廃城の泣き虫アデリー

今野綾

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行商人ニコラス

行商人ニコラス②

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 カリーナが食べ物をアデリーの方へと出してくれたので、アデリーはそこからパンを一つ取り礼を言った。隣になったリルも大皿に乗った肉と野菜を炒めたものを差し出してくれたので重なって置いてあった取り皿を一枚取り、遠慮なく盛っていく。

 ダグマはパンを千切ると「しかし、冬しか居ないのに部屋を与えるのもな」と、ぼやいた。

「なんでだよ。余ってるのにケチ臭いな」

 ニコラスはこの前の冬もダグマと一緒だったらしいので、かなりフランクに話している。商売人と客の間柄ではなく、友人同士なのかもしれない。

「いや、考えていたんだが、人が来るたびに慌ててベッドを急拵えで整えるのも大変だし、それならいっそ一部屋宿屋として整えておくのもありなんじゃないかと思ってな」
「ああ、突然の吹雪で泊めて欲しいと言ってくる奴もいたもんな」
「そうなんだよ。部屋をしっかり用意しておいたら宿代も貰えるってもんだ」

 確かに。と、モグモグ口を動かしながらリルが同意する。耳の上辺りまでの髪が邪魔なのか、時々顔を揺する。

「たまたまベッドが空いてて床で寝ずにすんだけど、空いてなかったら床だったでしょ? 床はやっぱり寝不足になるし、それなら代金払ってベッドで寝たいですね」

 アデリーは耳を傾けるながら、どの部屋が一番適しているか思い浮かべていた。知らない人間が一晩か二晩泊まるだけなら、出来れば高層階ではないほうがいいように思った。下に厨房やトイレがある手前、高層階に泊まらせると用事のたび廃城をウロウロされることになる。そうなると住人たちの部屋の前を通過することが多くなり、万が一、あまり良くない輩だったら物を盗まれたりするリスクが上がるのだ。

「アデリー」

 そこで声を掛けられるなど思ってもいなかったのに、ダグマが名を呼んだ。アデリーは返事をするのも忘れて目を見開き、ダグマを見つめた。

「意見がありそうだな」
「あ、はい。やはり知らない人が出入りするとなると低層階がいいのではないかと考えていたんです。それで最適な部屋はないかと思っていました。家畜部屋の真上は確か、とても広かったはずですし、唯一階段の反対側にあって──」

 そこで改めて全員の視線が自分に注がれていることに気が付き、怖気づいて口を閉じた。

「どうしたんだい、アデリー」

 ニコラスが話の途中であることを気にして促してくれた。

「あの……私なんかがこんなこと言っていいのかと」

 ダグマは「女だからか? カリーナにも聞くつもりだし、お前はお前の意見を言えばいい」と、顎を上げて続けろと合図を送る。

「はい。いえ、あの、意見は以上です。家畜部屋の上がいいと思います」
「アタシもあそこがいいと思うね。ベッドを何台置けるかわからないけど、他のどの部屋より広いもの。ただ、暖炉はなかったよね」

 真冬になるとここはかなり冷え込むだろう。そんな場所で広めの部屋に暖炉なしは外とそう変わりない温度になりそうだ。

「じゃあ、俺が暖炉を作りますよ。冬までならなんとかなるし、間に合わなかったら焚き火用の台で」

 石工のリルが仲間に加わってくれていることで、話はスムーズに決定した。リルはこの先かなり忙しくなりそうだ。

 そこでニコラスが「話は決まったな。んじゃ、俺はシーツ類をあちこちの村から買い集めて来よう」と、言ったこともありあっさり宿も廃城に作られることになった。これで稼働はしていないが、陶器屋、薬師、大工に石工までいる、街さながらの便利な城になることが決定したのだった。
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