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秘密
秘密②
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夜にリルのところに行く約束をしてから、アデリーはちっとも落ち着いていられなかった。ダグマとの秘密はあんなに嬉しかったのに、リルとは全然だった。
厨房でパン生地を練っている時、何度もベッラに相談してみようと思ったが、そのたびにグッと堪えなければならなかった。たとえ秘密がバレても罪には問われないが、リルからは一生嫌われるかもしれない。同じ場所で暮らしている以上、それは避けたかった。でも、いくらなんでもアデリーには荷が重すぎると思うのだ。
悶々としながらパン生地を捏ねていると、珍しくベニートが厨房に顔を出した。もちろん毎日食事をしにやってくるのだが、今日はそういうことではなかった。
「アデリー」
呼びかけられて手を止めると、ベニートが手にしていた布に巻かれた物をアデリーへと差し出した。きちんと刃に布が巻かれていたが、形でナイフだと一目瞭然だった。ナイフと言っても小ぶりの物で、アデリーの両掌に乗せて少し飛び出すくらいの大きさだった。
「俺が今出せる担保はこんなもんだ。受け取ってくれ」
慌てて手を洗ったアデリーが、そのナイフを手に取った。
「担保なんて要らないですよ。要らないけれど……中身を見てもいいですか?」
受け取るつもりはなかったが、ただ好奇心に負けて中を見てみたかった。ベニートは手で開けてみろと合図した。包まれた布を解くと、鉄製のナイフが現れた。研がれてピカピカに光った新品のナイフだ。しかも革製の鞘付きで腰に括り付けられるらしい。女性用護身ナイフだとベニートは説明した。
「わぁ、素晴らしい出来栄えですね。この前、蹄鉄も見せてもらいました。ベニートさんの新作を見るのが楽しみです」
あまりに光っているのでまじまじ眺めると、そこに顔が映り込んでいた。アデリーの顔が映るほどの品だ。
「素敵だったわ。これ、お返しします」
あまりに美しい刃なのでしばらく眺めていたかったがアデリーは包み直して返そうとした。
「いや、本当に持っててくれ。俺は鉱石がないと仕事ができん。鉱石を得るには掘りに行くか買うしかないが、どちらも今の俺にはムリだった。アデリーが用立ててくれた物のおかげで仕事が出来そうだ。感謝しとるんだよ」
たまたま厨房に来ていたカリーナがニコニコしながら「受け取ってやんなよ、アデリー。差し出した物を返されるってのは意外と寂しいんだからさ」と、口を挟んだ。
確かにプレゼントしたくて準備していたのに、受け取って貰えなかったら悲しいかもしれない。アデリーはベニートを見つめ、頭を下げた。
「鉱石が届いたら望みの物を作ろう。ナイフより欲しいものを考えておいてくれ」
ベニートの寛大な申し出にカリーナが笑みをたたえたまま、ツッコミを入れる。
「そんなこと言ったって鋳型はあるのかい?」
ベニートはカリーナの方に向いて「そりゃ、あんたが居るからな。ダグマが欲しがってる剣の型も作ってもらいたい」と、当然のように依頼した。
「なんだい、頼む気満々だったのか。ま、仕事する気になったんなら作ってあげようじゃないか。お代はもらうよ? 後払いでいい」
承諾したカリーナにアデリーが「鋳型を作れるのですか!」と驚いてしまった。
「そりゃ、ああいうのも粘土とちょいと特殊な砂で作るものだからね」
「この人は大荷物でここに来ておるのを知っているだろ。その中に材料もあるってわけだ」
元々知り合いだと話していた二人だが、この様子だと仕事でも関わりがあるようだった。
「じゃあ、材料さえ手に入れられたら本当に鍛冶屋を始められるのですね」
出会った日にはもうどうしょうもないほど落ちぶれていたベニートが、ここまで立ち直ったのが奇跡としか思えない。動きがしっかりしたとか、生活が普通にできるようになったとか、そういうレベルではない。仕事をするようになるのだ。
「ああ、皆には迷惑かけたが、またなんとか生きてみようと思っとる。ロセのことも気がかりだしな」
カリーナが腕組みをして、うなずいた。
「今も部屋に毎日来るのかい?」
これにアデリーは大げさな反応をしてしまった。
「え! ロセがベニートさんの元に毎日ですか?」
「そうなんだよ。意外だろ? あの子ったらベニートを自分の親代わりだった爺さんと重ねているようで、実は毎日顔を出していたらしいよ」
ベニートは二回うなずいて「根は良い子だ。まぁ、少し当たりは強いがな」と、笑った。
