソフィアの自室で会いたいと思ったのは、嫌な予感を払拭したかったからだった。あんな時間を過ごしたのだから、大した話は出ないと願掛けのような気持ちで「ソフィアの部屋に行く」と答えた。
「なにかあったか?」
歩きながら問うがトンプソンは部屋で話すと答えただけだった。トンプソンの表情も気になったが、ヴィンセントの目下の関心事はソフィアだ。
「ソフィアはもう食事をとってしまったのか」
「はい」
仕方がないことだと思いつつ、もう少し早く戻って来たら良かったと無念さが滲む。これまでほとんど共に食事をとってないのだから、待っていてくれるとも思ってはいなかったが、昨日の今日であわよくばと期待する心もあった。ヴィンセントは一緒に楽しい時を過ごして少しでもソフィアに近づきたいと思っていた。
「ヴィンセント様、お仕事の方はいかがでございましたか?」
「ああ、天候が安定している時期を選んで出発することになった。明日から荷物を船に乗せる。ダニエルにも話をしてきた」
船に荷を乗せる時は必ず監督者が見張ることになっている。そうしないと、荷物をごまかされたり、積み間違えることもある。ヴィンセントの義兄であるダニエルに毎回それを任せていた。今回もダニエルに詳細を話さなければならず、帰り際姉の家に顔を出してきたので遅くなったのだった。
「シャーロットもダニエルも次にソフィアが来るのは何時になるのだとそればかり聞いてきたよ」
何か気の利いた返事が来ないか少し間を空けたが何もなかった。トンプソンは聞き手としてはやや物足りない部類に入る。過不足なく返事はするが会話が弾むようなことはない。そんな訳で勝手に話を進めていく。
「ああ。向こうでシャーロットの手作りのクッキーを食べさせられた。少し不格好だったが、味は良かった。ソフィア直伝のレシピだから美味しいのは間違いないから良かったよ」
不器用な姉にしてはまあまあ見た目も良い方だったが、改めてソフィアのクッキーを再び食べたくなった。
二人は廊下を曲がるとヴィンセントの自室へと入っていった。既に明かりがともされていて、カーテンも下ろされている。
「で、疲れが顔に出た理由は?」
特に雑談となると当たり障りのない返事しかしないトンプソンなので面白みがない。ヴィンセントは部屋に到着しやっと本題に入る。
トンプソンは二つあるのだと指を二本立ててみせた。ヴィンセントはうなずきながらジャケットを脱いだ。
「一つ目はソフィア様達をルードリアのレストハウスへ行かせた人物がわかってまいりました」
ソフィア達に要らぬ苦労をさせ、ソフィアの侍女の子を死産に追い込んだ犯人がわかったということだ。ヴィンセントはポケットから懐中時計を出そうとしていた手を止めた。
「誰だったのだ」
トンプソンは「わかってきたと申したのは完全なる証拠が掴めてないからでございます。今は名前を出すわけにはまいりません」と真顔で返す。
「違っていても責めないぞ」
ヴィンセントとしては早く知りたかった。しかし、トンプソンが「キャサリンに探らせておりますので暫くお待ちを」と、意味深に答えて一本目の指を倒した。
「キャサリンか。絶対的なソフィアの味方だからな。良い人選だ」
トンプソンはうなずいてから続ける。
「そして二個目でございます。今日、またレスリー様がいらっしゃいましてソフィア様とお会いになりました」
トンプソンも疲れた顔つきだったが、ヴィンセントもまた一気に疲れたような心持ちだった。仕事で家を空けていた間にレスリーが来たなどということは聞きたくはなかった。腹立たしいがソフィアに会うなとは言えない。実の兄だし、ソフィアにも会う権利はあるのだ。
「マメなことだな」
皮肉を込めたが「まだ先がございます」とトンプソンに言われた時、もっと酷い言い方をしてやればよかったと思った。
「明後日から旅に出るそうです」
「なるほど。レスリーはふらふらするのが好きだからな」
「レスリー様だけではなく、ソフィア様もご一緒です」
動きを止めたヴィンセントに「それでソフィア様からもヴィンセント様にお話があるとかでお帰りをお待ちでございます」とトンプソンは畳みかける。
ここでヴィンセントがトンプソンの目を見る。嫌な予感がした。トンプソンは目をそらすことはなかったが、心を見透かすことのできない感情のない目だった。
「……わかった。どこにいる?」
「お部屋にいらっしゃいます。こちらにお呼びいたしますか?」
昨晩、ソフィアと過ごしたソフィアの自室で会いたいと思ったのは、嫌な予感を払拭したかったからだった。あんな時間を過ごしたのだから、大した話は出ないと願掛けのような気持ちで「ソフィアの部屋に行く」と答えた。
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