これにはカリーナもアデリーも苦笑するしかなかった。確かにロセは言い方がなかなか尖っている。でも、この間相談に乗ってもらったアデリーはベニートの言葉に心から賛同することができた。そう、ロセは悪い人ではない。
厨房でパン生地を練っている時、何度もベッラに相談してみようと思ったが、そのたびにグッと堪えなければならなかった。たとえ秘密がバレても罪には問われないが、リルからは一生嫌われるかもしれない。同じ場所で暮らしている以上、それは避けたかった。でも、いくらなんでもアデリーには荷が重すぎると思うのだ。
悶々としながらパン生地を捏ねていると、珍しくベニートが厨房に顔を出した。もちろん毎日食事をしにやってくるのだが、今日はそういうことではなかった。
「アデリー」
呼びかけられて手を止めると、ベニートが手にしていた布に巻かれた物をアデリーへと差し出した。きちんと刃に布が巻かれていたが、形でナイフだと一目瞭然だった。ナイフと言っても小ぶりの物で、アデリーの両掌に乗せて少し飛び出すくらいの大きさだった。
「俺が今出せる担保はこんなもんだ。受け取ってくれ」
慌てて手を洗ったアデリーが、そのナイフを手に取った。
「担保なんて要らないですよ。要らないけれど……中身を見てもいいですか?」
受け取るつもりはなかったが、ただ好奇心に負けて中を見てみたかった。ベニートは手で開けてみろと合図した。包まれた布を解くと、鉄製のナイフが現れた。研がれてピカピカに光った新品のナイフだ。しかも革製の鞘付きで腰に括り付けられるらしい。女性用護身ナイフだとベニートは説明した。
「わぁ、素晴らしい出来栄えですね。この前、蹄鉄も見せてもらいました。ベニートさんの新作を見るのが楽しみです」
あまりに光っているのでまじまじ眺めると、そこに顔が映り込んでいた。アデリーの顔が映るほどの品だ。
「素敵だったわ。これ、お返しします」
あまりに美しい刃なのでしばらく眺めていたかったがアデリーは包み直して返そうとした。
「いや、本当に持っててくれ。俺は鉱石がないと仕事ができん。鉱石を得るには掘りに行くか買うしかないが、どちらも今の俺にはムリだった。アデリーが用立ててくれた物のおかげで仕事が出来そうだ。感謝しとるんだよ」
たまたま厨房に来ていたカリーナがニコニコしながら「受け取ってやんなよ、アデリー。差し出した物を返されるってのは意外と寂しいんだからさ」と、口を挟んだ。
確かにプレゼントしたくて準備していたのに、受け取って貰えなかったら悲しいかもしれない。アデリーはベニートを見つめ、頭を下げた。
「鉱石が届いたら望みの物を作ろう。ナイフより欲しいものを考えておいてくれ」
ベニートの寛大な申し出にカリーナが笑みをたたえたまま、ツッコミを入れる。
「そんなこと言ったって鋳型はあるのかい?」
ベニートはカリーナの方に向いて「そりゃ、あんたが居るからな。ダグマが欲しがってる剣の型も作ってもらいたい」と、当然のように依頼した。
「なんだい、頼む気満々だったのか。ま、仕事する気になったんなら作ってあげようじゃないか。お代はもらうよ? 後払いでいい」
承諾したカリーナにアデリーが「鋳型を作れるのですか!」と驚いてしまった。
「そりゃ、ああいうのも粘土とちょいと特殊な砂で作るものだからね」
「この人は大荷物でここに来ておるのを知っているだろ。その中に材料もあるってわけだ」
元々知り合いだと話していた二人だが、この様子だと仕事でも関わりがあるようだった。
「じゃあ、材料さえ手に入れられたら本当に鍛冶屋を始められるのですね」
出会った日にはもうどうしょうもないほど落ちぶれていたベニートが、ここまで立ち直ったのが奇跡としか思えない。動きがしっかりしたとか、生活が普通にできるようになったとか、そういうレベルではない。仕事をするようになるのだ。
「ああ、皆には迷惑かけたが、またなんとか生きてみようと思っとる。ロセのことも気がかりだしな」
カリーナが腕組みをして、うなずいた。
「今も部屋に毎日来るのかい?」
これにアデリーは大げさな反応をしてしまった。
「え! ロセがベニートさんの元に毎日ですか?」
「そうなんだよ。意外だろ? あの子ったらベニートを自分の親代わりだった爺さんと重ねているようで、実は毎日顔を出していたらしいよ」
ベニートは二回うなずいて「根は良い子だ。まぁ、少し当たりは強いがな」と、笑った。
これにはカリーナもアデリーも苦笑するしかなかった。確かにロセは言い方がなかなか尖っている。でも、この間相談に乗ってもらったアデリーはベニートの言葉に心から賛同することができた。そう、ロセは悪い人ではない。
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